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一井 亮治
参加者

     八話

     例の如く、歴史のクリスタルによって乱暴に放り出された時空――それは一面が稲で覆われた一帯である。
    「ここは?」
     地面から起き上がった桜子が辺りを見渡していると、戸惑う男達の声が上がった。
    「何だ何だ?」「お前は何者だ!?」
     突然、宙が光り見たこともない身なりの女性が現れたのである。驚くのも無理もないのだが、一人の男が何やら思い当たる節があったらしく、周囲に指示を下した。
    「皆、控えろ!」
     たちまち男達は桜子の前に平伏した。
    「え、何?!」
     困惑する桜子に一人の男が切り出した。
    「貴女様のことは姫様より伺っております。是非、直々にお会いになりたいと」
    「姫様? 誰よそれ?」
    「いやいや。お名前を口にするのも恐れ多い方にございます」
     それを聞いた桜子は、思わず唸った。どうやら今度は、日本の歴史でもかなりの最古の時代に来てしまったらしい。
     その後、桜子は男達に連れられ姫と奉られる女王の神殿へと案内された。恐る恐る中へと足を踏み入れた桜子は、そこに見知った人影を発見し、声を上げた。
    「志郎兄!」
    「おぉ、桜子じゃないか!」
     二人は駆け寄り、再会を喜び合った。
    「志郎兄、なぜこの時空に? セツナに捕えられてたんじゃ……」
    「上手く隙をついて逃げ出したんだ。そこで追手から逃げてたら導きの声があって、この時空に放り込まれたって訳さ。全てはこの方のおかげだよ」
     そう手を差し出して案内するのは、祭壇に佇む一人の女性である。いかにも昔の巫女といったその人相風体に、桜子は声を上げた。
    「え、もしかして卑弥呼!?」
    「桜子、ちゃんと〈様〉をお付けしろ」
     志郎の注意に卑弥呼は「構いませんよ」と微笑んで見せている。
    「でも志郎兄、なぜクリスタルは弥生時代を?」
    「多分、日本において租税にまつわる最古の記録が残された時代だからだろう。『魏志倭人伝』に〈租賦を収む。邸閣あり〉と記述がある」
    「へぇ、そうなんだ」
     納得する桜子に志郎は改めてうなずき、卑弥呼に頭を下げた。
    「卑弥呼様。ありがとうございます。おかげで俺達兄妹は再会できました」
    「構いませんよ。私は生まれつき特異体質でね。そう言ったことが出来るんです。それにお二人を助けたのには、理由がありましてね」
    「え、それはなんですか?」
     桜子が志郎とともに聞き耳を立てていると、卑弥呼は苦悩の表情で一本の稲穂を手に切り出した。
    「全ては、このコメが始まりなの」
    「コメ? 稲作のこと?」
     キョトンとする桜子に志郎が補足した。
    「稲作って、この時代の一大革命だったんだ。狩猟採集から人類を解放した訳だからな」
    「えぇ、志郎さんの言う通り、コメは人を幸せにするはずだった。これまででは出来なかった貯えができた訳ですから。ただ、この貯えは同時に貧富の差も生んだ。土地や水をめぐる争いの種ともなってしまったの」
     卑弥呼は、一息つくや二人に訴えた。
    「私はコメがもたらした負の側面をなくしたいの。どうすればいいと思う?」
    「俺は放っておくべきだと思います」
     そう主張するのは、志郎だ。曰く、富める者がより豊かになれば、貧しいものにもその恩恵が滴り落ちる、と。いわゆるトリクルダウン理論である。
     だが、桜子はこれを否定した。
    「私は、ある程度の公権力が必要だと思う」
     このいわゆる小さな政府と大きな政府の是非は、現代社会においても一つの争点となり続けている。
     延々と論争を広げる二人だが、おぼろげながらも答えは出ていた。格差の是正は税金が一つの解となり得る、と言う点だ。
    「公平な租税で格差を是正する、と言う訳ですね。お二人の話はわかりますが、何を持って公平とすべきなのか……」
    「えぇ、全員に一律の税を課す水平的公平と、高い担税力を持つ者により重い負担を課す垂直的公平に分かれます。俺達の時空では、そのバランスが鍵なんですが、まだこの国はその時期にない」
     志郎は一息つくや考慮の後、卑弥呼に進言した。
    「卑弥呼様、どうでしょう。ここは一つ、進んだ国に学ぶと言うのは?」
    「進んだ国……つまり、魏に学べ、と?」
     卑弥呼の問いに志郎は、うなずく。
    「租税は歴史の中で、そのカタチを何度も変えてきました。社会の変化によって、求められるあり方も変わるからです。この国は、いい意味でも悪い意味でも島国だ。今は大陸に使者を派遣し、教えを乞うべきときかと」
    「しかし、我が国は小さい。果たして魏が応じてくれるかどうか」
    「小さいからこそ、です。胸襟を開き多くの知恵や進んだ考えを取り入れ、この国なりの形にアレンジする。そうすれば、おのずと答えが見つかりましょう」
     志郎の説得に卑弥呼は、大いにうなずいている。その表情は実に晴れやかだ。
     そこで桜子が持つ歴史のクリスタルが光を放ち始めた。
    「どうやらお別れのようですね」
     名残惜しそうな卑弥呼に、桜子が歩み寄りその手を取り合った。
    「卑弥呼様、頑張ってください」
    「えぇ、あなた達もね。応援しているわ」
     卑弥呼と互いの健闘を誓い合った桜子・志郎は、クリスタルに導かれるが如く光に飲まれ、この時空から姿を消した。

    「結局、卑弥呼様って何者だったのかな」
     現代に戻った桜子の疑問にシュレが応じた。
    「時代に対する共感能力が強かったんだろう。時空理論上、ごく稀にそういった力が宿ることがある」
    「シュレ、俺も聞きたいことがある」
    「なんだい?」
     聞き耳立てるシュレに志郎が、言った。
    「あのセツナだが、妙にこの現代に感度がいい、というか独特のこだわりを感じるんだ。奴の狙いは、歴史のクリスタルによる時空を超えた巨額脱税だろう。その背後に、この時代の税理士が絡んでいるって線はないか?」
    「ふっ、相変わらず志郎は勘がいいね。丁度、同じことを考えていたところさ。十分にありえる話だ。もしそうなら……」
    「いずれこの時空で対決するときが来る、だな?」
     念を押す志郎にシュレは、黙ったまま静かにうなずいて見せた。

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