返信先: 【新企画】桜志会のイメージキャラ小説
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第三十二話
「そうか。堺は助かったのか」
安堵のため息をつくのは、志郎である。当初はセツナの手にかかり、滅びかねなかった堺だが、桜子の説得が功を奏した形だ。
「桜子、お前は本当に変わった。歴史に向き合う姿勢が以前とまるで違う。どうだ。歴史って案外、面白いだろう?」
「フフッ、志郎兄みたい詳しくはないけど、人の営みがもつ法則性や局面ごとに決断力を見せる偉人の凄みには、圧倒されるよ」
「そうだな。しかし今回は、お前に随分と助けられた。礼を言うよ」
頭を下げる志郎に桜子は、恐縮しきりである。もっとも懸念材料は相変わらずだ。リクドウ・シックスを持ってしても、セツナの所在は掴めず、今も歴史の水面下で時空活動を続けている。
志郎は後悔の念を吐いた。
「俺はセツナの無税国家構想に惹かれ、この身を捧げたつもりだったが、甘かった。セツナは思った以上にヤバい奴だ」
「その無税国家構想だけど、要するに支出削減と減税の行き着いた形よね。方向自体は間違っていないと思うけど」
「あぁ。だが、方法に無茶がある。セツナは全ての歴史を覆してでも、強引にそれをなすつもりだ」
「うん。でも志郎兄がセツナにしてやられるなんて意外ね」
桜子の指摘に志郎は、頭を抱えながら言った。
「歴史のクリスタルを軸に、敵味方に分かれつつもベクトルのみを合わせた緩い連合体で大きな救国の潮流を作り上げていく。それが俺の構想だったんだが、セツナが一枚上手だった。奴には、背後に腹持ちならない黒幕がいる」
――黒幕、か……。
桜子は改めて考えた。確かにセツナには重要な局面ごとに、打つ手が冴えすぎている。全てに通ずる者の協力がなければ成し得ないという志郎の指摘ももっともだと思えた。
一方でこうも考えた。その黒幕を特定できれば、うまく裏返し逆に利用できるのではないかと。その旨を志郎に問うと、大いにうなずいている。
さらに桜子は続けた。それはセツナの設計者にまつわる推論だ。遺体すら上がっていないこの消失したとされる設計者だが、セツナはこれを否定した。そこにはDNA的な情報に何か大きな秘密があるのではないか、との推論だ。
「桜子、俺も同感だよ。とにかく当面は、この戦国時代を追っていこう。クリスタルはあるか?」
「えぇ、ここに」
桜子は半分に欠けたクリスタルを手渡すと、志郎は自身のクリスタルを取り出し、二つを繋げた。たちまちクリスタルは元の鞘に収まり完全形を取り戻した。
この合体したクリスタルを志郎は、桜子に差し出す。
「桜子、これはお前に預けるよ」
「え……や、ちょっと待ってよ。これは志郎兄が」
「いや、桜子。これは二人の絆だ。お前に託したいんだ」
懇願する志郎の目は本気だ。桜子は躊躇いつつもクリスタルを受け取った。その輝きはどこか慈愛に満ちていた。
「なるほど。二人で未来へ戻られる訳ですな」
千宗易が差し出す別れの茶を飲み回しながら桜子がうなずく。さらに志郎も続いた。
「千宗易さん。是非、この侘び茶を大成させ世を休める芸術にまで高めてください」
「えぇ、利心、休せよ(才能におぼれずに老古錐の境地を目指せ)。利休の境地でのぞむつもりです」
「私も宗匠に続きますよ」
そう合いの手を打つのは、弟子の山内宗二だ。
一方の桜子と志郎は、お世話になったお礼が出来ずに困っている。だが、千宗易はこれを否定した。
「桜子さんの一言が私に堺を救わせたんです。今では信長様の賦課税二万貫の矢銭は、安かったとすら感じています。なのにこの様な礼でしか返せず恐縮です」
やがて、千宗易の茶を飲み終えた二人は、クリスタルを手に頭を下げた。
「では、私達は一旦、未来へと戻ります」
「千宗易さん、山内宗二さん。お元気で」
そんな二人を千宗易と山内宗二は、名残惜しげに見送った。それは一期一会と評するに相応しい一献の茶であった。