返信先: 【新企画】桜志会が大活躍する挿絵小説
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第五話
国境なき税務団が新たな犯行声明を出した。某金融機関へのハッキングにより、多額の暗号資産を強奪したらしい。
「サイバー空間に和のアイデンティティを構築し、デジタル国家ニホン建国の原資とする。我こそはと思わん者は、我々の活動に参加されたし。衆愚と化した日本と違い、我がニホンは来る者を拒まない。デジタル移民も歓迎しよう」
動画サイトでビジョンを語るジョン黒田の鼻息は荒い。
一方、これを危険思想と捉える警察はジョン黒田を知能犯と断定し、その捜査を二課のベテランでなる池口に託した。ただ捜査は難航している。そこで我らが桜志会に対し、水面下での協力を求めてきた。
「岡本先生って覚えてる?」
ファーストフード店で軽食を取りながら問いかける聖子に、俺は記憶を辿った。
「確か以前、会ったよな。元税務署出身で警察と太いパイプがある先生だとか」
「そう。その岡本先生が捜査二課の池口さんと旧知の仲でね」
「まぁ警察と税務署って似て非なる捜査機関だからな。けど俺達に協力を打診されても困るぜ」
「それを何とかするのが、アンタのシ・ゴ・ト」
聖子は笑いながら人差し指でトンっと俺の鼻を叩く。俺は「分かったよ」と投げやりにうなずきつつ何をすべきかを問うた。
「これよ」
聖子は、一本のレポートを取り出す。早速、目を走らせた俺だが、思わず唸ってしまった。
「つまり、俺に対国境なき税務団戦を想定した人工知能を作れと」
「そ、もし出来れば、私達は最強の捜査官庁とタッグが組める。しかも、そのAIはデジタル格闘大会にも応用できる。まさに一石二鳥じゃない」
――随分、簡単に言ってくれるぜ。
俺は困惑を通り越し呆れている。とは言うものの、複雑ではあるが不可能でもなさそうである。
「聖子。この話、受けてもいいが人手がいる。それもかなり特殊なな」
「アンタのハッカー仲間で何とかならないの?」
「一人いるが……前科持ちで今も違法スレスレのグレーゾーンを凌いでる半汚れだ。通称、ミスターD。腕は一級品だが……ちょっと色々ヤバい」
「結構よ。会える?」
「俺は会ったことはないが、連絡は取れる」
「行きましょう」
聖子はすぐさま立ち上がる。
――相変わらず、抜群のフットワークだな……。
俺は感心しつつ席を立ち、店を出てミスターDと連絡を取った。指定された場所に向かうと、一台のバンが止まっている。インド系と思しき男が、片言で何かを言っている。どうやら乗れと言っているらしい。
それだけではない。車内で袋らしきものを渡された。
「ソレで顔、被れ」
どうやら居場所を特定されたくないらしい。やむを得ず俺達は、言われるがままにその袋を顔に被るや、ミスターDのアジトへと連れて行かれた。
どれほど時間が経っただろう。車から降ろされた俺達は地下室に通され、顔の袋を外された。目の前には鉄の固い扉が閉じられている。促されるまま扉を開けた俺は思わず声を上げた。
「何だよ。地下カジノか」
「優斗、どう言うこと?」
「分からん。とにかく付き合おう」
俺は促されるがままに賭場を進んでいく。やがて、離れのテーブル席へと通された。そこにいたのは、サングラスをかけた黒人の男である。
歳は四十前といったところか。とにかく怪しさ満点だ。
「やぁ、初めてお目にかかる。優斗、聖子。私がミスターDだ」
ミスターDは笑みを浮かべ歓迎の仕草を見せるのだが、丸坊主の頭といい趣味の悪い赤ジャケットといい、まるで映画に出てくる悪役である。
「ミスターD、要件は電話で話した通りだ。答えを聞こう」
返答を求める俺だが、ミスターDは意味深な笑みを浮かべながら言った。
「優斗、今の私はお前達を国境なき税務団に売り飛ばすことも出来る。何せお前はジョン黒田のお気に入りだからな」
「早速、脅しか? 悪いが条件交渉をする気はない」
「おいおい優斗、あまり私を舐めない方いい。変死体として大阪湾で発見されたくないだろう」
余裕の表情を見せるミスターDだが、これに思わぬ返答を寄越したのが聖子だ。
「そう言うオジさんこそ、私達を舐めないことね。私達には……」
「桜志会か? ふん、生意気な娘だ」
ミスターDは憤慨気味に鼻を鳴らすや、口を固く閉じた。その後、かなり気まずい沈黙が流れたが、その静粛をミスターDが破る。
徐ろに散らばったトランプを集めるや、シャッフルの後、俺達の前に配ってきた。
「優斗、勝負だ」
「ほぉ、いいだろう。イカマサは無しだぜ」
俺は徐ろにトランプを取る。目を走らせるとフォーカードが揃っていた。
――あり得ない。やはりイカサマか。だとするなら……。
俺は大胆にもそのカードを全て捨てた。流石のミスターDもこれには肝を抜かれたらしい。
その驚きの表情を俺は見逃さない。次なるカードを5枚受け取ると、中身を見ることなしに伏せた。
「優斗、何の真似だ。カードを見ないのか?」
「あぁ。お前と同様に俺もそれなりの行為で応じようと思ってな。ノールックのポーカーだ。どうだミスターD、お前の好きなカネがここに落ちてるぜ」
大胆にも挑発と誘惑を見せる俺にミスターDは、じっとこちらを睨んだ後、自らの手札を投げ出した。
「オーケー優斗、全てお見通しって訳か。よかろう。お前達の勝ちを認める。条件はフィフティーフィフティー、どうだ?」
「何だ、半分も持っていくのかよ」
俺は不満げな顔で応じつつ、その一方で意外さも感じている。
――悪くない。奴としては随分と踏み込んだ条件だ。
俺は聖子と目配せの後、その条件に応じた。
そこからは普通の商談である。データのやり取りやカネの送り先など、実務的な内容を話し合い詳細を詰めた後、俺は聖子とカジノを後にした。
再びバンで送られ解放された俺達は、ともに帰路につく。そこで聖子が意外そうに問うた。
「なんでノールックのポーカーなんて仕掛けたのよ」
「アイツのいつもの手なんだよ。俺達をイカサマのカードで満足させ、次のカードでそれを上回るカードを用意する。とにかくやることなすこと全てが姑息でケチでイカサマ臭い。本当にどうしようもない奴だよ」
「ハッカーの腕以外は、ね」
「まぁな。ともかく最大の障壁は崩した。あとは奴といかにAIを組むか、だ」
感慨深げに夜空を仰ぎつつ、俺は今回のミッションの算段を見繕っている。そんな俺に聖子が問うた。
「そのAIだけど、完成の見込みはどのくらい?」
「フィフティーフィフティー」
俺の即答に聖子は、苦笑を交えつつ肩をトンっと叩き言った。
「期待してるわよ。優斗センセ!」
ミスターDを味方に巻き込んだ俺は、AIの構築に没頭している。何と言ってもサイバー空間上に人工的なデジタル生命体を宿すのだ。自然と作業も特殊にならざるを得ない。
ただ幸いにも学校は冬休みだ。俺は部屋で缶詰になってAI構築に勤しんだ。そんな最中、陣中見舞いに訪れたのは聖子だ。
「差・し・入・れ。どう? 上手くいってる?」
「作業としては60パーセントと言ったところだな。人格の付与がうまくいかないんだ」
「フフッ、まぁ一息いれなよ」
聖子は疲れ切った俺の顔を見るや、笑顔で家の台所に入り込み、見事な包丁さばきで海鮮サラダを作り上げた。
一服を兼ねて軽食に呼ばれた俺は、一口頬張り驚きの声を上げる。
「えらい美味いな」
「でしょ。最近出来た業務スーパーがいいもの仕入れててね。アンタだったら絶対食いつくと思って買ってきたわ」
「助かるよ」
俺はほっと一息つくや、海鮮サラダを頬張りつつ現状を話していく。
「難しいのは人格の再現とその法的地位だ。哲学がいる」
「哲学? あの浮世離れた学問?」
「そう思うだろう。だが現実は違う。哲学の整備が倫理を確立し、科学者や医学者や立法者を研究の憂いから解放した。つまり、哲学は全ての学問の礎なんだ」
俺は力説するものの、聖子は今一つ理解が及ばない。補足すべく俺は続けた。
「例えば税理士は、税法に立脚しているだろう。その際にAIという擬似人格を法的にどう捉えるかで色々、変わってくる。何せ自然人にも法人にも当てはまらないからな」
「みなし個人の論点ね」
「そう。AIに一定の権利義務を与えるべきか否か。あとはテクニカルな問題として、人格再現が上手くいかない」
俺はPCを前に懇々と現状を晒していくものの、内容が内容だけに複雑だ。ただそこは聖子で大雑把に要所を押さえつつ、思わぬ案を提示した。
「その擬似人格、私がこの身でデータを提供しようか?」
これには、俺も言葉を失った。架空の人格の付与に失敗してきただけに、実在の人物から人格を抽出する発想が思い浮かばなかったのだ。
ただ、あまりにセンシティブで、俺はその一歩を踏み切ることが出来ない。何より聖子をデータ提供者とすることが怖かった。
――もしなにかあれば、聖子に危害が及ぶ。そんなこと、絶対に許容できない。
大いに迷う俺だが、その心を聖子の一言が貫く。
「私は大丈夫、アンタを信じてるから」

