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一井 亮治
参加者

     十話

     税理士への決意から数日後、桜子は志郎やシュレと敵対勢力のセツナを調べている。丁度、両親が海外に出払っていたこともあり、税理士事務所を陣取り情報収集に励んだ。
     鍵は翔だ。先日のデートで桜子を嵌めた後、忽然と姿を消したのだが、その痕跡からセツナらに絡む巨額脱税の全容が明らかになり始めたのだ。
    「どうやら、かなり凄腕の税理士が絡んでいるみたいぜ」
     入手した資料から憶測を述べるのは、志郎だ。曰く、至るところで現代会計と税法を駆使し、時空課税をもみ消す操作がなされているという。
    「こんなスキーム、普通の税理士では思いつかない。相当なやり手だ」
     志郎の意見にシュレも同意し、感想を述べた。
    「かなり大掛かりなヤマになるね。時空を超えて政・官・財に根を張る巨大シンジケートだ。武器密売に違法カジノ、巨額脱税、まさにアングラーマネーのオンパレードさ」
    「シュレ、お前の力で何とかならないのか?」
    「難しいね。僕らは所詮、量産型ゴーストに過ぎない」
    「つまり、プロトタイプに劣るってこと?」
     口を挟む桜子にシュレが苦々しくうなずく。それを見た志郎は、首を傾げながら尋ねた。
    「シュレ、普通は試作機の方が後継機種に劣るはずだ。OSが違うのか?」
    「組み込まれたAIが違うんだ。未知のテクノロジーが使用されていたらしい。それが外部からのハッキングにより暴走し、逃亡を許してしまった」
    「そのうえクリスタルまで奪われれば、セツナは地下経済を牛じる女王になってしまう訳か」
     腕を組み唸る志郎にシュレも同意している。だが、桜子は今一つ納得がいかない。試しに聞いてみた。 
    「ねぇシュレ。セツナにそこまでの力があるなら、もっと強引に奪いに来てもよさそうじゃない? わざわざ翔を使って回りくどいよ」
    「ふっ、そこが歴史のクリスタルの難しいところさ。コイツはね。一定の条件下でしか譲渡できないんだ。先日は意図的にその状況を作って翔を誘い出した。だが、今度はそうはいかないだろう」
    「オーケー。まずは、この現代でセツナの協力者を探ろう」
     志郎はノート端末を開くや、独自に組んだサーチエンジンで検索プログラムを走らせてみた。そこでヒットした項目をリストアップしたのだが、奇妙な共通点が見て取れた。
    「志郎兄、この〈ハル税理士法人〉って……」
     画面を指差す桜子に志郎がうなずく。
    「昨年、閉鎖した税理士法人だ。おそらくダミーだろう。時空工学上のトンネル会社に悪用していた可能性がある。シュレ、何か手掛かりはないか?」
    「ノーコメント」
     シュレは肩をすくめ、お手上げの仕草で言った。
    「悪いけど、ここは僕らにとってアンタッチャブルな領域なんだ。イエスともノーとも言えないね」
    「何よそれ!」
     声を上げる桜子を志郎がなだめながら言った。
    「俺が行こう。虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ」
    「だったら私も行く!」
     立ち上がる桜子を志郎は、手で制す。
    「桜子、お前まで危険に晒せないよ」
    「気にしないで。これは私が持ち込んだ案件よ。人任せになんか出来ない」
     頑なに首を振る桜子に志郎は仕方なくうなずき、ともに家を出た。
     約半時間ほど電車に揺られた二人は、駅を降りハル税理士法人が入っていた雑居ビルへと入った。
     目的の階でエレベーターを降り、部屋の前へとたどり着いた志郎は、桜子を下がらせ慎重にノブを捻ると扉が自然と開いた。
    「鍵が空いたままだ……」
     志郎はしばし躊躇した後、桜子とこっそり部屋へ忍び込んだ。中は実に閑散としており、税理士法人があった痕跡は残されていない。
    「おかしい。確かにここがセツナが時空移動を行う拠点だったはずだ。一体、どうなっているんだ……」
     桜子とともに首を傾げる志郎だが、その背後の扉が閉まり、図太い男の声が響いた。
    「よく来たね。源志郎君、桜子君」
     二人が驚いて振り返ると、そこには一人の成人男性が立っている。背広を羽織っている手前、ビジネスマンとも見て取れるが、その顔は二十歳半ばと若さに溢れている。
     やがて男は、神経質そうにメガネを手で押さえるや、名刺を取り出し志郎の足元に投げた。恐る恐るその名刺を拾った志郎は、そこに記された名を読み上げた。
    「アラン・オニヅカ?!」
    「え、それって確か不祥事を働いて税理士資格を剥奪されたってニュースが……」
     記憶を辿る桜子にオニヅカがうなずく。
    「その通りだ。君達なら必ずここへ来ると思っていたよ」
    「セツナの一派か。悪いが歴史のクリスタルを渡すつもりはねぇよ」
     吠える志郎にオニヅカは、笑ってかぶりを振る。
    「ふっ、いつまで強がりを言っていられるかな。まぁ、本来は俺の出る幕じゃなかったんだがね。翔の奴がしくじったから、出ざるを得なくなった。困った話だ」
     オニヅカは肩をすくめつつ、二人に言った。
    「歴史のクリスタルで救国ごっことは実に嘆かわしい。そんなことをしても、この国はもう助からないさ。なら溺れる船でひと稼ぎと行こうじゃないか。どうだ。手を組むつもりはないか?」
    「お断りだ!」「この売国奴!」
     罵る志郎と桜子にオニヅカは、やれやれとため息混じりに手を振り、背を向ける。部屋を出ようとした手前で、意味深なセリフを吐いた。
    「〈リクドウ・シックス〉。調べてみることだ。セツナにまつわる情報に行き着く」
     志郎はキョトンとしつつ、オニヅカに問うた。
    「なぜそんな情報を俺達にバラす?」
    「ハンディだよ。せいぜい健闘したまえ」
     オニヅカは不気味に笑いつつ、その場を去って行った。

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