返信先: 【新企画】桜志会が大活躍する挿絵小説

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一井 亮治
参加者

     第十話

    「無税国家ですって!?」
     谷口エンタープライズの会議室で俺の報告に聖子は、声を上げる。
    「優斗、確かに無くはないけど、サウジみたいに石油に浮かぶ国か、ある程度の資源や財源に恵まれた国のみに許される特権よ。少なくとも日本では無理だわ」
    「俺もそう思って調べてはみたんだが、一応、構想自体はある。提唱者は松下幸之助だ。国の財政制度を予算使い切りの単年度主義とせず、そのムダを剰余金として積み立てる。つあり、国家経営に企業経営を取り入れる発想だな」
    「うーん……まぁ、経営の神様の言葉ならね。一応、ある程度の絵はジョン黒田の頭に描かれている訳か」
     聖子はそれなりの理解は示しつつも、犠牲を伴ってでも性急に進める国境なき税務団のやり方には、抵抗を感じているようだ。
     そんな中、会議室にエンジニアの隼人さんが入ってきた。後ろに二人の男性を伴っている。ともに三十半ばと言ったところか。目つきの鋭さから俺は、二人の正体を察した。
     ――これは捜査機関の人間の目だ。
     挨拶に立ち上がる俺達を手で制しつつ、隼人さんはその二人を紹介した。
    「こちらは警視庁捜査二課の池口さん。そして、こちらが国税庁徴収部の清原さんだ。ともに国境なき税務団を追われておられる」
    「存じてます。確か桜志会の岡本先生と旧知の仲だとか。俺にセイコシリーズを依頼された方ですよね」
     記憶を辿る俺に池口さんは、清原さんと捜査機関らしい固いナリで目配せし、口を開いた。
    「優斗君に聖子さんだね。一度、会いたいとは思っていた」
    「やはり、国境なき税務団が開発したJの件ですか?」
     聖子の問いかけに池口さんは、苦悶の表情を浮かべている。傍らから強面の清原さんが見かねたように応じた。
    「お察しの通りだ。これが厄介でね。先日も局の料調のサイバー空間がやられた。これ以上、Jにサイバー空間をのさばらせるわけにはいかない。何らかの手を打つ必要がある」
    「と言いますと?」
     問いかける俺に隼人さんが「今、考え中だ」と返答をよこした。俺は改めて問うた。
    「Jって、そんなに強いんですか。推定スペックは?」
    「軍事レベルだ」
     清原さんは即答した上で、現在判明している限りのレポートを差し出した。素早く目を走らせた俺は、思わず心の中でつぶやいた。
     ――これは、想像以上だ。まさかここまでとは……。
     その後、確認事項を詰め去っていく二人と隼人さんを見送った俺は、ふと黙り込む聖子に声をかけた。
    「どうしたんだよ、聖子?」
    「うん……ちょっとね」
     聖子は清原さんのデータが入ったPC画面を凝視しつつ、衝撃の事実を口走った。
    「私、このJを知っているかも」
    「や、ちょっと待てよ聖子。知ってるも何もコイツはデジタル生命体だ。リアル世界には、生息し得ない」
    「えぇ。だからベースとなったパーソナルデータの提供者なんだと思う。この私みたいに、ね」
     ――なるほど、確かにそれならあり得るが……。
     聞き役に徹する俺に聖子は、ポツリポツリと話し始めていく。何でも小学校の頃に武道で無双状態だった聖子が、同年代で唯一負けた相手らしい。それもかなりこっぴどくやられたとのことだった。
    「本当に悔しくて、人目も憚らずに泣いたわ。とにかく陰湿で執拗に弱みを突くタイプ。心の奥底に土足で踏み込んで、人の尊厳を踏みにじってくるの」
    「ひどいな」
    「えぇ、あの敗北で戦う心を芯からへし折られた私は、敗北感とトラウマを植え付けられ三ヶ月間、全く勝てなくなった。何とか再起してリベンジを誓ったけど、忽然と蒸発して音信不通状態になっててね」
    「ふーん……一体、何者なんだ?」
    「分からない。ただあの感じ、もしかしたら……」
     そこで聖子は、一人の人物の名をあげる。俺は思わず聞き返した。
    「それは本当か?!」
    「多分ね。名字も一緒だし」
     うなずく聖子に俺の口からため息が漏れた。
     ――これは、厄介な事になりそうだ。あまり気乗りしないが一つ、親父に頼むか。
     俺はスマホを取り出すや、連絡を入れた。無愛想に応じる親父に、要件のみを伝えていく。
    「状況と事情のあらましはこんなところだ。例の桜志会のツテで誰か適当な人はいないか?」
    「まぁ、当たってみよう。それよりお前、ベンチャーごっこもいいが、学業も忘れるなよ」
    「分かってるさ。心配ない」
     俺は親父との会話を面倒くさげに切るや、PC上でスタンバイ状態にあるセイコ02を眺めつぶやいた。
    「J、勝負だ。覚悟しろ」
     
     

     さて、Jを倒すとしても、まずはその身柄である。これについて妙案を出してくれたのが、海外に精通する桜志会の高橋先生だ。
    「優斗君、〈アルゴ〉って映画を知ってるかい?」
    「や、知らないです」
     電話越しにかぶりを振る俺に高橋先生が説明した。何でも1979年にイランで起きたアメリカ大使館人質事件で、CIAとハリウッドが架空の映画制作をでっち上げ、人質をロケハンに来たスタッフに偽装させ出国させた史実がモデルの映画らしい。
    「優斗君は、この映画をモデルにすればいい」
    「と申しますと?」
    「架空のオンラインゲーム大会をでっち上げ、これをトラップにエントリーして来たJを誘い込むんだ」
    「あー……」
     高橋先生の策に、俺は思わず受話器越しに唸った。試しに谷口社長に相談すると「丁度、お蔵入りになったゲームがある」と大いに乗り気である。
     俺は高橋先生に礼を述べ通話を切るや、すぐさまJを誘い込む為だけのオンラインゲーム大会を設定した。コードネームは、ずばり〈アルゴ〉だ。
     ネット上に広く告知した俺達は、成り行きを見守っている。
    「Jの奴、来るかな」
     セイコ02のエントリーを済ませたものの、若干の不安を覚える俺と隼人さんだが、これを聖子が一蹴する。
    「必ず来るわ。賭けてもいい」
    「根拠は?」
    「アイツの性格よ」   
     聖子の断言に俺は黙り込む。ひたすら待機する俺達だが、ついにその機会が訪れた。エントリー欄にJの名が躍り出たのだ。俺と隼人さんが思わず拳を握りしめる。
    「よしっ」「かかったな」
     俺達は早速、捕獲へと乗り出す。巧妙に出口を封鎖した上でセイコ02に作戦発動の指令を下した。
     だが、ここで異変が起きる。セイコ02が否定的な反応を示したのだ。
    「一体、どうなってるんだ!?」
     指令に応じないセイコ02に困惑する俺達だが、これをパーソナルデータの提供主である聖子が推察した。
    「多分、出来ないんだと思う」
    「どう言う事だよ。折角、Jを罠に嵌めたんだぜ」
    「Jも何かを仕込んで来たのよ。それをセイコ02が察した」
     果たして聖子の仮説は、的中する。調べた結果、Jはトラップと承知の上で乗り込み、谷口エンタープライズを本丸から破壊しようとしていた。
     さらに聖子は、もう一つの読みを示す。
    「セイコ02はね。衆目下でJと一騎討ちがしたいの。正々堂々とね」
    「なんで分かるんだ?」
    「私がそうだから」
     淡々と答える聖子に俺は、黙り込む。しばし考慮の後、問うた。
    「じゃぁ、どうなるんだ?」
    「決まってるわ。ゲームスタートよ」

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