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一井 亮治
参加者

     第二十四話

     父・善次郎が退院した。桜子はそのサポートにあたっている。
    「志郎は、まだ戻らないのか」
     息子の不在を危惧する善次郎だが、桜子が掻い摘んで現状を報告し、大丈夫である旨を伝えた。
     もっとも事務所の焼失といい、元の状態への復帰には今しばらくの時間が必要と見られている。だが、再開に向けた準備は着々と進んでいく。その第一歩が事務員の募集だ。
    「どこかに適当な人材は、いないものか」
     そう考え募集をかける善次郎だが、目ぼしい人材が見当たらない。やむなく桜子に問うた。
    「桜子、夏休みの間の短期でいいから、お前の知り合いで事務員候補はいないか?」
    「えっ。や、いなくはないけど……」
     口ごもる桜子の脳裏にあるのは、この時空を監視するエージェントの京子だ。もっとも大雑把でムラっけの激しさゆえ、事務員としての適性には疑問符は付くが、活動をともにする点で適材に思えた。
     ダメ元で試しに連絡を取ってみると、意外にも乗り気である。二つ返事で了承の意を伝えるや、その日のうちにやって来た。
    「やー何か悪いっすねー。あたいなんかでいいんっすかぁ?」
     相変わらずのガサツさで現れた京子に、善次郎はやや面食らいつつも面接を進めていく。
     やがて、全ての項目をクリアしたところで、善次郎は京子に合格を下した。
    「桜子。お前が薦めるなら、よかろう」
     善次郎は幾つかの条件付きではあるものの、桜子の意に従い京子を雇うことにした。
     その後、桜子は祝いを兼ねて京子と外に繰り出した。向かった先は、あろうことか居酒屋である。
    「京子、アンタまだ未成年でしょ?」
    「やーいいじゃんいいじゃん、固いことなしってことでさー」
     京子はざっくばらんに、生をジョッキで飲み干すや、今後の方針について話し合った。
    「京子、すでに藤原氏を中心とした貴族の世は追ったわ。道長さん曰く、次は武士の世だって」
    「んーそうね。租税も守護・地頭を通じて大きく変わるし」
    「でも貴族の既得権益を武士は、どうやって簒奪したのかな」
    「フフッ、そこが次の歴史トラベルの鍵じゃん。百聞は一見にしかず。明日、一緒に見に行こう。多分、クリスタルもそれを望んでいるはずよ」
     語りかける京子に桜子はうなずき、歴史のクリスタルを取り出した。中から放たれる淡い光に目を細めつつ、桜子はこれまでのタイムトラベルを振り返っている。
     ――これまでは、自分と無関係だったが、次は違う。源氏の末裔として、歴史に直接向き合うことになる。果たして私にその資格はあるのだろうか。
     そんなことを思いつつ、新たな時空に思いを馳せた。

     翌日、桜子は二日酔いの京子を引き連れ、平安末期へと向かった。降り立った場所は、夜の川辺だ。見ると白旗と赤旗を掲げた大軍が川を挟んで野営していた。
    「源氏と平家ね。果たしてどちらが勝つか」
     成り行きを見守る桜子だが、傍らの京子が今にも吐きそうな顔で言った。
    「あー気持ち悪ぃ……」
    「だから、飲み過ぎだって言ったでしょう」
     桜子は呆れつつ、川辺へ京子を休ませに向かった。降りしも季節は冬へと向かいつつある。冷える体を縮こませる桜子だが、傍らの京子の様子がおかしい。
     両手を口元へ運び、何かを堪えている。何事かと見守っていると、京子は特大のくしゃみを放った。
     その途端、川辺の草むらに潜んでいた水鳥が一斉に飛び立った。これが全てを決壊させた。
    「源氏の襲撃だっ!」「逃げろぉ!」「お助けぇ」
     川辺に陣を張っていた平家が、赤旗を投げ捨て一目散に逃げ去っていく。
    「あらら……」
     思わぬ形で歴史に関与し、騒動の中心となってしまった京子は、桜子に言った。
    「やっちゃった。桜ちゃん。どうしよう」
    「どうするもこうするもないわよ!」
     声を上げる桜子に京子は、立つ瀬がない。やむなく反対側に陣を張る源氏側を目指したものの、暗闇もあって本陣か見失ってしまった。
    「もー参ったわ……」
     頭を抱える桜子だが、そうこうするうちに夜が明けてしまった。完全に迷子になった二人だが、そこへ見知らぬ者の図太い声が響く。
    「お前達、何者だ!?」
     驚き振り返ると、声の主と思しき大柄な僧兵が薙刀を手に睨みを効かせている。さらにその背後には、数名の騎兵と一団の主人と思しき小柄な武者が控えている。
    「あーもしかして弁慶さんと義経さん達だったりします?」
     京子の問いに弁慶は「なぜ知っている」と、ますます不審げな表情を見せている。
    「や、大丈夫っす。うちら味方なんで。こっちが源氏の末裔の桜子さん。実はあたいら未来から来まして……」
    「はぁ!? 何を訳の分からぬことを言っておる。妙なナリといい怪しい奴め。ひっ捕えてやる」
     弁慶の命令により、桜子と京子は敢えなくお縄頂戴となった。
     ――もー最悪……。
     桜子は、騒動の発端である京子に呆れ返っている。やがて、二人は義経や弁慶らと源氏の本陣へとやって来た。
    「兄弟の対面、か……」
     桜子は陣幕の向こうで、涙の再開を交わしているであろう総大将の頼朝と義経を想像していると、不意に声が掛かった。
     何でも頼朝が呼んでいるという。連行されていく二人は、頼朝の前に突き出されるや、その縄を解かれた。
     頼朝は、二人に頭を下げた。
    「すまぬな。時空の旅人よ。弟が我が一族の子孫に働いた無礼、許してくれ」
    「え、信じてもらえるんですか!?」
     驚きの声を上げる桜子に、頼朝はうなずく。何でも末裔を名乗る別の人物と既に会っているという。
     ――志郎兄か……。
     桜子は舌打ちした。どうやら向こうは向こうで何らかの目的の下に、活動を済ませているようだ。その後、互いに名乗る桜子と京子に頼朝は大いにうなずくや、手招きした。
     不審を感じつつ近寄る二人だが、頼朝は意外なことを問うた。
    「あの義経だがな、どうすればいいと思う?」
     頼朝の懸念はこうだ。自身は源氏の総大将を名乗ってはいるものの、それは多くの関東武士達の利害の上に成り立つ砂上の楼閣に過ぎない。
     だが、義経はそれをあたかも当然のように捉えているきらいがある、と。
     それを聞いた桜子は、驚きを隠せない。
     ーー凄い。頼朝様が義経様と会ったのは、今日がはじめてなのに、義経様の至らぬ点を完全に見抜いている。
     そんな桜子の心中を察した頼朝は、笑みとともに言った。
    「ワシには軍才はないが、人を見る目だけは持っているからの」
    「驚きです。ちなみに頼朝様が挙兵に至られた理由はなんですか?」
    「武士の世を作ることだ」
     頼朝は、ここではじめて自らを野心をさらした。
    「これまで我ら武士は、貴族にいいように利用されてきた。平家も然り、完全に貴族に媚びるばかりか、自身まで貴族を振る舞っている。清盛に至っては、娘の子をわずか三歳で強引に天皇にしてしまった」
    「なるほど、今回の勝利で源氏への流れが出来ました。やはり上京を?」
    「いや、京はいい」
     かぶりを振る頼朝に、桜子は首を傾げている。やむなく頼朝は心中を述べた。曰く、貴族の都である京ではなく、鎌倉に新たな武士の都を作るのだ、と。
    「それはまた壮大な野望ですね」
     驚く桜子に頼朝は、表情を曇らせ懸念を述べた。
    「ただ、その際に問題となるのが、税だ。これがなければ絵に描いた餅に過ぎぬ。何か案はないか?」
    「あぁ、それなら一つ……」
     頼朝の懸念に応えたのは、京子だ。それは全ての問題を払拭する絶妙の案だった。頼朝は、膝を打ち大いに喜んでいる。
     一方の桜子は、その非情さに声が出ない。
     ――それは、ちょっとあまりにも……。
     やがて、頼朝から解放された桜子は、京子を問い詰める。
    「京子、あの案だけど、ちょっとあんまりじゃない?」
    「桜ちゃん。歴史っていうのは、ある程度の非情さはいるよ」
     ――確かにそうかもれないけど……。
     桜子は京子に理解を示しつつも、憤りを隠せない。
     さらに気になるのは、京子が歴史への干渉を繰り返している点だ。察するに未来人は時空課税上、過去を統治すべく偉人の未来に影響を及す必要があるようにうかがえた。