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一井 亮治
参加者

     第三十九話

     気がつくと桜子は、見知らぬ草原に立っている。目の前にいるのは、すっかり変わり果てたボロボロのセツナだ。
    「セツナ、もうあなたに勝ちはない。クリスタルはまた見つければいい。だから、負けを認めなさい。でないとあなたの身が持たないわ」
     救いの手を差し伸べる桜子に、ついにセツナは初めて負けを認めた。ゴーストとして格の劣る人間に首を垂れたのである。
     ――これでいい。あとはセツナの理想をこの私が引き継げば……。
     そう考えた矢先、突如としてセツナが苦しみもがき始めた。その様子は明らかに尋常ではない。
    「セツナ。一体、どうしたのよっ!」
     叫ぶ桜子に構わず、セツナのボディがバラバラに砕けや、最後にはその身もろとも粉砕してしまった。
     ――一体、何が……。
     驚きを隠せない桜子だが、その目の前に一人の人影が現れた。見たところ桜子と背格好の変わらない娘である。
    「全く役に立たないゴーストね」
     その娘は吐き捨てるように罵るや、かすかに微動を残すセツナの頭部を足で踏み躙り粉々に潰した。
    「ちょっと、何もそこまでしなくてもいいじゃない!」
     憤る桜子にその娘は「あら随分とお優しいのね」とケラケラ笑っている。問題はその容姿である。あまりに桜子に酷似しているのだ。そこにピンと来た桜子が言った。
    「あなたが黒幕の未来の政府極秘調査機関、通称、サクラG課の設計者ね。名前は確か、源サクラ」
    「えぇ、お察しの通りよ。源桜子さん……いや、こう言った方がいいかしらね。我がご先祖様」
    「まさか私の子孫が、セツナの設計者とは思わなかったわ」
     身元を明かし合った二人は、互いを警戒しつつ、出方を伺っている。
    「ふっ、時空課税局も困ったものよ。他のメンツならともかく、私の先祖を使うとはね。殺しでもすれば、この私の存在が消えてしまう。うまく考えたものよ」
    「サクラ、あなたはセツナに無税国家構想の理想を植え付け、その行動のタガを外した。過激ではあったものの、セツナには筋の通った思想があったわ。けどあなたの目的は分からない。一体、何を求めて……」
    「気紛れよ」
     何でもないことのように話すサクラに桜子は、我が耳を疑う。サクラはさらに続けた。
    「桜子。アンタにいいことを教えてあげる。この世は結局、使う側と使われる側に分かれるのよ。私は常に歴史の勝者側に張る。それが私の目的。つまり、歴史の勝敗を賭けた娯楽ギャンブルなの」
     ゾクゾクとするような笑みで語りかけるサクラだが、その次の瞬間、その顔は大きく歪むことになる。桜子がサクラの頬を思い切り引っ叩いたのだ。
    「ふざけないで! 歴史を弄ぶ? 冗談じゃないわ。私はこれまで多くの偉人と接してきた。善悪は問われど誰もが真剣に向き合っていたわ。それを賭け事の娯楽にするっていうの!?」
    「へぇ……結構なご挨拶じゃない」
     罵る桜子にサクラは、完全に怒り心頭だ。指で合図を送るや、周囲に武装集団を出現させた。どうやら人間ではなくゴーストで構成されているようである。
    「この娘をひっ捕えなさい!」
     サクラの命令にゴーストは、桜子を取り囲む。だが、桜子は透かさず包囲を突破し、脱走を試みた。
     必死に抵抗した桜子だったが、多勢に無勢は免れない。ついに武装ゴーストに取り押さえられてしまった。地面に押さえつけられた桜子が見上げると、目の前にはサクラが立っている。
    「フフッ、これはさっきのお・か・え・し」
     そう言い放つや、サクラは桜子の無防備に晒された腹に強烈な蹴りを叩き込んだ。
    「うっ……」
     柔らかい腹に内臓をえぐるようなえげつない蹴りをモロに受けた桜子は、呼吸すらままならない苦しみに悶絶している。
    「あーら、足ではしたなくてゴメンナサイ」
     上からケラケラと嘲笑うサクラの勝ち誇った顔が桜子は、悔しくて仕方がない。涙すら滲ませる桜子だが、そこに変化が現れた。サクラの武装ゴーストが、周囲に突如として現れた武士達に戸惑いを覚え始めたのだ。
     そこへ志郎の声が響く。
    「待たせたな、桜子」
     見ると志郎の背後には、これまで時空の旅でともに戦った藤原鎌足や藤原道長、源義経、楠木正成、織田信長、豊臣秀吉ら英霊が応援に駆けつけている。
     この錚々たる様にさしものサクラも、声を失った。やがて、武装ゴーストと英霊達が乱戦に入る中、さらに応援へと駆けつけた京子がオニヅカを連れて叫んだ。
    「桜ちゃん。アレっ!」
     桜子は京子達の指差す方向に目を向けると、何やら輝きを秘めたツイスターが何かを形成し始めている。
     その様相からして新たなクリスタルのようである。それを見た桜子は腹を抱えつつ、ゆっくり起き上がり、光のツイスターへと向かった。
     だが、サクラもこれに気付いたようだ。二人はお互いの身をぶつけ合いながら、その光のツイスターへと飛び込んだ。
     その瞬間、パッと眩い光が一面を照らし、その輝きはやがて一つの結晶を形成し始めた。まさにクリスタルである。そして、それは桜子の手に握られていた。
    「そんなバカなっ……」
     サクラが強引に桜子からクリスタルを奪おうとするものの、クリスタルが放つ光に弾かれ吹き飛ばされてしまった。
    「どうやら新たな歴史の監視人が決まったようだな」
     歩み寄る志郎や京子達を前にした桜子は、照れつつも掌におさまった新たなクリスタルに目を細める。
     そして、英霊達を背後に地面に叩きつけられたサクラに言った。
    「サクラ、あなたの負けよ」
     
     
     
     やがて、一帯が秩序を取り戻す中、英霊が一人、また一人と姿を消していく。無論、サクラは駆けつけた時空課税局員に連行されていく。京子とオニヅカも同伴だ。
     その後ろ姿を眺めながら、桜子は新たなクリスタルを握り締め考えている。
    「どうしたんだよ桜子、今やお前が歴史の監視者だ。大いには無理だが、多少の干渉なら許される立場になったんだぜ。もっと誇らしくしろよ」
    「そんなことできる訳ないでしょう。私みたいなただの小娘。むしろ重荷よ」
     そう表情を困らせつつも、桜子の表情はどこか明るい。それは今まで歴史の傍観者に過ぎなかった立場から、一歩踏み出したささやかな喜びだった。