返信先: 【新企画】桜志会のイメージキャラ小説

トップページ フォーラム 掲示板 【新企画】桜志会のイメージキャラ小説 返信先: 【新企画】桜志会のイメージキャラ小説

一井 亮治
参加者

     第二十一話

    「まさか志郎に邪魔されるとは、ね」
     手負いの京子にシュレは嘆いている。幸い道長の応急措置のおかげで大事に至らなかったものの、一歩間違えば命に関わっていた。
     それだけに桜子は、変貌した兄に困惑を隠せない。
     ――志郎兄は、どうなってしまったの……。
     頭を抱える桜子の脳裏によぎるのは、道長だ。二人の兄を亡くした後、伊周と権力闘争を繰り広げることとなる道長だが、すでに一族の争いを運命と位置付けていた。
     一方の桜子は覚悟を固めたとはいえ、やはり躊躇は残る。
    「何はともあれトトカルチョ作戦の第一段階は、終了だ。あとは京子の代わりを……」
    「あぁ。あたいなら、大丈夫……」
     よろけつつも上体を起こす京子を、桜子が慌てて止めに入る。だが、京子は構うことなくシュレに作戦の継続を訴えた。
    「これは藤原氏の末裔として、避けられない戦いだからね」
    「京子。一体、何があなたをそこまでさせるの?」
     桜子の問いに京子と目配せしたシュレが打ち明けた。
    「京子はね。かつて、オニヅカが絡む時空テロで家族を失ったんだ。その後、時空課税庁のエージェントに志願し、厳しい訓練を経て今に至る。つまり、京子にとってこれは、復讐であり贖罪なんだ」
    「フフッ、全てはあたいが悪いのさ。素行の悪さで家族に無茶を強いた結果、オニヅカの騒動に巻き込んでしまった……」
     悔やむ京子の表情は、実に沈痛である。詳細は分かりかねるものの、京子には京子なりの事情があるようだ。
    「シュレ、桜ちゃん。次にオニヅカが仕掛けるのは、寛仁二年十月十六日よ」
    「え、どういうこと?」
     キョトンとする桜子にシュレが応じた。
    「その日、道長の三女、威子が後一条天皇の皇后になったことを祝う宴が開かれたんだ。事はその二次会にある」
    「あぁ『望月の歌』ね?」
     意を察した桜子に京子はうなずき、その歌を詠んだ。
    「此の世をば 我が世とぞ思ふ望月の かけたることも無しと思へば(この世で自分の思うようにならないものはない。満月に欠けるもののないように、すべてが満足にそろっている)」
    「藤原氏の摂関政治、ここに極まれりだ」
     シュレの総評に桜子も異論はない。問題は右大将の藤原実資が返歌を拒んだ点にある。京子は言った。
    「オニヅカは、必ずつけ込んでくる。奴はギャンブラーだ。賭け金を全てベットするはずよ」
    「そこを逆にこちらから仕掛けるってことね?」
     確認する桜子に京子は、うなずいた。
     かくして、対セツナ戦トトカルチョ作戦は、第二段階へと移行した。筆頭に立つのは、京子だ。
    「次は狙撃兵を三名に増やす。ここで勝負を決め切るよ」
    「配置は、どうするんだい?」
     シュレの問いに京子は屋敷の地図をノート端末に広げ、作戦の詳細を詰めていく。そんな中、桜子はふと、根本的な疑問を投げかけた。
    「あのさシュレ。藤原家が荘園の最大領主になって、国政を牛耳ったのはわかるんだけど、自身の荘園に税は取られなかったんでしょう」
    「あぁ、不輸不入の権だね」
    「じゃあ、国の歳入ってどうなってたのよ?」
     この疑問にシュレは、ニヤリとほくそ笑む。
    「フフッ、その通りだよ桜子。それこそが藤原氏最大の急所になったんだ。摂政として国を回そうにも、肝心の財源が荘園の増加により減少していく。藤原氏も自身が当事者なだけに、その聖域にメスを入れれない。これが藤原氏の時代を終わらせ、次の時代を産むきっかけとなるのさ」
    「次の時代?」
     首を傾げる桜子に、シュレと京子が意味深に言った。
    「桜子、君達の時代さ」
    「そう言うことよ、桜ちゃん。もとい源桜子さん」
     これには、桜子も言葉を失ってしまった。シュレと京子が言わんとしていることは、こうだ。〈藤原氏を筆頭とする貴族の時代は終わり、源氏や平家ら武士の時代が来る〉と。
     いわゆる〈源平藤橘〉である。
    「じゃあ何? シュレが私に目をつけた本当の理由は、私が源氏の血を引くから?」
    「まぁね。日本の歴史上、この四家は外せないだろう。時空課税理論もこの四家を主要プレイヤーに立脚している」
     それを聞いた桜子の脳裏にある節が思い当たる。
     ――うちが源氏で京子とオニヅカが藤原氏、なら残るは……。
    「シュレ、もしかして翔君って」
    「お察しの通り。四家の一角――平家の末裔さ」
     思わぬ事実を前に桜子は、呆然とした。同時にまだ見ぬ次の世に想いを馳せている。
     かつて、シュレは言った。歴史は次の時代に光だけでなく影も落とす、と。つまり、桜子や翔の先祖は、道長を頂点とする藤原氏から大きな影響を受けたことになる。
     ――時代の転換点、か……。
     桜子は、自らの祖が織りなすであろう武士の世の到来を意識しつつ、オニヅカらが目論む時空戦への対処を練り続けた。

     翌日、作戦を決行すべくシュレが呼びかけた。
    「じゃぁ、行くよ」
    「オッケーよ」「始めましょう」
     準備を終えた二人が応じる中、シュレは歴史のクリスタルを作動させた。たちまち辺りが光に包まれ、桜子と京子は現代から姿を消した。
     二人が放り込まれた時空――それは、寛仁二年十月十六日の夜である。庭から屋敷を覗くと、中から賑やかな声が響いている。どうやら宴の真っ最中のようだ。
    「いよいよじゃん」
     京子は昂る気持ちを抑えるや、時空課税局から駆けつけた応援部隊とインカムで連絡を取っていく。
     やがて、全部隊が配置についたところで、オニヅカらの襲撃に備えはじめた。だが、一向に現れる気配がない。
    「おかしい……」
     京子は時間を確認しつつ、首を捻る。本来なら既に現れているはずなのだ。そうこうするうちに屋敷で道長が例の『望月の歌』を朗々と詠んだ。
     これに藤原実資が返歌でなく、吟詠で応じている。道長もまんざらでもなさそうだ。一方の京子は、全く現れる気配のないオニヅカらに焦りを覚えている。
     そうこうするうちに何事もなく、宴会が終わった。皆が楽しげに声を上げて笑いながら帰っていく。道長は一人となったところで縁側で月を眺めていたのだが、ここで異変が起きた。突如、道長が胸を抑え縁側に崩れ落ちたのだ。
     桜子と京子は、驚きのあまり目を見開いた。慌てて庭園の影から姿を現すや、道長の元に駆けつけた。
    「道長さん。しっかりして!」
     桜子が背中を揺するものの、道長は苦悶の表情で呻き声をあげている。これに京子が舌打ちする。
    「しまった。先手を打たれたんだ。おそらく毒を盛られている」
     まんまと裏をかかれ出し抜かれたことに憤る二人だが、そこへ意中の人物が現れた。オニヅカである。さらに背後には、屈強な男達とともにニンマリと笑みを浮べるセツナがいる。
     急ぎインカムで応援部隊と連絡を試みる京子だが返答がない。セツナは笑って言った。
    「悪いわね。あなた達が配置した部隊は、こちらで始末させてもらったわ」
    「へぇ、随分なご挨拶じゃん」
     京子がいきり立つ中、傍らの桜子は冷静に頭を働かせている。やがて、意を決し言った。
    「セツナ。あなたの狙いは、このクリスタルを傘下に置く私でしょう。いいわ。あなたの軍門に下りましょう」
    「ちょっと、桜ちゃん」
     驚く京子に桜子は、小声で囁いた。
    「京子、癪だけど今回は私らの負けよ。今、一番大事なのは道長さんの身、それは京子に任せるから」
    「桜ちゃん、それはあまりにキケン過ぎる」
    「京子、私なら大丈夫。後を頼むから」
     桜子は京子に笑って見せるや、クリスタルを手にセツナらの元へと歩み寄った。そんな桜子をセツナは満足げに眺めている。
    「理解が早くて助かるわ。お嬢ちゃん。じゃぁ、参りましょうか。お兄さんも待っているわ」
     セツナは勝ち誇ったように笑うや、桜子の身柄をオニヅカらに託し、平安の時空から姿を消した。