返信先: 【新企画】桜志会が大活躍する挿絵小説

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一井 亮治
参加者

     第十二話

    「優斗、国境なき税務団について、どこまでご存じですか?」
    「デジタルジャパンを建国し、世界を最適化した上でその運営を無税で回していこうってことくらいだ」
    「十分です。では桜志会については?」
    「税理士からなる任意団体だ」
    「この二つ、似てると思いませんか?」
    「はぁ!?」
     俺は思わず首を傾げた。無理もない。全くの異物を同類だと説明されたのだ。混乱するのも筋だろう。だが、ジェイソンは構うことなく続けた。
    「優斗、君も感じていると思いますが、ネット社会では分かってるか、分かっていないかのオール オア ナッシングで、そこに理解はないんです。あるのは肌感覚の実感だけ」
    「まぁ、言わんとすることは分かる」
     俺は取り敢えず、納得してみせた。かつて、俺もプログラミングの威力と凄さに衝撃を受けた瞬間はあった。人間が手間を労する作業を、機械はわずか十数行のプログラムで簡単にこなしてしまうのだ。
     凄いパワーを手に入れた――まるで己の力が数倍に飛躍したかのような錯覚が、俺を虜にし今あるネットリテラシーのベースとなっている。
     才能や努力じゃない。ただ知っているか知らないかだけ。だが、慣れていない人間は、この差を理解で埋めようとしてしまう。
     結果として、実態とかけ離れた虚像を思い描き失敗に至るのだ。
    「時空を超えた非言語的コミュニケーション能力、とでも言いましょうか。超人的な直感力に洞察力……つまり、我々はニュータイプ世代と言うです」
    「ガンダムか? 随分、古い例えだな」
    「えぇ、ですが言い得て妙でしょう?」
     ジェイソンは、微笑を浮かべながら続けた。
    「あくまで私見ですが、桜志会が担う税務行政支援の肝は、公平・中立・簡素。これを突き詰めた先に国境なき税務団が目指す無税国家がある。特にデジタルがこれを加速させる力を持っている」
    「あのなぁジェイソン。俺達は人類のためと称し、テロを起こしたりはしない。同じ土俵で語るな。心外だ」
     吠える俺だが、ジェイソンはここで爆弾を落とした。
    「優斗、僕は君こそがデジタルジャパンの初代国家元首に相応しいと思っているんです。そのためにここに転校して来ました」
     これには、さしもの俺も思考が停止した。一体、何をどう考えればそのような結論に達するのか。大いに疑問を感じる俺だが、どうやらジェイソンは本気らしい。
    「優斗、本当に君は理想なんです。適度にものを知りつつ、同時に深くものを知らない。一つ、僕が指南役となりましょう」
     そこでジェイソンは、ピタリと説明を終えた。
     
     
     
     放課後、俺はいつもの公園の自販機前で聖子と合流した。普段と違うのは、ジェイソンを伴っている点だ。これが場の空気を凍らせている。
     特に聖子が頑として口を聞かない。
     ――どうやら、これは想像以上らしい。
     俺が時間を持て余していると、ジェイソンが両手を上げ肩をすくめて、お手上げの仕草を見せた。
    「分かってくれよ聖子。僕は君達の味方なんだ。ただネット社会に適合する未来のあり方について、段取りをつけに来たに過ぎない」
    「ジェイソン、悪いけど私は信じられない。あなたは、もっと別の目的で派遣されてきたはずよ」
    「ないない。聖子、確かに君とは以前、一悶着あったかもしれないが、それも含めて詫びる。どうか信じてくれ」
     ここでジェイソンは、一束の資料を見せた。何事かと首を傾げつつ、俺は聖子とその資料に目を走らせ思わず声を上げた。
    「ジェイソン。これって……」
    「国境なき税務団で見積もられているデジタルジャパン建国の行程表、通称・天沼矛プロジェクトさ。水面下ながらも各国から独立国の承認を得ている。まさに古事記の国産みだ。興奮するだろう?」
    「しねぇよ。日本だけならいざ知らず、これを一里塚に世界の国境を和の価値観で書き換えるつもりなのだろう」
    「いかにも。時代の要請を受ける形でね。これは、目に見えない独立戦争の新しい形態というわけです」
     鼻息荒く語るジェイソンに俺は、達観美味に問うた。
    「ジェイソン、百歩譲ってそれを認めるとして、だ。俺達に何を求める?」
    「イザナミとイザナギをやって欲しい。日本をアナログの楔から解き放ち、デジタルという新たな坂の上のクラウドに向けて駆け上がる。その先陣を切っていただきたい」
    「詭弁だな。要するに桜志会を通じ、和解交渉を持ちかけたいって事か?」
    「有体に言えば、そういう事です。協力出来るところは協力し合う。合理的でしょう?」
     涼しい顔で言ってのけるジェイソンだが、確かに筋は通っている。一定の理解をした俺だが、それでも胡散臭さは残った。
     ――さて、どうしたものか。当然、聖子は反対だろうしな。
     そんなことを感じつつ頭を捻る俺だが、意外にもこれを聖子は受け入れた。
    「いいでしょう。ジェイソン、アンタを信じる」
    「本当かい。そうか、分かってくれたか。嬉しいよ。桜志会と国境なき税務団――君達にとっては相入れない存在だろうけど、その間はこの僕が取り持つ。任せてくれ」
     善は急げとばかりに去っていくジェイソンを見送った俺だが、その姿が見えなくなったところで、聖子がポツリと言った。
    「優斗。絶対、あいつから目を離さないで。あれは何らかの魂胆を隠した顔よ。そのうち必ず尻尾を出すから、それを見逃さないで。いい?」
    「え、あぁ……分かった」
     俺は促されるがままにうなずく。その後、しばらく今後の方針を話し合っていた俺達だが、不意に甘い香りが漂ってきた。見るとクレープの移動販売カーが公園に立ち寄っている。
    「あ、あそこのクレープ。評判になってた奴! ちょっと待ってて」
     甘いものに目がない聖子は、取るものも取らずに駆け出していく。その背中を見送った俺だが、そこへ太いダミ声が響く。
    「お、君は確か五十嵐先生のところの息子さんじゃないか!」
     驚き振り返った先に立っているのは、大柄の五十代半ばと思しきスーツ姿の中年男性だ。恰幅のいいその様は、どこかの社長といった風体だる。
     ――ん? 何だこのオッサンは?
     首を傾げる俺だが、そのオッサンは「ちょっといいかい?」と了解を求め、俺の前に腰掛けた。
    「あの、どこかでお会いしましたっけ?」
    「桜志会のイベントでね。まぁ、チラっとだけだが」
    「あー……桜志会の先生でしたか」
    「うむ。片桐だ。君の事は色々聞いているよ。国境なき税務団を相手にあそこまで立ち回るとは。五十嵐先生もさぞお喜びだろう。君もやっぱり税理士を目指すのかい?」
    「や、そこまではまだ……」
    「ふむ。もしなったら是非、桜志会に参加してくれ。喜んで迎えよう」
     大いに歓迎モードの片桐先生に俺は「それはどうも」と頭を下げた。その後、いくつかの雑談を挟んだ後、何用で来られたかを問うと、片桐先生は丸メガネを押さえ、ため息とともに説明した。
     なんでも桜志会の活動が、閉塞状態気味になっているらしい。
    「会の運営に支障はない。だが、何というか……組織が持つポテンシャルを活かし切れていなくてね。君はどう思う?」
    「え、や……どうと言われても、親父が桜志会なだけで、俺自身に資格はありませんし……」
    「その割には、随分と活発じゃないか。一つ、五十嵐先生に変わって助言してくれ。忌憚なく言ってくれればいい」
     胸の内を晒す片桐先生に、俺は恐縮しつつも、思いの丈を述べた。
    「あの、俺が言うのも生意気ですが……皆、桜志会活動を心の中から楽しんでおられないのでは?」
    「そりゃ、付き合いもあるだろう」
    「その考え方は、時代が右肩上がりだった頃にはプラスに働きます。ですが、会員数が五百人を切っている。入ろうか迷っている、もしくは辞めたいと思っている状況では逆効果です。なら作戦がいる」
    「ほぉ……」
     興味深げに身を乗り出す片桐先生に、俺はズバリと切り出した。
    「〈太陽と北風作戦〉で、どうですかね?」
     どこまで伝わるか不安だった俺だが、どうやらその意を察してくれたようだ。片桐先生は、意味深に問うた。
    「つまり、あれか。活動の参加を強制する北風でなく、太陽で胸襟を開かせろ、と」
    「はい。桜志会は任意団体です。なら本気で楽しまないと」
    「出来るか?」
    「出来ると思いますよ。楽しさを感じれないのは、きっと組織に使われているからです。逆にこちらからその組織力を使ってやる感じ? そうなれば自然と楽しくなる。その空気は確実に伝播する。自分も楽しまねばとなって」
    「旅人は外套を脱ぐ。太陽の勝ちとなる、と」
    「はい。参加すると言うより攻略する感覚ですかね。小さく産んで大きく育てよ。少しずつ楽しめる領域を広げていければ。そもそも楽しくなければ続きません。続けば継続は力となる。その好循環が数年後に大きな差となって返ってくる気がします」
    「なるほどな。しかし、会員でもないのに、その歳でそこまで考えているとは驚きだな。ちょっとマセ過ぎじゃないか」
     片桐先生は冗談を絡めつつ、肩を揺らし大いに笑っている。楽しげなその表情は、まるで少年に戻ったようだ。
    「いやぁ、愉快だ。昔を思い出すよ。何も考えず、ただ目の前に熱中していたあの若かれし頃をね……っとイカン。もうこんな時間か。優斗君、また会おう」
     笑顔で手を振り去っていく片桐先生を見送った俺だが、そこへクレープを手にした聖子が戻ってきた。
    「優斗。あれ片桐先生じゃない。一体、何を話してたのよ?!」
    「や、大した事は……っていうか片桐先生って有名なのか?」
    「有名も何も、あの人が今の桜志会の会長さんなのよ!」
     ――あぁ、あの先生が……。
     俺は改めて納得するや、片桐先生が去っていた方向を呆然と眺め続けた。

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