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一井 亮治
参加者

     第二十五話

     頼朝との接触を終えた桜子と京子が次に向かったのは、京の都だ。かつて、この地を平定したのは平家だ。
     だが、奢る平家も久しからず、倶利伽羅峠で大敗し、木曽義仲に取って代わった。もっともその統治は短く、頼朝が送り込んだ義経に惨敗し、歴史から姿を消した。
     さらにこの義経も頼朝と対立しようとしている。これら一連の動きの背後には、一人の人物が見え隠れしている。
    「後白河法皇か……」
     桜子はその名をつぶやく。幾度となく幽閉・院政停止に追い込まれつつも、そのたびに復権を果たすしぶとさは、稀代の才と言えた。
     その後白河法皇と桜子と京子は、接触を持っている。
    「頼朝も妙な使者を遣わしたのぉ」
     二人のナリを興味深げに眺める後白河法皇に桜子が問うた。
    「法皇様は、この国をいかにしようとお考えですか?」
    「フフっ、そんな高尚なものは持っておらんわい。だが、この京を灰にする覚悟ならあるぞ」
     後白河法皇は意味深に笑うや、その信条を晒した。曰く「分割して統治せよ」と。
     ――確かに武士を源氏と平家に分断し、さらに源氏同士をも巧みに対立させている。気がつけば皆、この法皇様の掌の上で踊らされているわ。
     桜子は唸らざるを得ない。ちなみにこれまで桜子が抱いていた歴史上の偉人のイメージは、鮮明なビジョンを持ち情熱を持ってして世を動かす激情家だ。
     だが、目の前の法皇は、明らかに毛色が違う。深慮遠謀を企てつつも、敢えてそれを前面に出さず、のらりくらりと政敵を煙に巻いては機をうかがい、世に潮流を生み出していく。
     さらに歴史で台頭しそうなプレイヤーを見極めてはその心を絡め取り、心理的な措置を適度に施しつつ支配するスタイルなのだ。
     ――この法皇様、例えるならウワバミね。世の根底に流れる集合心理を巧みに刺激し、何となく時代を支配して、その全てを飲み込んでいく。まさに大蛇よ。
     なお、この後白河法皇を頼朝は「日本一の大天狗」と評したが、その気持ちが分かる気がした。
     表面上は今様狂いの遊び人を演じつつ、その実裏で権謀術数を駆使する稀代の策士ーーそんな後白河法皇に、京子もまたこれといった明言を避け、雑談に興じつつ探りを入れていく。
     やがて、後白河法皇と別れた京子は言った。
    「桜ちゃん。義経様だけど、頼朝様と法皇様の狭間で翻弄されるピエロになりそうよ」
    「それってどうなのよ。京子」
    「どうもこうもないわ。私は未来の時空課税局の人間だもん。税制の整備を第一に歴史に関わるのが仕事よ。クリスタルも然りね」
     割り切る京子に桜子は、憤りを感じていたものの、それは言葉にはならなかった。
     ――木曽義仲は法皇様に〈旭将軍〉の官位で釣られ見事に踊らされた。今度は、義経様が歴史の舞台で道化を演じさせられようとしている。
     その理不尽さを嘆く桜子だが、ため息とともに心中を吐き捨てた。
    「それもまた歴史の性、か……」
     その一方でセツナ一派の動きにも注力している。特に志郎だ。どうやら平家一派に接近し、何かを企んでいるようである。
     京を追われ福原を捨て西へと落ち延びた平家だが、今だ強力な水上戦力を有する一大勢力に違いはない。
     ――一体、志郎兄はどうしようというのだろう。
     その心中は計りかねるものの(何となくではあるが)志郎が目指す境地が見えなくもない。
     これまで歴史を渡り歩いてきた桜子には、その時々で根底に潜む潮流が感じられるようになっていた。
     ゆえにその潮流にベクトルを合わせ、対立の中に共同歩調を見出し、活路を見出そうというのが桜子の企みだった。
    「さ、行こうか桜ちゃん」
     京子の誘いに桜子はうなずきクリスタルをかざした。たちまち二人の体は光に包まれ、新たな時空へ飛んだ。
     行き先は壇ノ浦である。例の如く乱暴に放り出された桜子と京子は、目の前で繰り広げられる合戦に釘付けとなった。どうやら戦況は源氏有利に傾きつつあるようだ。
     一ノ谷、屋島と立て続けに敗れた平家はすでにあとがない。ここで平家は歴史に残る道を選ぶ。二位尼が幼少の安徳天皇を抱え、入水したのだ。
     さらにその後をお抱えの女官や武士が続く。その壮絶さの中に華やかさを求める最期を前に桜子の心は、平穏ではない。
     そんな中、桜子は乱の中に見知った人影を見つけ、声を上げた。
    「志郎兄!」
     だが、志郎は構うことなく駆けていく。やむなく桜子もその後を追った。
     船と船の間を跨ぎ、最後尾まで追い詰めたところで桜子は志郎に叫んだ。
    「志郎兄、なんで私を置いていくの。この国の歴史をどうするつもりなのよ!」
     そんな桜子に志郎は振り返るや、右手をかざした。その途端、一帯に凄まじい衝撃が走り、桜子は体を壁に叩きつけられた。
     何が起きたのか全く理解できない桜子は、激痛に耐えつつ顔を上げ、息を飲んだ。何と歴史のクリスタルが、宙に浮かんでいるのである。
     ――一体、どういう事!?
     桜子は困惑したまま上体を起こそうとするものの、先程の衝撃で足が動かない。そうこうするうちに志郎が近づき、歴史のクリスタルに手を伸ばした。
     その途端、クリスタルに変化が起きた。パリンっという音ともに真っ二つに割れたのだ。
     ――クリスタルがっ!?
     桜子が声を失う中、志郎は割れたクリスタルの半分を手中に収め、桜子に一瞥をくれるや何も言わずに去って行った。
     途方にくれる桜子は、半分になったクリスタルをただ呆然と眺め続けた。

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