返信先: 【新企画】桜志会が大活躍する挿絵小説
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※ スミマセン。第七話から「桜志会」を間違えて「竹葉会」と書いてきてしまいました。
(誤)竹葉会 → (正)桜志会 です。
第十一話
Jを嵌めたつもりが、逆に嵌められる始末となった俺達は、固唾を飲んで画面を注視している。聖子の言う通り、トラップがバレた以上、勝負は欺瞞のために用意されたゲーム・アルゴへと移らざるを得ない。
――マジかよ。
俺は頭を抱えつつ、カウントダウンを追った。やがて、ゼロとなったところでゲームがスタートした。たちまち画面が切り替わる。
セイコ02とJは、ともに木造の飛行船が飛び交うファンタジックな世界へと投げ出された。
「隼人、ここのゲーム設定は?」
谷口社長の問いに隼人さんが、マニュアル片手に応じた。
「うまくギミックを活かしてポイントを稼ぎながら闘うサバイバルゾーンです。まさか本当にここを使うとは、想定していませんでしたが……」
「仕方がないわ。こうなった以上、セイコ02に勝負を託しましょう」
どうやら谷口社長も腹を括ったらしい。勝負を見守るその目は、まさに経営者として戦う者の目だ。
一方、俺は作業に忙殺されている。使うことを想定していなかったゲーム・アルゴが不具合を起こさないか、コードを見直しているのだ。
社内がてんやわんやの大騒ぎとなる中、隼人さんの怒声が響く。
「優斗、アルファーモードのチェックを頼む!」
「今、やってますけど、もう持ちません」
「持たないって、じゃぁどうするんだよ!?」
声を荒げる隼人さんに、俺はしばし考慮の後、言った。
「こうなったら隼人さん、切り札を使いましょう」
「切り札って、アレか?」
隼人さんの目が谷口社長を向く。谷口社長は迷うことなくゴーサインを出した。
「優斗、やれ」
俺は間髪入れずにエンターキーを叩く。たちまちギリギリだったゲームステージの負荷が半減した。難を逃れた俺達だが、この策にはリスクを伴っている。あくまでセイコ02の勝ちを前提とした処置なのだ。
もし負ければ、谷口エンタープライズのデータは筒抜けとなり、全ての技術が国境なき税務団に渡ってしまう。それだけに二体の戦いに対する眼差しは真剣だ。
――頼むぜセイコ02。
俺は祈るような気持ちで成り行きを注視している。一進一退の攻防が繰り広げる中、俺の関心はJの正体へと移った。
〈Jのパーソナルデータ提供主、おそらくジョン黒田の息子よ〉
先だって聖子から明かされたJの正体だが、俺は信じられなかった。ただ今、改めて見るとその雰囲気は揃っている。ただ確信が持てない。
そんな中、セイコ02の放つ前蹴りがJの顔面を捉えた。たちまちJのサングラスが弾け飛び、その下から素顔が露わになった。
――あれがJの素顔!?
俺は思わず目を奪われた。それは、明らかにジョン黒田の遺伝子を引く面構えだった。
――間違いない。Jのパーソナルデータはジョン黒田の息子、ジェイソン黒田だ。となれば……。
解明した謎に吹っ切れた俺は、セイコ02に新たなプログラムを施した。実は聖子からこの可能性の指摘を受け、あらかじめ専用の戦闘パターンを用意していたのだ。
画面にインストール完了の文字が踊るや否や、セイコ02のファイティングスタイルがガラリと変わった。
「へぇ、カポエラじゃない」
興味深げに身を乗り出す聖子に、俺はうなずく。このカポエラとは、黒人奴隷が看守にばれないようダンスのふりをして修練した格闘技とされている。
手かせをされていた奴隷が鍛錬した格闘技ゆえに、足技がメインとなる。特徴はトリッキーでアクロバティックな動きだ。これが対J戦で大いに威力を発揮した。
「よしっ」「いけ」「やっちまえ」
画面を前に俺達の観戦にも熱が入った。手に汗握るバトルは、やがて佳境に差し掛かる。ついにJを甲板の端まで追い詰めたのだ。
――勝ったな。
勝利を確信した俺達だが、不意にJがガードを下げニヤリとほくそ笑んだ。次の瞬間、Jは自らの身体もろとも木っ端微塵に吹き飛んだ。その衝撃たるや用意したアルゴのサイバースペースの約半分を破壊する凄まじいものだった。
「自爆するとは、な……」
「まさかセイコ02もJの道連れに!?」
愕然する俺達だが、聖子が笑みとともに画面を指差し言った。
「曲がりなりにも私のコピーよ。そんなやわじゃないわ。ほら、ここ」
促されるままに目を走らせると、確かにセイコ02の姿があった。どうやら周囲のプログラム素材でバリアを構築し、最深部への通路へ逃れたらしい。
そのポテンシャルに俺達は、改めて舌を巻いた。
かくして勝利をおさめた俺達だが、失ったものも大きい。Jの自滅の巻き添えとなったサーバーは三台、うち二台が再起不可能なダメージを受けオシャカとなった。
谷口エンタープライズが全社を挙げて復旧に取り組む中、俺はやり切れない気持ちでいっぱいだ。
――確かに勝利はした。自滅したとはいえ、断片の回収からJの分析は可能だろう。だが……。
項垂れる俺に聖子が傍らから声をかけた。
「優斗、大丈夫?」
「あぁ、ただちょっとやり切れなくてね……」
「Jの事ね?」
聖子の問いに俺は黙ってうなずく。確かに本体が保存されている以上、複製を産むことは可能だろう。
だが、あれも俺達と同じ一つの生命体なのだ。その命を何の躊躇もなく、いとも簡単に自滅させた。それは間違いなく母の仕事なのだ。
「戦争は人を狂わせる。どうやら母さんは変わってしまったらしい」
虚ろな瞳を宙にさまよわせる俺の気持ちは、塞ぎ切っていた。
Jとの激闘から数日が経った。相変わらず気の晴れない俺だが、そんな憂鬱を吹き飛ばす出来事が起こった。キッカケは学校のホームルームで、いかにも体育会系といった担当教師の岡村が、転校生を知らせたことに由来する。
――転校生? 今どきか?
頭にクエスチョンマークを浮かべる俺は、岡村の合図で入ってきた男子学生に思わず目が点になった。茶髪に後ろを括った丁髷姿を俺は知っている。誰であろう。Jだ。
「ジェイソン黒田君だ。皆、仲良くするように。席は五十嵐の隣でいいだろう」
岡村に促されたジェイソンは、一礼とともに俺の隣に腰掛けるや、片目をつぶって見せやがった。その大胆さに俺は、驚きを通り越し呆れている。
その後、休憩時間を待って俺は切り出した。
「おいJ。一体、どういう魂胆だよ!」
「優斗、リアルの僕はJじゃない。ジェイソンだ」
「どっちでもいい。何の真似でここに来た!?」
問い詰める俺にジェイソンは、冷笑しつつ目を細めながら言った。
「ちょっと、色々ありましてね。何かと思惑が錯綜してるんですよ。特に桜志会絡みで、ね」
――桜志会絡みだと!?
怪訝な表情を浮かべる俺に、ジェイソンは席を立ち手招きした。促されるまま後に続く俺だが、胸の内は疑心暗鬼でいっぱいだ。
――コイツは、俺達が敵対する国境なき税務団のボスの息子じゃなかったのか。その御曹司がなぜここにいるんだ。
謎が次々と頭を駆け巡る中、俺達は自販機前の休憩室でベンチに腰掛けた。徐ろに切り出したのは、ジェイソンだ。
「まず初めに申し上げますが、僕はあなたと敵対関係にありません。これだけは保証しましょう」
「おいちょっと待て。よく言うぜ。つい先日、サイバー空間でやり合ったばかりじゃねぇか。ド派手に自爆かましやがって、復旧にどのくらいかかるか見当もつかねぇんだぞ」
「だから、それは僕じゃないんです。ただ分身がネット上で暴れただけで、僕個人とは一切、無関係。あなたも十分ご存じのはずですよ」
「じゃぁ、その本体とやらが何の用でここへ? 桜志会とどういう関係なんだよ?」
立て続けに問いを重ねる俺に、ジェイソンは澄まし顔で紙コップのコーヒーを口につけながら、ゆっくり説明を始めた。

