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一井 亮治
参加者

     第十七話

     桜子が訪れた時空は、飛鳥の宮中である。どうやら三韓の使者をもてなす儀式が進行中の様だ。皇極天皇を前に石川麻呂が使者の文を読み上げていた。
     無論、蘇我入鹿も同伴している。
     ――いよいよね。
     桜子がつぶやき様子をうかがうものの、何ら変化は見られない。すでに石川麻呂の読む文は終盤に差し掛かっている。
     どうしたことかと首を傾げていると、それは起きた。怖気付く手勢の兵に代わって中大兄皇子が自ら白刃を引き抜き、蘇我入鹿に襲いかかったのだ。
     この突然の出来事に王の間は、騒然となった。手傷を負った蘇我入鹿が叫ぶ。
    「大王様、私に何の罪があってこの様な仕打ちを……」
     だが、中大兄皇子は手を緩めない。やがて、周りの手勢も加わり、たちまち蘇我入鹿を討ち取ってしまった。
     蘇我入鹿の首が刎ねられる中、中大兄皇子は皇極天皇に曽我氏の横暴からクーデターに及んだ旨を説明している。さらに中臣鎌足が周囲の兵に命じた。
    「いくさだ。曽我氏を一掃する」
     この乙巳の変を機に歴史は、大化の改新へと大きく舵を切ることとなる。次々に兵が中大兄皇子の指揮の下に入り、蘇我蝦夷らの討伐へと動いていく。
     一方、桜子に気付いた中臣鎌足が声を上げた。
    「桜子じゃないか。なぜここへ?」
    「兄の行方を追ってやって来たんです」
     桜子の返答に中臣鎌足は、大いにうなずき言った。
    「志郎だね。彼ならおそらく飛鳥寺だ。これから軍勢を送るつもりだが……」
    「鎌足さん。私を連れて行ってください!」
     桜子の懇願を中臣鎌足は了承し、行軍に加えた。当初は少数だったこの軍だが、クーデター成功の噂を聞いた豪族達が次々に加わり、いつしか一大兵力へと膨れ上がった。
    「こんなに大勢の軍が……」
     驚く桜子に中臣鎌足がうなずく。
    「それだけ曽我氏が権力を独り占めにして、多くの豪勢の恨みを買っていたってことさ。だが、これでようやく本来の政治ができる。唐に負けない律令国家を目指せるのだ」
    「中大兄皇子は大王に?」
    「いや、それは難しいだろう。強引に権力を簒奪したんだ。すぐ大王になれば反感を買う。まずは皇太子として政治改革を進めて頂こう」
     中臣鎌足は改革へと熱弁を振るった。公知公民・租庸調の整備・班田収授等、やることは山積だ。
    「あとは、唐にならって年号を定める必要があるな。何か改革を知らしめるいい名は、ないものか……」
     頭を捻る中臣鎌足に桜子が言った。
    「鎌足さんの思いが伝わる名がいいですね」
    「ふむ。私は常々思っていた。この国は、まだその潜在力を発揮し切れていない。これを機に大化けさせたいのだが……そうだな。〈大化〉でいこう」
     うなずく中臣鎌足の表情は、実に満足げだ。
     やがて、前方に蘇我蝦夷氏が防備を固める屋敷が現れた。だが、その兵力は微々たるものだ。数と勢いに押され、すでに落城寸前である。
    「蝦夷の首は、見つかったか?」
     中臣鎌足が問うものの、伝令の兵はかぶりを振っている。焦りを覚える中臣鎌足の傍らで、桜子は首を傾げている。
     ――確か正当な歴史では、蘇我蝦夷はここで自害するはずだ。だが、その首が見つからないなんて……。
     そんな矢先、桜子は炎に包まれる屋敷の中に求めていた人影を見つけた。
    「志郎兄!」
     声を上げる桜子に中臣鎌足は、うなずき桜子を解放した。
    「行きなさい。くれぐれも気をつけて」
    「はい。鎌足様もお元気で」
     別れを告げた桜子は志郎を求め、炎の中へと飛び込んだ。至る箇所で柱が崩れ落ちる中、屋敷の裏手から野原へと抜けた桜子は、目の前に佇む人影に声を上げた。
    「志郎兄っ!」
    「桜子か、久しいな」
     振り返るその顔は、紛れもなく志郎そのものだ。ただ、その表情はどこかよそよそしい。
    「志郎兄。一体、どこへ行く気? 一緒に帰ろう」
    「桜子、悪いが俺は帰らない」
    「どう言うことよ!?」
     声を荒げる桜子に志郎は、思わぬ返答をよこした。曰く、セツナ一派に加わり歴史を改変してでも、この国を変えるつもりだ、と。
    「俺は分かったんだ。もうこの国は助からない。亡国の憂き目にあうくらいなら歴史を改変してでも、救国の財源を時空移動に求めるしかないって」
    「ちょっと待ってよ志郎兄、それは歴史のクリスタルで……」
    「手緩い。もう手遅れなんだ。桜子もこっちに来いよ」
     志郎の勧誘に、桜子は動揺を隠せない。
     ――あの志郎兄は、すっかりセツナに洗脳されてしまっている。
     桜子は愕然としつつ、なおも説いた。歴史に犠牲を強いるセツナのやり方はあまりに急進的であり、時空課税の枠組みを根本的に覆すものだ、と。
     だが、志郎の耳には届かない。
    「桜子、俺はシュレではなくセツナに賭ける。民主主義ごっこで何一つ決められない日本に君主制を敷き、犠牲を強いてでも未来を変える」
    「志郎兄、それはあまりに性急過ぎる。歴史って皆で作るものでしょう?」
    「大方はな。だが、時としてごく限られた人間にその裁量を委ねるときがある。今がその時なんだ!」
     志郎の強行姿勢を前に、桜子の言葉はことごとく弾かれる。ついに交渉は決裂した。
    「桜子、これは最後通牒だ。セツナを中心とした俺達改革一派を取るか、それとも手緩いシュレ一派でぬるま湯に浸り続けるか、今決めろ」
     強引に答えを迫る志郎に、桜子は答えに窮している。それを拒絶と解釈した志郎は、桜子に背を向けた。
    「次会うときは、敵同士だ。俺は俺の道を行く」
     志郎の宣戦布告とも取れる発言に、桜子はなおも説得を試みるが、志郎は振り返ることなく、この時空から姿を消した。残された桜子はあまりの急展開に考えが追いつかない。
     そうこうするうちに野原に火の手がまわり、桜子は完全に逃げ場所を失ってしまった。
     ――熱いっ、早く時空スポットまで移動しないと、時間が二十四時間を超えてしまう。
     焦るものの目の前が炎で遮られ進む事ができない。にっちもさっちも行かなくなった桜子は、はたとシュレから手渡されたアイテムを思い出し手に取った。
     するとそのアイテムは眩い光を放ち、一本の剣へと姿を変えた。
    「これって、もしかして草薙の剣!?」
     桜子は驚きつつ、その草薙の剣で一帯を刈り取り、炎の草原から活路を開いていく。
     ――もう時間がないっ……。
     焦る気持ちを抑えつつ、何とか炎の草原からの脱出に成功した桜子は、光の灯る時空スポットに飛び込んだ。
     その途端、桜子の体は光に包まれ、飛鳥の時代から姿を消した。時空移動の空間を漂い現代に戻った桜子は、頭から地面に叩きつけられ転がり込んだ。
    「痛っ……」
     強引な体勢で何とか現代に戻ることに成功した桜子が時間を確認すると、残り時間が一秒を切っている。
    「桜子、今回はマジでヤバかった」
     目の前でシュレがほっと安堵のため息をつく。一方の桜子は徐ろに上体を起こすや、よろよろと立ち上がり嘆いた。
    「志郎兄は、セツナの手に堕ちた。シュレ。私、どうしたらいい?」
    「どうしようもないさ。残された道は対決あるのみ」
    「そんな事、出来るわけないでしょう!」
     異議を唱え涙を見せる桜子だが、見守るシュレに答えはなかった。

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