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一井 亮治
参加者

     第三十六話

     桜子と志郎は一旦、時空の旅を京子と交代し、現代へと戻ってきている。丁度、夏休みが半ばを越した頃で、課題にも手をつけなければならない状況だ。
    「まいった……」
     桜子が頭を抱えるのが、社会科の教師から出された自由研究である。桜子としては〈税と歴史〉をテーマにした論文を考えているのだが、思わぬ奥深さに広げた風呂敷を畳めず困惑気味だ。
     ――思えば、いろんな偉人がいたな。
     卑弥呼を筆頭に藤原氏や中世の貴族女官、さらには楠木正成や戦国三英傑とその茶人など皆、歴史を舞台に葛藤してきた者ばかりだ。
     皆に共通するのは、大なり小なり〈税〉が絡んできたことだ。どうやらいつの世も悩みは同じらしい。
     ――果たして、理想の税制はどうあるべきなのだろうか。
     そんな深淵なテーマに頭を捻る桜子だが、そこへ事務所の志郎から電話がかかってきた。なんでも母・ソフィアが帰国するらしい。
    「いつ?」
    「今日。今夜の七時程」
    「えぇっ、あと三時間もないじゃない!」
     いつもながらに唐突な母・ソフィアに桜子は、通話を切ると準備を始めた。なんとか時間ギリギリで電車に乗り、待ち合わせの空港に滑り込んだ。
    「遅いぞ桜子」
    「仕方ないでしょう。いきなりなんだから」
     志郎の指摘に反論する桜子だが、傍らの善次郎が笑顔で言った。
    「大丈夫だ。母さんはまだ来てない。もうそろそろのはずだが」
     皆が首を揃えて待つこと十分強、遂に母・ソフィアが現れた。キャリーバックを引きずるソフィアに三人は、手を振り駆け寄った。
     久しぶりの再会に声をあげる四人は、やがて、空港近辺のレストランに入った。だが、そこは母・ソフィアだ。盛んに海外取材での税制レポートを捲し立てまくる中、桜子ら三人はただひたすら聞き役に回っている。
     ――相変わらずね。
     いつもながらのソフィアに呆れつつ、桜子が相槌を打っていた矢先――それは起こった。
    「何だ。地震か!?」
     一帯が揺れる中、店内のテレビも一斉に砂嵐に変わった。ただの地震にしては、ありえない現象だ。試しにハンドバックからクリスタルを取り出すと、明らかに反応を示している。
     ――時空震だ。
     桜子は志郎と目配せを交わす。どうやらセツナの時空テロ第二弾が始まったようである。
     その様子から察するに、第一弾とは異なり物理的な破壊は最小限に止め、むしろ中枢を担うデータ集約網のハッキングを主としたものの様である。
    「参ったな。ネットが使えない」
     スマホを手に嘆く善次郎だが、突如、砂嵐だった画面が収まり、一人の女性の姿が現れた。その顔を桜子は知っている。
     ――セツナ!?
     自ら名乗りを上げたセツナは、そこで自らの無税国家論構想をぶち上げた挙句、その代償として凄まじい額を含む様々な要望をあげた。
    「仮にこれらの要望が叶わない場合、ネットを含むすべての通信網は乗っ取られたまま、二度と元に戻ることはないだろう」
     そう通告し、消えていくセツナを見届けたソフィアの反応は早かった。
    「あなた、志郎を連れて今すぐ事務所に戻って顧問先を守って。私はこの現象を追うから」
     立ち上がるや矢継ぎ早に指示を下すソフィアに、家族が一斉に動く。戸惑う桜子にソフィアは手招きして言った。
    「桜子、アンタはこっちよ」
     その後、単車に乗り換えたソフィアは、桜子を後ろに乗せ、渋滞の高速をかっ飛ばしていく。
    「ちょっと母さん。一体、どこへ行こうっていうのよ」
    「大阪城よ。おそらくそこに何か鍵があるはず」
    「なんでそう思うのよ?」
     桜子の問いにソフィアは、自身のスマホを手渡した。そこには以前、ソフィアから紹介されたAIにつながるサイトが開かれており、そこに大阪城を根源とする時空震の可能性が述べられていた。
     高速を飛ばすこと約半時間、遠目に懸案の大阪城が見えて来た。
    「母さん、アレ!」
     桜子は思わず声をあげる。普段はライトアップされる大阪城だが、今は全てが炎の様な赤い光に包まれているのだ。
     明らかに照明によるものではない。危機感を覚えた桜子は、ソフィアとともに大阪城へと乗り込んでいった。
     オートバイを駐車し、ソフィアとともに物々しい警備を掻い潜って城門前まで来た桜子は、赤く染まるその異様さにつぶやいた。
    「まるで血の色みたい……」
    「桜子、クリスタルは?」
     ソフィアの問いに桜子が確認すると、明らかに光を帯びている。どうやら赤い大阪城と共鳴しているらしい。
    「オーケー、行ってらっしゃい、桜子。ただし無理だけはしないで。私はここでずっと見守っているから」
    「分かった。ありがとう!」
     桜子はソフィアに礼を述べるや、クリスタルを額にかざした。するとたちまち光が桜子を包み込み、現代から異時空へと引き連れていった。