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一井 亮治
参加者

     三話
     
    「日本の特徴?」
     桜子の問いに首を傾げるのは、兄・志郎である。書籍が山積みの部屋で大学の研究に向き合っていたところを、桜子が割って入り答えを求めたのだ。
     無論、狙いはシュレから求められている歴史のクリスタルの解明にある。そんな桜子に志郎が切り出した。
    「やはり税制でみれば、シャウプ勧告だろうな。社会情勢に応じ修正されてきたとはいえ、現在も我が国の税制の基礎だ」
    「や、税理士としての模範解答はそうなんだろうけど、もっと分かりやすいやつってない?」
     安直さを求める桜子に志郎は、腕を組み考慮の後、言った。
    「日本語かな。平仮名やカタカナがあり、漢字に至っては訓読みと音読みに分かれ、困ったことにその使い分けに法則性がない。だが、そんな複雑さを持ち前の器用さで使いこなしてしまう。まさにガラパゴスだ」
    「確かに」
     納得する桜子に持ち前の知的好奇心をそそられたのか、志郎は「研究してみよう」と机上のパソコンを立ち上げた。
    「桜子、『黄金虫』って知ってるか?」
    「何それ、おいしいの?」
    「食い物じゃない。エドガー・アラン・ポーの短編推理小説だ。そこに暗号解読が出てくる。使用頻度を調べ最も多い記号が、アルファベットでよく使われる〈e〉だとして解読していくんだ」
    「へぇ、頭っいい! じゃぁ日本語はどうなんだろう」
    「それを調べるのさ」
     志郎は、画面に夏目漱石の『草枕』を開くと、さらにエクセルを立ち上げ縦軸にアイウエオの母音を、横軸にアカサタナの子音を作りリストにした。
     そこで、草枕の文章に出てくる文字の使用頻度を一つ一つ入力していったのだが、集計すると思わぬ傾向が出た。桜子が画面を指差しながら言った。
    「志郎兄、これって……」
    「あぁ、間違いない。母音の〈ア〉が多く、〈エ〉が少ない。なぜだ?」
     顎を手に乗せ画面を睨む志郎に、桜子は素直な意見を出した。
    「〈ア〉の母音が一番、発音しやすいからじゃない?」
    「あぁ……確かにそうだ。桜子、お前の言うとおりだ。凄いじゃないか」
     驚く志郎に桜子は、思わず照れつつもさらに言った。
    「この傾向って、どの場合でも同じなのかな」
    「人名とかどうだ。女性なら〈子〉で終わる場合が多いから、母音も〈オ〉が多そうだ。おそらく違う傾向が働くはずだ」
     そこから知的探究心に火がついた二人は、日本語の言語研究をデータから読み解き始めた。まさにID野球ならぬID文学である。
     やがて、二人の研究が佳境に入り始めた矢先、桜子のポケットが光を放ち始めた。歴史のクリスタルである。
    「おい桜子、何だよそれ!?」
    「や、これはその……歴史のクリスタルって言ってね」
     桜子の説明もままならないうちに、二人はクリスタルが放つ光に飲み込まれ、現代から姿を消した。

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