返信先: 【新企画】桜志会のイメージキャラ小説
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十一話
オニヅカとの接触から数日間、桜と志郎は〈リクドウ・シックス〉について調べを進めたものの、大した情報に行きつかない。
「参ったな……」
頭を抱える志郎に桜子も困り果てている。調査が暗礁に乗り上げる中、志郎のスマホに一本のメールが入った。
送信主は海外に出張中の父・善次郎である。予定を切り上げ帰国するとの内容だったのだが、問題はメールの後半にある。
「母さんも一緒らしい」
「えぇ!?」
桜子は思わず驚きの声を上げた。この母・ソフィアは著名な国際税務ライターとして海外取材に明け暮れ、滅多に戻ってくることはない。桜子や志郎と同様に褐色の肌を持ち、ラテン系の血を引いている。
性格もよく言えば天真爛漫、要するに自己中で周りに惑わされず我が道を突き進むその姿勢は、一家を散々に振り回してきた。
「とにかく空港へ迎えに行こう」
「分かった」
桜子はうなずき志郎と家を出た。車に乗りハンドルを手に取る志郎の隣で、桜子は頭を痛めている。というのも、ソフィアが帰ってくるとロクなことがないのだ。
「今回も色々と引き摺り回されそうよ」
嘆く桜子に志郎は「まぁ、そう言うなよ」と早くも諦め顔だ。
その後、高速のインターを出て空港へと到着した二人が車内で待っていると、遠方から手を振る人影が現れた。両親の善次郎とソフィアである。
「突然にすまなかったな。母さんが急遽帰国すると言い出してな」
恰幅のいい善次郎が突き出た腹を揺らせながら、穏やかな顔で二人に笑いかける。一方のソフィアは桜子に目をくれたまま、じっと固まっている。
何を言い出すのかと待っていれば、思い立ったようにこう言い放った。
「ランチ。寿司が食べたいわ」
ちなみに予定では直帰し、家族水入らずの昼食となっていたのだが、鶴の一声で外食に変更とあいなった。そこから始まったのは、完全なるソフィアの独壇場である。
寿司をペロリと平らげるや、やれショッピングだやれ展望台だと一家を引き摺り回していく。いつものこととは言え、桜子は嘆きが止まらない。
――困った母親だ。
志郎や善次郎と目配せを交わしつつ、母の気まぐれに貴重な休日が潰されていく徒労感を感じている。やがて、桜子はため息混じりにソフィアに問うた。
「それで母さん、今回はいつまで日本にいられるの?」
「そうね、あと三時間ってとこかしら」
「えぇ!? 今日帰国したばかりじゃない」
「桜子、タイムイズマネーよ」
ソフィアは、突き立てた指をチッチッチッと振って見せた。いつもの事とはいえ桜子は、善次郎や志郎とともに呆れている。
そんな中、善次郎のスマホに着信が入った。どうやら仕事の関係で顧問先に赴くことになったらしい。
「桜子、悪いが母さんを頼む」
そう言い残し、去っていく善次郎と志郎を見送った桜子は、ソフィアとともに空港へと戻った。
すでに時間は夕刻で日が大きく傾いている。外から強い西日が差し込む中、二人はベンチで肩を並べフライトまでの時間を待った。
すでに疲労困憊の桜子だが、ソフィアは徐ろに切り出した。
「桜子。アンタ、何かあったわね?」
これには桜子も返事に詰まった。
「や、何かって、別に何も……」
「嘘、会った瞬間に分かったわ。あぁ、変わったなって。試しに今日一日、ずっと見ていたけど間違いない。以前は目が死んでいたけど、今は何かと闘っている目になってる」
ソフィアの鋭い観察眼に桜子は、言葉を失っている。確かにあれから色々あった。だが全ての事情を晒す訳にもいかず、可能な範囲内で現状を伝えた。
その一つ一つをソフィアは黙って聞いていたが、話が佳境に入るや驚きの表情で腕を組み、最後には唸り声を上げた。
「ふーん……歴史のクリスタルねぇ。救国とともに税理士を目指す決意を固めた、か」
「もちろん、皆に迷惑がかからないようにするつもりだから」
「桜子、それがアンタの悪いところよ」
ソフィアはピシャリと否定し、持論を展開した。
「いい? 桜子、迷惑はかけていいの。遠慮するあまり引きずられる側に甘んじるか、逆に周囲を引きずり回してでも時代や世界を変える側になるか、この二つしかない。だったら常に騒動の中心にいないと」
「それは、母さんだから出来るのよ。私は特に取り柄もないし、いつも周りに振り回され放し……」
「私もそうだった。褐色の肌で差別も受けたわ。けど、次第にそういったことに慣れて、今は逆に振り回す側になっている。少なくとも私は、そうやって生きてきたし、その結果として今の地位がある」
フライトのアナウスが流れる中、ソフィアは立ち上がると、桜子にURLが書かれたメモ書きを手渡した。
「桜子、アンタの言う〈リクドウ・シックス〉だけどね。ここを当たりなさい。おそらく手がかりになるから」
「え、あぁ……ありがとう」
ソフィアは、メモ書きを受け取る桜子の手をギュッと握った。
「力(リキ)を送ってあげる。でっかく飛びなさい。地球の裏側からでも応援するから。アンタの成長を楽しみにしてるわ」
やがて、ソフィアは桜子と別れ機内へと消えていく。その背中を見送る桜子の手には、ソフィアの温もりが残り続けていた。