返信先: 【新企画】桜志会が大活躍する挿絵小説
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第十六話
谷口エンタープライズの開発室で、俺は隼人さんとともにヘッドギアを装着し、コード類に繋がれた聖子を見守っている。
「どうだ聖子?」
俺はセイコ02とリンクし、防護アーマー姿の聖子とPC画面越しに会話を交わす。
「悪くないよ。ただちょっと重いけどね」
「オーケー、じゃあ早速、サイバー空間で実証試験と行こうか」
切り出す隼人さんに画面上の聖子は、うなずく。
本来ならもっと簡単なテストから始めたいのだが、聖子が首を縦に振らない。やむなく初歩をすっ飛ばし、いきなり実戦的なテストから入った。ステージはスペースエリアの開放ミッションである。
対戦相手は、国税局徴収部と防衛省のサイバー部隊がタッグを組む混合部隊だ。国境なき税務団を仮想敵としている。
――さて、聖子はどこまでサイバー戦用防護アーマーを使いこなせるか。
隼人さんとPC画面で成り行きを見守る俺だが、その結果は凄まじいものだった。サイバー空間に放たれた聖子は、まさに水を得た魚の如く縦横無尽に暴れ回り、あっという間に全ての仮想敵を撃退してしまったのだ。
俺は思わず舌を巻く。
「驚いたな」
「僕もだよ」
隼人さんも同調している。
興奮を覚えた俺達は、したり顔で戻ってきた聖子に次のステージへと進ませた。野生エリアだ。隼人さんが説明にかかる。
「いいかい聖子ちゃん。君が着るパワードスーツの一番の特徴は、状況に応じて変形出来る点だ。右腕のタッチパッドで……」
「これね」
あたりを付けた聖子が、タッチ操作を入力する。たちまち白い宇宙戦仕様の角張ったパワードスーツが、光とともに粉々に砕け散り丸みを帯びた迷彩仕様へと形状を変えた。
「凄ーいっ! 変身ヒロインみたい」
興奮する聖子に隼人さんは、さらに続ける。
「この野生ステージで是非、試して欲しいのが……」
「ステルス、かな」
応用を効かせた聖子が操作を入れると、パワードスーツの表面が周囲の景色を読み取り保護色に変わった。まるでカメレオンの如くだ。
「……お察しの通りです」
説明する前に次々と機能を使いこなす聖子の順応力に、隼人さんも苦笑いだ。ここで俺達は一つの案を試みた。聖子にこのエリアの詳細なルールや注意点を敢えて伏せることとしたのだ。
――戦場には誤算がつきものだ。その中でどれだけ応用力を働かせられるか。
俺達がPC画面を注視していると、不意に背後から声がかかる。
「どっちが勝つか、賭けてみる?」
驚き振り返る俺達の前には、いつの間にか谷口社長が立っていた。挨拶に立ち上がろうとする俺を手で制し、谷口社長は言った。
「もし、このエリアを聖子がクリア出来れば、ランチを奢ってあげるわ」
「え、マジですか! ゴチになります」
「何それ優斗? アンタ、もう勝った気?」
呆れる谷口社長に隼人さんが声をあげて笑った。俄然、応援に熱の入った俺達は画面を注視していく。
鬱蒼と茂るジャングルを、電子迷彩を駆使して敵地エリアに忍び込む聖子だが、その前に敵司令部が現れた。
本来ならここで一気に攻めに出るのがセオリーだが、意外にも聖子は慎重だ。ひたすら待機し、じっと時を待っている。
――なるほど。我慢比べという訳か……。
聖子の意図を汲んだ俺は、その変化に驚いている。どうやらジェイソンとの一戦が相当こたえたらしい。勝ちを急ぐあまり感情面でアツくなり過ぎるこれまでとは、打って変わって冷静だ。
ミッションの終了時間が迫る中、痺れを切らしたのは敵役だった。聖子が待機していると思しき場所に一斉攻撃を掛けたのだ。そこで彼らは、己の未熟さを知ることとなる。聖子と思しき痕跡は、彼女のトラップだった。
「勝負あり、ね」
谷口社長がうなずく中、まんまと囮に吊られ術中にハマった敵役は、次々に仕掛け爆弾にやられ、生き残った部隊も聖子に狩られていく。
その冷徹さたるや、氷の如くだ。ここで聖子にコードネームがつく。曰く〈アイスキッド〉と。
結局、国税局徴収部と防衛省のサイバー部隊がタッグを組んだ混合部隊は、聖子の前に完敗とあいなった。
見事に谷口社長からゴチを勝ち取った俺達は、高級レストランでランチを楽しんでいる。ご機嫌な聖子は、メイン料理の肉をナイフとフォークで捌きながら、俺に問うた。
「今日の結果ってさ。やっぱりセイコ02に反映されたりするの?」
「もちろんさ。君がセイコ02を通じサイバー空間で得た経験は、ミネルヴァシステムを通じ深層学習されていく。その繰り返しの先に、デジタル生命体のさらなる進化が待っているんだ」
「それは国境なき税務団のJも一緒?」
「そうだ」
「オーケー……」
聖子は深々とうなずいている。どうやら心の中でリベンジを誓っているようだ。その後、メイン料理を平らげながら、谷口社長は上層部の内情を晒していく。
「鍵は税金よ。知っての通り無税国家を是とする国境なき税務団は、その原資を日本の徴税権に求めている。ジョン黒田を筆頭にね。国税局と防衛省がタッグを組んだのも、それが理由なんだけど……どうも国境なき税務団は、一枚岩ではないみたい」
「え、そうなんですか?」
驚く聖子に谷口社長がうなずく。納得すること大な俺は、頭を働かせた。
――確かにそうだ。特に謎なのが息子のジェイソン黒田……。
俺の日常生活に飄々と現れた奴は、国にマークされながらも、その身を案ずることもなく、いけしゃあしゃあと学生生活を謳歌している。
その様たるやにくらしいほどに、平然だ。まさに泰然自若である。
さらに言えば国も国だ。あれほどの容疑者を注視しつつも野放しにしている。試しにその旨を問うてみると、谷口社長はかぶりを振りつつ、一言だけ述べた。
「優斗、それはアンタッチャブルよ」
――要するに闇が深いってことか。
俺は閉口するしかなかった。
やがて、話題はメタバース関連に及んでいく。ここで聖子が素朴な疑問を口にした。
「メタバースって、ネット上の仮想空間に設けた疑似現実じゃないですか。ここに国境なき税務団が和の概念を広めサイバー空間を制す狙いを持っている。それは分かるんですが、そもそもメタバース自体がオワコンなんじゃないかって」
「聖子ちゃん。言わんとしていることは分かる。セカンドライフの失敗に技術的制約、高額なデバイス等々難は多い。ただそれでも僕は普及に賭けるね」
胸を張って断言するのは、隼人さんだ。なんでもビッグテックの本格参入や巨額投資が技術的制約を解き、デバイスに価格破壊をもたらす。今は基礎固めの重要な時期なのだ、と。
これに俺が続いた。
「その普及のためのキーデバイスが、今回テストしたサイバー戦用防護アーマーなんだよ」
「どういうことよ?」
首を傾げる聖子に俺は、説明していく。
「今はサービスが各社乱立で内容もクオリティも玉石混合だろう。接続性と空間コンピューティングという概念はあるが、リアルとバーチャルを切り替える標準規格がない。そもそもデジタル空間自体に国境の概念がないからな。このカオスな状況であらゆる条件にあわせ瞬時に防具を形成する変幻自在な能力は、必須なんだ」
「なるほど。逆に言えばこのテクノロジーがあれば……」
「デファクトを取れる。俺達のシステムが事実上の標準規格となるのさ。いずれ標準化を含め国際的なルールが国際社会との連携で形成させるだろう。それまでを繋ぐ過渡期の技術だよ」

