返信先: 【新企画】桜志会のイメージキャラ小説

トップページ フォーラム 掲示板 【新企画】桜志会のイメージキャラ小説 返信先: 【新企画】桜志会のイメージキャラ小説

一井 亮治
参加者

     第三十七話

     桜子が飛ばされた時空、それは豊臣政権の末期である。そこで桜子は京子と再会を果たした。
    「京子。一体、どうなってるの!?」
     困惑する桜子に京子が事情を説明した。
    「すべての始まりは秀吉様の子種なのよ。セツナは明らかにここに細工を施した。本来なら生まれてきたかもしれない子孫の種を根こそぎ奪ったの」
    「それって立派な歴史改変じゃ……」
    「まぁね。ただ厄介なのは、実際の正史もそう変わりはないってことなのよ」
     京子がいう通り、〈戦国時代の三英傑〉として並び称される家康は十六人、信長に至っては二十人以上の子をもうけたのに比して、秀吉の実子は男子三人女子一人であり、三男の秀頼以外は幼少で短い生涯を閉じている。
     ただ、子種の無さを背景に、セツナが秀吉を焦らせ、暴君へと駆り立てた点は否めない。
    「秀吉様に利休様を斬らせ、朝鮮に出兵し、国を疲弊させ晩節を汚させたじゃん。その背後にセツナがいる。そこで生まれた多くの血が、現代の大阪城を起点にした時空テロに繋がっている」
    「じゃあ京子。一体、どうすれば……」
    「秀吉様とセツナを切り離すしかない」
     ここで京子は一枚のタブレットを取り出し、画面を開いた。そこには、克明な地図とともに作戦の概要が記されている。
     それを丹念に読み込んだ桜子は、思わず唸った。
    「よく出来てるよね。この作戦」
    「あぁ、立案はあのオニヅカだよ。頭だけは回るんだよ、あの悪党っ!」
     京子は怒り気味にタブレットを戻すと、桜子と委細を詰め席をたった。
    「じゃぁ行こうか」
    「オッケーじゃん」
     二人はパンっとハイタッチを交わすと、作戦に則って秀吉のいる大阪城の天守閣へと忍び込んでいった。
     

     
     突如として現れた桜子と京子に病床に伏す秀吉以下、家臣団は驚きを隠せない。厄介なのは、背後にセツナと翔が控えている点だ。
    「曲者だ!」「ひっ捕えよ!」
     たちまち包囲される二人だが、桜子が叫んだ。
    「セツナ、アンタは時の権力者を手中に収め、一体、何を企んでいるの!?」
    「ふっ、決まったこと。この大阪城を起点に歴史の大転換を図るのよ。時空に散らばる全てアングラーマネーを集約し、クリスタルでマネーロンダリングと租税回避を行う」
    「それは、時空課税上最大の罰則よ!」
     吠える京子にセツナは構うことなく続けた。
    「無税国家構想、その大いなる理想を実現するには、多少の犠牲はつきものなのよ」
    「詭弁だわ」
     吠える京子だが、セツナは構うことなく二人を拘束した。桜子からクリスタルを奪うや、秀吉の元から連行し大阪城内の地下牢へと放り込んだ。
     冷たい地下牢に腰掛けながら桜子が囁く。
    「ここまでは、作戦通り?」
    「まぁね。あとはクリスタルへの仕込みがどこまで効果を発揮するかね」
    [778479500/1708246660.png]
     京子は、あぐらをかきながら腕をくみ考えている。そんな中、桜子は根本的な疑問を投げかけた。
    「ねぇ京子、そもそも歴史のクリスタルって、どうやって生まれ、どう形成されていったの?」
    「フフッ……実はあのクリスタルはね、三種の神器が歴史を歩んできた記憶が結晶したものなの」
    「三種の神器? あの草薙の剣と八咫鏡、八尺瓊勾玉とかいう皇位継承に出てくるトンデモ宝具?」 
    「そうよ。言わばこの日本が辿って来た記録媒体ってわけ」
     京子が語るトンデモ設定に桜子は、改めて驚いている。京子はさらに続けた。
    「今、セツナはこの大阪城を起点に桜子のクリスタルを解明し、その力を発揮させようとしているじゃん。それがどこまで上手くいくかで、作戦の成否は変わってくるはずよ」
    「なるほどね……」
     桜子は納得しつつも、さらに問いを重ねる。
    「ところであのセツナなんだけど、確かバグを侵され設計者の手を離れ闇の勢力との繋がりを持ってしまったのよね。けど、アングラーマネーを原資に無税国家構想を打ち立てようとしている」
    「そうなの桜ちゃん。それがセツナの厄介なところじゃん。徴税ゴーストとして崇高な理想を持ちながら、反社勢力と繋がりアングラーマネーを当てにしている」
    「うん。でさ、今回の全ての原因となった設計上のバグなんだけどね。実は設計者がわざと仕込んだもので、設計者自身が消失を装いながら、実はどこかで存命しているんじゃないかって……」
     この桜子の疑問に京子は、黙り込んでいる。やがてしばしの間の後、冷徹な目で桜子に問うた。
    「桜ちゃん、なぜそう思う?」
    「分からない。ただ私には偶然と振る舞いつつ、意図的に理想を実現させようという設計者の隠れた意地が感じられるのよ」
    「なるほど、ね……」
     京子はしばし沈黙の後、観念したように言った。
    「桜ちゃん。リクドウ・シックスは知ってるね?」
    「よく分かんないけど、未来の時空課税省庁を構築する組織思想でしょう」
    「えぇ、その中にあるべき課税社会をテクノロジーから実現する極秘の調査機関〈サクラG課〉が存在するの。そこを統括する人物こそが、今回の騒動を偶然を装って引き起こした張本人だと言われているわ。名前は……」
     京子からその名を知らされた桜子は、思わず我が耳を疑った。
    「え、じゃぁ京子。それって……」
    「そういうこと。それが全ての真相よ」
     桜子は驚きの声を上げるとともに、つぶやいた。
     ――道理で私に白羽の矢が立ったわけだ。
     とそこで巨大な音が鳴り響句。何事かと身構える桜子だが、どうやら京子の方は見当がついているようだ。
    「始まったわね」
     京子がほくそ笑む中、地下牢に駆け寄る人影が現れた。
    「翔君!?」
     驚く桜子に翔は、地下牢の鍵を開けるや二人を解放し天守閣へと促した。
    「二人とも早く出ろ!」
    「ちょっと翔君。一体、何がどうしたのよ」
     桜子が問うものの返答はない。だが、大体、何が起きているのか分かりかけていた。
     ――おそらくクリスタルに何かがあったんだ。
     やがて、天守閣についたところで桜子は、京子と目配せを交わす。そこにはクリスタルにあらかじめ仕込まれたプログラムが作動し、強烈な光となってセツナを巻き込んでいる。
     それを見た京子が言い放った。
    「セツナ、悪いけどそのクリスタルには細工を入れさせて頂いたわ。あなたに残された道は二つ。クリスタルとともに滅びるか、未来の時空課税局で裁きを受けるか、よ」
    「ふん、この私を騙したってことかい」
     セツナは、クリスタルからの分離を図るものの、一度ゴーストと融合したクリスタルからの解放は簡単ではない。
    「年貢の納め時よ。セツナ」
     勝ち誇る京子だが、セツナはここで意外な手を打って出た。何と融合したクリスタルから強引に分離すべく、自らのボディーを切り落としたのだ。
     肉を切らせて骨を断つセツナに京子は、意外さを隠せない。さらにセツナは、残る手で刀を引き抜き二人に反撃に打って出た。
     完全に無防備に晒された二人に鋭い刃が振り下ろそうとされた矢先、突如、セツナの動きが止まった。
     振り返ると、寝床にあった病状の秀吉がセツナを日本刀で斬り捨て立っている。
    「お……おのれ……」
     ふらつくセツナだが、なおもしぶとさを失っていない。翔の肩を借りるや、持てる全ての力を使って、異時空へ消えて行った。
    「逃さないわ!」
     京子は二人を追って異時空へと飛んでいく。一方の桜子は、セツナの刀を鞘に納めるや秀吉に頭を下げた。
    「あの……助けて頂いてありがとうございます」
    「礼には及ばん……そなたらは以前、会った時空の旅人であろう。どうやらワシは長い悪夢を見ていたようだ」
     やがて、秀吉は力尽きたのか、その場に崩れ落ちた。慌てた桜子が周囲の家臣団とともに秀吉を寝床へと運んでいく。
    「その方ら、しばし下がってはもらえないか」
     秀吉の申し出に家臣達は、驚き引き止めるものの、その意思は固い。やむなく周囲から皆が姿を消していく中、残された桜子は秀吉を枕元から座視している。
    「時空の旅人や……ワシには、どうしても敵わなかったものがある。分かるか?」
     弱々しい声を絞り出す秀吉に桜子は、首をかしげる。やがて、秀吉は小さく笑いながら言った。
    「信長様、だ。今でも夢に見る。草履取りから瓢箪片手に鷹狩りのお供をすべくよく走った。誰よりも可愛がってもらったが、ワシはその信長様が築いた織田家の天下を全て簒奪したのだ。だが、それでも信長様を超えることは出来なかった」
     果たして信長様はこんな自分をどう見ているのか、恐ろしくて仕方がないと述べる秀吉に桜子は、信長の最期を話した。
    「確かに無念がられてはおりました。ただ、次の天下人が秀吉様であることを告げると、実に楽しげに笑われましたよ。それでこそサルだ、と」
    「ほぉ。それは、まことか!?」
    「もちろん。まさに〈戦国〉だ、と」
    「そうか……流石は信長様だ。やはり、ワシでは勝てなかった。感服だ」
     敗北感に涙すら見せる秀吉に、桜子はフォローを入れる。
    「それでも秀吉様は、天下を取られたじゃないですか。租税上重要な太閤検地も見事にこなされた」
    「所詮は信長様の物真似に過ぎん。確かに追いつくことは出来たかもしれぬが、追い越すには至らなかった。それがワシの器の限界だ」
     ここで秀吉は大きく咳き込んだ。慌てて背中をさする桜子に、秀吉は絞り出すように囁いた。
    「お主が追っているあのセツナとやらだがな。あれは相当なやり手だ。今度は次の天下で己の野心を叶えるつもりだろう。おそらくそこが最終決戦となろう。覚悟してかかることだ」
    「はい。秀吉様もどうかお気をしっかり」
    「フフッ、露と落ち 露と消えにし 我が身かな なにわのことも 夢のまた夢……ワシの人生など本当に夢の中で見る夢だったんじゃないかと思う。人の一生など実に儚い」
     そう告げるや秀吉は永い眠りについた。享年六十二歳――まさに戦国を駆け抜け、天下に上り詰めた怒涛の一生であった。