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一井 亮治
参加者

     第十八話

    「やぁ聖子。あんな無様な負け方をしておいて、よく再戦しにきましたね。ほどほどにしないと、負け癖がつきますよ」
     慇懃無礼に登場したのは、迷彩武装を施したジェイソンである。奴がまとうボディーアーマーは、間違いなく母の仕事だ。その助けを得たジェイソンの表情たるや、すでに勝った気でいる。
     対する聖子は、挑発に乗ることなくじっとジェイソンの様子をうかがっている。実はこれが聖子に課した俺の作戦だ。
    〈機が熟すまで、ジェイソンへの攻めを一切、禁ずる〉
     俗にいうところの守愚作戦である。そんな聖子をジェイソンは鼻で笑った。
    「ふっ、攻めないのなら一つ、こちらから攻めてあげましょう」
     ジェイソンはぬらりと構えるや、一気に間合いを詰め、聖子に強烈な一撃を放つ。
     何とかガードで凌ぐ聖子だが、ジェイソンの攻勢は止まらない。巧みにフェイントをかましつつ、軌道の見えないトリッキーな蹴りを次々と放っていく。
     その読みにくい連打を前に、聖子はじわじわと追い詰められた。これに気をよくしたジェイソンは、ガードに徹する聖子に、大胆な攻撃を仕掛ける。聖子の上半身を狙って見せつつ、無防備になった下半身に足払いをかけてきた。
    「くっ……」
     足元をすくわれ地面に叩きつけられた聖子に対し、ジェイソンはいよいよその本性を露わにした。あろうことか聖子の顔面を、足で踏みつけてきたのだ。
     たちまち聖子のヘルメットが粉々に砕け散り、中から現れた素顔が踏み潰されていく。
    「くっくっくっ……聖子、あなたはこうやって無様を晒しているのがお似合いですよ」
     ジェイソンはニンマリ笑い、上から侮蔑の視線を注ぐ。聖子にとっては屈辱の極みなのだが、ここで異変が起きる。ジェイソンの足に凄まじい電撃が走ったのだ。
    「予感的中だな。優斗君」
     感心する隼人さんに俺は、ほくそ笑む。というのもジェイソンの性格を洗いざらい聞いた俺が、あらかじめ仕込みを入れておいたのだ。
     ――ジェイソンの奴、面食らうぜ。
     俺の思惑通り、ジェイソンは戸惑いを隠せない。慌てて足をのけようと試みるも、時すでに遅し。その足をガッチリ掴んだ聖子によって逆に体をひっくり返されてしまった。
    「よし聖子、攻撃に切り替えろ!」「やっちまえ!」
     吠える俺達の声に弾かれたように聖子は、畳み掛ける。これまでのお返しとばかりにジェイソンを地面に叩きつけマウントを取った。
     この思わぬ奇襲にジェイソンは、完全に我を失っている。だが、そこはさるもので、巧みに聖子のマウントから逃れ、立ち技へと切り替えて来た。
     対する聖子も負けじとジェイソンに打撃を放っていく。その蹴りの応酬を制したのは、聖子だった。
    「くっ、小癪な……」
     あまりに多くのダメージを負ったジェイソンは、覚えておけとばかりに、よろめく体で撤収をはかった。
     もっともこちらにジェイソンを追う余裕はない。聖子は肩で荒い息をしながら、ヘナヘナと膝をつき、その場に座り込んでしまった。
    「聖子。あと一歩、及ばなかったな」
    「うん……そうね。でも勝った。ついにアイツに……」
     聖子はガッツポーズを取るや喜びを爆発させた。その目は涙で滲んでいる。どうやら「ジェイソンには勝てない」という思い込みが、聖子をずっと追い詰めていたらしい。
     それだけに今回の勝利に嬉しさを抑えられないようだ。
     そんな聖子に俺は言った。
    「聖子、俺達はもうチームなんだ。いかにジェイソンが強敵でも、皆でかかれば、必ず倒せる」
    「優斗君の言う通りだよ。聖子ちゃん」
     隼人さんも追従する中、聖子は涙を拭いつつ一言、礼を述べた。
    「ありがとう……」
     見事にジェイソンを撃退した聖子だが、ふと見ると先程とは異なる光の塊が転がっている。不審に感じた聖子に俺は説明した。
    「聖子、それはジェイソンの持っていたタックスエナジーだ」
    「タックスエナジー?」
    「あぁ、お前が今、着用しているボディーアーマーのエネルギー源さ。これがあれば、傷ついたボディーアーマーの修復も瞬時だ。別の形に変化させることも出来る」
     聖子は俺の指示従い、ジェイソンが残した光源を取り込んだ。その途端、先程の戦いでボロボロになったボディーアーマーが見る見るうちに元の形状へと戻った。
    「凄いっ!」
     驚く聖子に「それだけじゃないぜ」と、俺はさらなる変化を施した。すると今度は、白いボディーアーマーが真っ赤な別タイプへと変わった。
     俺は説明を続けた。
    「聖子、タックスエナジーっていうのは要するにRPGファンタジーのMPだ。修復や変形のたびに消費され、ゼロになるまで自由に使える」「ゼロになったら、補給はどうするの?」
    「基本、自然回復を待つ。ただ今みたいに敵が残して逃げ去った場合は、自身に取り込むことも可能さ」
    「分かったわ、軍師殿。で、次は何をすればいい?」
    「このエリアに威力偵察を仕掛ける。その赤いボディーアーマーの特徴は〈スピード〉だ。今から、そっちに一帯をスキャンした位置情報を送る。母さんが作ったこの空間を、トラップを回避しながら駆逐するんだ」
    「オーケー……」
     聖子は、俺が流したマップのダウンロードを受けるや、ニッタリと微笑む。その表情はまるで新たなオモチャを得た子供の様だ。
     俺は思わずつぶやいた。
    「生まれながらのアスリートファイターだな。聖子は」
    「そう言う優斗君は、生まれながらのクリエイターってとこかい?」
    「ただのオタクですよ」
     謙遜して見せる俺だが、悪い感じはしていない。事実、デジタル生命体にサイバー戦用ボディーアーマー、作戦立案にデータ分析と聖子のヘッドワークの大部分を担っている。
     ――俺が聖子の参謀なら、ジェイソンの参謀は母さんだ。ジェイソンが去りし今、母さんとの頭脳戦だな。
     俺は徐ろに左右それぞれにストップウォッチを構えるや、聖子に吠えた。
    「今だ聖子、行け!」
     俺の合図を機に聖子は、白いサイバー空間をダッシュで駆け出していく。そのスピードたるや実に凄まじい。目にも止まらぬ速さで、一帯を駆け抜けていった。
    「隼人さん! ルートの探索を頼みます」
    「オーケー、任せてくれ」
     俺と隼人さんは、互いの役割を分担するや、聖子に具体的なルートを提示していく。疾風怒涛の勢いで聖子に探索させつつ、一帯の攻略へと乗り出した。
     やがて、断片的にしか把握出来なかった周辺の実情が、露わになった。驚くべきは、その規模だ。実に広大な空間がプレイヤーを嵌めるトラップと化していた。
     まるでゲームステージである。
     ――これは、何かあるな。
     考慮の末に辿り着いた結論は、情報収集を目論んでいるのが、俺だけではないらしいということだ。
     サイバー空間における聖子の身体能力や潜在力を、このステージではかろうとしているらしい。
     ――そうはいかないぜ。母さん。
     俺は聖子に命じた。
    「聖子、ステルスモードだ。左腕から三つ目のボタ……」
    「これね」
     聖子は持ち前の間の鋭さで機能を理解し、ステルスモードを起動させた。たちまちボディーアーマーの一部が変形し、半透明さを帯びて行く。
     こうなればもはや聖子を止めるものは、何もない。次々にステージを攻略して行った。

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