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一井 亮治
参加者

     桜子と京子が向かった先、それは国際的に名の知れた貿易港を持つ堺だ。時空はさらに進み、信長が上洛を果たした後の様である。
     もっとも街の様相は、尋常ではない。至る所で掘がめぐらされ、男達は皆、火縄銃を手に殺気立っている。調べたところ、信長が臨時の賦課税として二万貫の矢銭を要求し、これに怒った堺の民が、戦さ支度に入ったとのことだった。
    「一触即発じゃん」
     京子が身構える中、桜子は千宗易の行方を追っている。後に茶人として頂点を極め茶道を芸術の域にまで高める千利休も、始まりはしがない魚問屋を営む無名の商人に過ぎない。
     ――おそらく志郎兄は、クリスタルにさらなる輝きを求め、この時空で勝負をかけようとしている。そのために千宗易と接触を図ったはずよ。
     そう志郎の心を読んだ上で桜子は、舌打ちする。手法が強引で志郎らしくないと思えたのだ。
     ――志郎兄。一体、何を焦っているの?
     若干の戸惑いを覚えつつ、桜子は京子とともに情報収集を続けていく。すると、思わぬ情報に行き着いた。妙なナリの男が海の方へ逃げるように走って行ったという。
     その人相風体を聞いた桜子と京子は、確信した。
    「志郎兄だ」「間違いないじゃん」
     早速、二人は海辺へと向かった。浜辺に着くと、目の前で誰かが倒れている。そのナリに心当たりを見つけた桜子は、慌てて駆け寄り息を飲んだ。
     それは、紛うことなき兄だった。
    「志郎兄!」
     桜子は声をかけるものの返事はない。さらに体を揺さぶる桜子に、志郎兄はようやく意識を取り戻し、声を絞り出した。
    「桜子……これは罠だ。逃げろ……」
    「ちょっと志郎兄。一体、何が」
     そこで背後に気配を感じた桜子が振り返ると、見覚えのある人物が男共を引き連れ立っている。
    「セツナ!?」
     どうやら志郎を囮に桜子をハメたらしい。唇を噛む桜子に、セツナはニンマリほくそ笑み言った。
    「お久しぶりね、お嬢ちゃん達。ちょっとおいたが過ぎたんじゃない?」
    「結構なご挨拶じゃん。一体、どうしようっていうのよ」
     京子がいきり立つものの、セツナは構うことなく男達に命じ、二人を拉致するや志郎とともに近場の納屋へ身柄を放り込み、火を放った。
     たちまち一帯が火の海に包まれていく。
    「熱いっ……」
     耐えかねた桜子がクリスタルを手に取るものの、志郎がそれを止めた。
    「やめろ……桜子、これは罠なんだ……今、クリスタルを使えば、セツナにその全てが吸収されてしまう」
    「え、でも……」
    「そうよ。このままじゃ三人、焼け死にじゃん」
     桜子と京子が異議を唱えるものの、志郎はそれを頑なに拒む。絶体絶命の状況に追いやられた三人だが、不意に納屋の床が開き、下から思わぬ人物が現れた。
    「オニヅカ!」
     さらにその後ろには、見事な巨体の男がいる。もっともその表情は、この状況下に関わらず落ち着きを払っている。桜子はすぐさま察した。
     ――間違いない。千宗易さんだ。
    「一体、どう言うことよ!」
     声を上げる京子にオニヅカは人差し指を立てて静粛を促すや、小声で言った。
    「地下から逃げられる。今のうちに来いっ!」
    「え、でも」「どう言うこと」
     戸惑う桜子と京子だが、オニヅカは「いいから早く!」とせかす。二人は事情が飲めないながらもオニヅカに従い、志郎を担いで千宗易の案内の下、地下へと逃れた。

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