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一井 亮治
参加者

     第二十八話

     桜子が次に向かったのは、楠木正成が挙兵に及ぶ原因を作った後醍醐天皇の居所である。すでに鎌倉幕府は滅んでおり、次なる世を築くべく建武の新政を打ち立てたばかりの様だ。
     案の定、ここも志郎が訪れた後だった。突如、現れた桜子を後醍醐天皇は満足げに迎えた。
    「聞いておるぞ、桜子。そなたらは未来から来たらしいではないか」
    「はい。帝は歴史をどのように捉えておられるのか興味がありまして」
    「ほぉ……そうだな。例えるなら女みたいなもの、かのう」
     ――また女!?
     楠木正成と全く同じ答えに桜子は頭が痛い。やはり、後醍醐天皇も同じ穴のむじななのかと思いきや、どうもそうではないらしい。
    「よいか桜子、まず理念ありきだ。藤原氏の摂関政治、院政、武士ありきの鎌倉幕府、どの時代も天皇は飾り物として蔑ろにされてきた。神輿は軽くてパーがいい、とな。だが、わしは違う。己の手で自分が掲げる理想の世を作っていくつもりだ」
     つまり、まずヘッドワークがあり、それを実現すべくフットワークがいるのだと。まさに楠木正成と真逆の発想である。
     一体、どちらが正しいのか判断に迷う桜子だが、改めて感じたことがある。
     ――皆、個性が強烈だ。
     その強すぎる個性故に衝突が生まれ、化学反応が起き、歴史に意外性を加えて行くのだろう。
     その後、しばしの談笑を交わした桜子が後醍醐天皇の元を去ると、意中の人物が待っている。
    「久しぶりだな。桜子。千早城以来か」
    「正成さん!」
     駆け寄る桜子だが、楠木正成の表情は芳しくない。見事に鎌倉幕府を打倒し、その立役者になった後であるだけに意外さを覚えた。
     試しに理由を問うてみると楠木正成は、渋々心中を吐露した。曰く、後醍醐天皇の建武の新政が公家を重視するあまり、武士を蔑ろにしているとの事である。
    「俺は、間違っていたのかもしれん」
     桜子と肩を並べながら楠木正成は、苦悩の表情を浮かべている。それを見た桜子はふとある物語の冒頭を誦じた。
    「祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者もつひには滅びぬ、ひとへに風の前の塵に同じ」
    「ふっ、平家物語か。この世は無常だと言いたいのだな?」
    「はい。だからこそ今が大事だと。どんな状況であれ、その時々で活路を捻り出していく。それが正成さんの生き様でしょう?」
    「確かにそうなのだが……」
     言葉を詰まらせる正成に桜子は、畳み掛ける。
    「正成さんは体当たりでぶつかった先にしか未来を見れない方なんだと思います。人が時代を選ぶのではなく、時代が人を選ぶ。例えその未来が望んだものでなかったとしても、正成さんの生き様は未来永劫に語り継がれるんです。それって幸せなことだと思います」
    「うむ……確かに、そうかもな」
     楠木正成はしばし考慮の後、己に言い聞かせるように続けた。
    「俺は頭で考える人間じゃない。どうやら器用がつき始め、己を見失っていたらしい。分かった。例えこの身が滅びようと、俺は最期までこの生き方を貫かん」
     吹っ切れた楠木正成に、桜子は笑みで応じた。やがて、光るクリスタルとともに時空を去ろうとする桜子だが、ここで楠木正成が思わぬ情報を伝えた。
    「桜子、お前の兄の志郎だがな。どうも様子がおかしかった。何やら焦っておるように見えたぞ。俺の勘だが、何か重大な障壁にぶつかっているんじゃないか」
    「志郎兄がですか!?」
     桜子は驚かざるを得ない。
     ――あの冷徹でなる志郎兄を焦らせるなんて。一体、何が起きているの。
     桜子は心中に不安を抱えつつ、楠木正成の情報に謝意を示し、この時空から去った。
     なお、その後の歴史だが、楠木正成亡きあと、足利尊氏は後醍醐天皇から三種の神器を取り上げ、光明天皇を擁立し室町幕府を開府。
     一方の後醍醐天皇は渡した三種の神器はニセモノだと主張して吉野に朝廷を開き、混乱の南北朝時代・応仁の乱を経て戦国時代へと突入していくこととなる。 
     
     
     
    「や、待っていたよ」
     現代に戻ってきた桜子をシュレが出迎える。意外なことに京子も一緒だ。その表情から察するに何かあった様だ。
    「どうしたのよ二人とも、そんな顔して」
    「どうもこうもないよ桜ちゃん。今、未来の時空課税庁は大混乱よ。その原因の一端は桜ちゃんにあるっていうじゃん」
    「え!? 何それ」
     困惑する桜子にシュレが説明した。曰く、前回の時空テロを上回る強大な時空兵器が生まれつつあるらしい。しかもそれは桜子と志郎が持つクリスタルによって増幅され、もはや止められないところまで来ているという。
    「桜子。今、時空課税庁は強制調査権の発動に向けた準備の真っ只中だ。このままでは、クリスタルの所有者である君にも責任が及びかねない」
     シュレの警告に桜子は、考えを巡らせた。話の性質を鑑みるに志郎の企みとは思えない。どうやら歩調を合わせる桜子との関係に危機感を覚えたセツナが、これをうまく利用し動き始めた様である。
     ――セツナ、か……。
     桜子は頭を痛めつつ、二人に言った。
    「話は分かった。私にやましいところはない。いつでも取り調べに応じる。けど時間が欲しい。志郎兄を説得する時間が……」
    「桜ちゃん、そんなのセツナが許すわけないじゃん。絶対、妨害に動くよ。何より命を狙われかねないじゃん」
    「それは覚悟の上、けど志郎兄だって必ずその対策は打ってるはずなのよ。このクリスタルに懸けて誓う。歴史を私利私欲で動かさないって」
     桜子の必死の訴えにシュレはしばし考慮の後、京子に目配せした。
    「分かったよ桜ちゃん。そこまで言うなら、もう少し時間をあげてもいい。けど、その時空移動にはこのあたいも随伴する。いい?」
    「もちろんよ。大いに監視してもらえばいい」
    「オッケー、決まりだね」
     うなずくシュレがどの時空へ向かうのかを問うと、桜子は即答した。
    「もちろん戦国時代よ。戦国三英傑が揃ったこの時代なしに日本は語れないわ。何より志郎兄が次に目をつけるとしたら、ここしかない」
    「いよいよ時空トラベルも佳境って感じじゃん」
     身を乗り出す京子に桜子は笑みで応じるや、クリスタルをかざした。たちまち光に包まれた二人は、見送るシュレをあとに現代から姿を消した。

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