返信先: 【新企画】桜志会が大活躍する挿絵小説
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第十三話
ジェイソンの暗躍が著しい。ある時は国境なき税務団のエージェントとして、またある時はただの一高校生として、ころころとその身を変えながら時代に干渉していく。
桜志会を通じ税務当局との和解を打診したかと思えば、米中の圧力を演出し日本にデジタル開国を迫るなど、そのハードネゴシェーターぶりはまさにフィクサーだ。
あまりの目まぐるしさに、見ているこっちも認識が追いつかない。目指すべきゴールを矢継ぎ早に設定し、そこに時代を引き寄せていくのである。
――ただの一高校生のくせに……。
苦々しく見ていた俺だが、奴はまるで気にかけない。それどころかこんな説教までしやがった。
〈優斗、世の流れが早い今、大器晩成を待っているうちに時代が変わってしまう。これからは早熟の時代なんだ〉
つまり、高校生でもスマホ一つで世界に発信し世の中を変えられる。今や才能の時代に突入したのだ、と。
事実、ジェイソンのSNSは著名な起業家や投資家、政治家で溢れ、大企業が特許を取る前にそのアイデアをネットに晒し、クラファンで資本まで調達してしまう。実にデジタルネイティブだ。
その発信力を前に学歴は死語と化し、むしろフォロワー数の方が人を計る指標に変わりつつある。
これに疑惑の目を向けたのが、聖子だ。
「アイツ特有の時間稼ぎよ。すでに国境なき税務団は、計画の第一段階を終了していると見るべきね」
ファーストフード店でハンバーガーを豪快に齧りながら、聖子が罵る。俺は手短に念を押した。
「ジェイソンが言ってた天沼矛プロジェクトだな?」
「それ、ちょっと調べたけど綺麗なのは表面だけ。一皮ひん剥けば、エゴの塊だわ」
「確かリアルを排したデジタルの境目で、世界中の国境をAIに統廃合させるんだよな。国籍、年齢、宗教、職業といった顕在的な属性データではなく、何に関心を示し興味を覚えるかという潜在的な行動ログデータをベースとする、と」
まとめる俺に聖子は、口の中に頬張ったポテトをジュースで強引に流し込みながら、続けた。
「奴はこのデータ源をメタバース、つまり、サイバーシティに求めている。すでに各国のデータサイエンティストも動き出しているわ。情報戦が始まっているの」
「そうは言うが、日本は平和だぜ」
「あのね優斗、有事の結果は平時の備えで決定するの。アイツは必ずアナログ日本からデジタルジャパンの建国を宣言する。独立戦争も辞さないと言ってね。とにかく目を光らせておいて」
聖子は、怒り心頭に立ち上がるや、自分の分の会計をテーブルに叩きつけ、一人で去ってしまった。聖子にほぼ一方的に捲し立てられつ俺だが、どこかでジェイソンに共鳴する己を感じている。何となく俺と似ているのだ。それも嫌な部分が。
――最終的にものをいうのは財の根幹をなす徴税権だ。果たして日本は、国境なき税務団が模索する独立国家デジタルジャパンからこれを守り切れるのか。日本人はどちらを祖国と認めるのか。
俺はその成り行きを注視している。
厳冬がピークに差し掛かるある日、事件が起きた。セイコ02が忽然と姿を消失させたのだ。
それはメタバース関連会社から、サイバー空間上に謎めいた光の報告を受けたことに起因する。セイコ02を走らせた俺達だが、確かに光が検出された。
「ただのバグにしては、サイズがデカい。国境なき税務団の新兵器ですかね?」
あたりをつける俺に隼人さんがかぶりを振る。
「ない。今、奴らは税務当局と交渉中で微妙な時期だ。こちらを刺激することは避けるだろう」
「じゃぁ、プログラムの不具合とか?」
「それもない。ソフトの見直しは先日やったばかりだ」
「となると……」
頭を捻る俺だが、ここで聖子が思わぬ指摘をする。
「多分、Jの残骸よ。先日のバーチャル戦で砕け散った断片がサイバー空間に残って、メタバースに悪さをしている」
「なるほど、それはあり得るか。奴らを知る手掛かりになる。回収しよう」
隼人さんはすぐさま指令を下す。たちまちセイコ02の姿が電子防護服モードに切り替わり、入力した座標で作業へと入った。
だが、事態は思わぬ方向に転がる。断片と思しき光にセイコ02が触れた途端、一帯が振動で乱れ始めたのだ。隼人さんが動揺しながら言った。
「エラーだ。かなりデカいバグが発生している!」
「隼人さん、早くシステムを。セイコ02を撤収させてください」
俺は叫ぶものの、隼人さんの操作をセイコ02は受け付けない。
「聖子! そっちで何とかならにか」
「ダメ。こっちも反応がない」
――なんてこった。
俺は頭を抱えた。その後も盛んにアプローチをかけ続けるものの、セイコ02は完全に沈黙している。そうこうしているうちに、サイバー空間にいたセイコ02は、電子の海に飲み込まれ始めた。
混乱をきたす俺達だが、どう足掻こうとにっちもさっちもいかない。
「参った……」
隼人さんが苦悶の表情を浮かべる中、俺は聖子とともに手作りのマニュアルを追っかけていく。そこで思わぬ事実が発覚した。どうやらデータが書き換えられてしまったらしいのだ。
聖子が声を上げた。
「どう言うことよ? じゃぁセイコ02はもう……」
「いや、それは支障がない。とにかく元に戻そう」
俺は隼人さんと復旧作業に取り掛かる。そこで何とか消失前の痕跡を見つけ、リカバリーリをかけた。
気の遠くなるような作業の末にようやくセイコ02の復元に成功したものの、スリープ状態に入ったままうんともすんとも発しない。
判明したのは、何かを仕込まれたらしいという事実だ。そのコードの特徴を俺は知っている。
――間違いない。母さんの仕事だ。
俺は冬眠に入ったセイコ02を前に頭を働かせる。おそらく奴らは何らかの意図があって時間を稼ぎ、こちらの動きを封じたのだ。
「まんまと嵌められたわね」
唸る聖子に俺も異論はない。ただその規模には違和感を覚えている。
――おそらく想像を超える動きを狙っているに違いない。
身構える俺達だが、やがて、その意図は明らかとなった。これまでなりを潜めていた国境なき税務団が、大攻勢を仕掛けてきたのだ。
その勢いたるや、実に凄まじい。あっという間に三段構えの防御壁の二番目までが突破されてしまった。
さらに桜志会の岡本先生からも、サイバー攻撃を受けている連絡が入った。税務当局も同様らしい。
――かなりマズい。セイコ02の起動を待つ時間がない。だが、このままでは全滅だ。
ジレンマに陥る俺だが、はたと傍らで何やら作業に入る聖子に気がつき、声を上げた。
「おい待て聖子、まさか……」
「そのまさかよ。セイコ02にかわって私が直接、サイバー空間にダイブする」
「幾ら何でもそれはマズい。リスクも考えろよ。まだテスト中の技術なんだぞ」
俺と隼人さんが慌てて説得に入る。実はデジタル生命体のプログラミングにあたり、ベースとなるパーソナルデータを聖子に求めたのだが、その技術を転用し、直接サイバー空間へダイブする開発を進めていたところなのだ。
俗に言うVRMMO技術で、バーチャル空間内の世界に専用デバイスで入り、五感を使って遊ぶ〈仮想現実大規模多人数同時参加型オンラインゲーム〉をさす。
当然、臨床試験も終わっておらず、テストも数回しか行われていない。下手をすれば脳波に直接ダメージを受け意識は戻ってこない。
俺と隼人さんは、その旨を懇々と説くものの聖子は「リスクは承知の上」と構わず準備に入っていく。元々、喧嘩っ早い聖子だ。一度、闘争心に火がついてしまえば、誰にも止められない。
やむなく俺と隼人さんは、聖子のギャンブルに付き合うこととなった。