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一井 亮治
参加者

     第十四話

    「いいか聖子、使える時間はせいぜい十分だ。無理だけは絶対にするなよ」
    「そうだ。許可はするが、身の安全は守ってくれ」
     必死に注意を喚起する俺と隼人さんに聖子はうなずくや、ヘッドセットを装着する。スイッチを入れシステムを起動させるとともに、脳波をセイコ02とリンクさせた。
     どうやら成功のようだ。これまでうんともすんとも言わなかったサイバー空間上のセイコ02が、ゆっくり目を開いた。無論、意識は聖子本人が担っている。
     はじめこそ若干の戸惑いを見せた聖子だが、持ち前の順応性ですぐさま活動へと入った。
     ――よし、いいぞ……。
     俺は送られてくる映像を眺めながら、聖子と意思疎通を図っていく。まず始めたのが、サイバー空間の探索だ。その光景たるや目を覆わんがばかりである。
     暴走したワームウィルスが、これでもかと押し寄せてくるのだ。
    〈優斗、隼人さん、私はどうすればいい?〉
     作戦を問う聖子に、俺は応答した。
    〈まずは、コアを見つけるんだ。それを撃退すれば、自然と他の連中も去っていく〉
    〈オーケー〉
     聖子は俺に応じるや、雲霞の如く押し寄せるワームウィルスの大群へと自ら飛び込んだ。襲いかかるワームウィルスの攻撃をものともせず、物凄いスピードでかっ飛ばすその様は、まさにスーパーマンだ。
     やがて、聖子はコアらしき中枢を捉えた。そこをてぐすね引いて待っているのがJだ。
     ――どうやら修復は完了していたようだな、J……。
     存在を確認した俺は、すぐさま聖子に交戦を指示した。
     だが、どうも様子がおかしい。目の前のJは、なりこそ同じであるものの、以前に戦った様子とは雰囲気が大いに変化している。
     まず攻撃力が違う。奴が突き出す手から放たれる衝撃波は、一発でも食らえば致命傷レベルだ。そこにスピートが伴うのである。
     ――何なんだこの強さは!
     違和感を覚えた俺だが、そこに臆する聖子ではない。巧みにその衝撃波をかわしつつ、遠距離攻撃を得意とするJの懐へと飛び込み、至近距離での肉弾戦へと持ち込んでいく。
     たちまち二体は格闘ゲームさながらのガチバトルに入った。手に汗握る攻防に俺達の声援も熱が入る。だが、なかなか勝敗に行きつかない。
     ――マズい。もう時間がない……。
     タイマーが残り一分を切る中、二体は壮絶な戦いを繰り広げている。そんな中、ついに決着のときが来た。
     聖子とJの放つ拳が交差し、互いの顔面を同時に捉えた。その威力は、双方にとって油断ならぬレベルである。
    「聖子!」
     思わず声をあげる俺だが、何とか持ち堪えている。対するJは、戦況を不利と見たのか、戦いを中断し去っていった。その背中を見送りながら、隼人さんが言った。
    「何とか勝った、か」
    「えぇ、ただ我々も追い打ちをかけるところまでには至らない。もう時間がない」
    「分かった。撤収しよう」
     隼人さんの一声に俺はうなずき、聖子の意識を仮想空間から現実世界へと引き戻した。
     完全に意識を回復させたところで聖子が起き上がり、ヘッドセットを外した。
    「聖子、よくやった。国境なき税務団の撃退成功だ。皆が撤退していく。よくやったな」
     労をねぎらう俺だが、聖子の表情は冴えない。何やら考え事をしているようである。しばし時間を待った上で、ポツリと言った。
    「私が戦ったJ。おそらくデジタル生命体じゃないわ」
    「え、どう言うことだよ」
     問い返す俺に聖子は、しばし考慮の後、言った。
    「あいつ。多分、Jじゃなく本体よ」
    「それって、つまり……」
    「ジェイソンが直接、乗り込んできたのよ」
     聖子の推論に思わず俺は声を上げた。
    「それはないだろう。何でそこまでの危険をおかすのさ?」
    「多分、うちと同じ。間に合わなかったんだと思う。確証はないけどね」 
    「つまり、ジェイソンは平然と俺のクラスメイトを演じつつ、今回、好機と見て攻撃を仕掛けてきたと?」
     俺の問いに聖子は黙ってうなずく。俺は思わず宙を仰いだ。確かにそう考えれば辻褄は合うものの、あまりに自然体を振る舞うジェイソンに確信が持てない。
     俺は徐ろにスマホを取り出すや直接、本人に確認を試みた。
    「ジェイソン。一体、どう言うつもりだよ。税務当局と和平調停に入っていたんじゃなかったのか? しかも、J本体とリンクして直接、襲ってくるなんて、卑怯撃ちもいいところだ」
     多少、かまをかけて問い詰める俺だが、ジェイソンはシラを切り続ける。そのすっとぼけぶりにキレたのが、聖子だ。俺のスマホを奪い取るや、吠えた。
    「ジェイソン、これ以上交渉しても埒が開かない。勝負しなさい! 場所は私が通ってる東洋ジム、そこでケリをつけましょう」
     どうせのらりくらりで応じないだろうなと思っていた俺だが、意外にもジェイソンはこれを受けた。
     聖子はスマホを俺に返すや、立ち上がり言った。
    「優斗、行くよ。奴に引導を渡してやるわ」
     
     
     
     かくして俺達はジェイソンに果し状を突きつけ、東洋ジムへと向かった。その道中で聖子の鼻息は荒い。
    「あのときの屈辱もまとめてリベンジしてやるわ」
     憤慨気味の聖子を傍らに置きつつ、俺は冷静に頭を働かせる。どうしてもジェイソンに対し、違和感が残るのだ。
     ――アイツは一体、何をしたいのか。立ち位置が読めない。
     国境なき税務団と繋がっている以上、敵なのだろうが、平然と俺達の前で私生活を送る大胆さには、やや感服だ。
     話し合った感じでは、実に礼節の行き届いた好青年だ。もっとも聖子に言わせれば、慇懃無礼となる。過去に一悶着あった経緯は聞いているものの、これに執着する聖子と無頓着なジェイソンの間には、明らかなズレがある。
     ――何はともあれ売った喧嘩だ。聖子の性格もある。納得いくまでやり合って白黒つけるしかないのだろう。
     やや達観気味な俺は、息巻く聖子の後に続いた。

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