返信先: 【新企画】桜志会が大活躍する挿絵小説

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一井 亮治
参加者

    「聖子がいなくなった!?」
     学校でその知らせを受けた俺の動揺たるや、半端ではない。真っ先にジェイソンの元に駆けつけるや吠えた。
    「おいジェイソン。一体、どう言うつもりだ!?」
    「何がです?」
    「何がもへったくれもねぇ。聖子をどこへやった?」
     激昂のあまり胸ぐらを掴んでいることに気付かない俺に、ジェイソンは冷静さを崩すことなく返答した。
    「だから、言ったでしょう。サイバーはサイバー、リアルはリアル、と」
    「つまり、現実世界の方で身柄を押さえたってことか?」
    「優斗、この僕が言うのもなんですが、あまり国境なき税務団を舐めない方がいい。彼らは理念のためならテロ、拉致、殺人も厭わない連中だ。下手に動けば、最悪の事態もあり得ますよ」
     淡々とした口調ながらも強迫も辞さないジェイソンに俺は怒りが収まらない。聖子の命という切り札を握られていなければ、とっくにぶっ飛ばしているところだ。
     俺は感情を押さえつつジェイソンを突き離すや、矛先をミスターDへと切り替える。スマホを開きチャットで問いかけたのだが、待っていたのは、判を押したような答えだった。
    〈ノーコメント〉
     どうやらミスターDも国境なき税務団絡みでの協力を拒んでいるらしい。極め付けは、谷口エンタープライズだ。隼人さんに電話をかけてはみたものの、その返答は実につれない。
    「優斗君。悪いが、この件に関して我々は何も出来ない」
    「隼人さん、谷口社長さんに変わってください」
    「無理なんだ。これは社長直々の命令なんだ。すまない」
     一方的に詫びを入れ、隼人さんとの通話は切れた。まさに八方塞がり、四面楚歌だ。その後も四方八方に手を伸ばしものの、大した情報は得られない。どん詰まりの中、俺はよろよろと夕暮れの公園のベンチに腰かけ頭を抱えた。
     ――もはや頼るべき相手がいない。下手に動くこともできない。どうすりゃいいんだ。
     俺は改めて己の無力さを嘆く。いくら這いずりまわろうと出来ることなど限られている。所詮、俺は一介の高校生に過ぎないのだ。その現実に直面した俺は、痛切に身の程を思い知らされた。
     どれほど時間が経っただろう。不意にベンチで呆然とする俺に声がかかった。
    「そんな場所にいたら、風邪を引くぞ」
     驚き顔を上げた先にいた人物に俺は、思わず声を上げた。
    「親父!?」
     確定申告の繁忙期にも関わらず、事務所を空にした親父は、俺にホットの缶コーヒーを手渡しながら、隣に腰掛けた。
     そこで一言、ポツリと述べた。 
    「優斗、今は動くな。思惑が錯綜している。下手をすれば、聖子さんだけじゃなくお前に危険が及ぶ可能性だってある」
    「じゃぁ、何もせずただ黙ってろっていうのか?!」
    「機を待てと言っている。それが出来ないからお前は、いつまでたっても子供なんだ」
    「そういう親父はどうなんだ。大人ならどうすべきだって言うんだよ」
     声を荒げる俺に、親父は言った。
    「人生をかける」
     ――どう言うことだ?
     意を察しかねる俺に親父は、こんこんと説いた。
    「あのな優斗、お前の喧嘩は、感情だけで突っ走る駄々っ子の喧嘩なんだよ。大人は違う。これまで何十年とひたすら積み重ねてきた人生の全てを棒に振る覚悟で喧嘩するんだ。その覚悟がないうちは、争いなどしないことだ」
     黙り込む俺に親父は、さらに続ける。何でも今、この事態に対処すべく桜志会が本格的な策を講じているという。ただ、その内容はあまりにセンシティブで機微に触れるだけに、水面下に止め、公には出来ないとのことだった。
    「今回の件に関して言えば、要するにお前は目立ち過ぎたんだ。動くときは動くが、いざ待つとなれば腐るまで待つ。お前ももうその歳だ。そのくらいの度量は持て。ストレートだけで通じる程、世間は甘くないぞ」
     親父はそう言い残し、ベンチから立ち上がるや俺の元を去っていった。その後ろ姿を見送った俺は、誰に言うでなしに呟いた。
    「大人の喧嘩、か……」
     
     
     
     ひと月が経った。まだつぼみが固いとはいえ桜がチラホラと咲き始めている。そんな中、新たな年度を迎えた俺は、高校二年生へと進学した。
     その間、俺は親父に言われた通り待った。聖子への想いを封印し、表だった行動は控え続けた俺だが、その水面下では激しい鍔迫り合いが行われていることを知っている。
     そんな中、一つのプロジェクトが秘密のベールを脱ぐ。谷口エンタープライズが主催する世界を股にかけたサイバー空間上の電脳格闘大会〈メタバース・ワン〉である。
    「かつて、聖子が夢見た大会が、現実の形となった」
     俺は感無量だ。ちなみにこの大会の出資者には桜志会が名を連ねている。この件について、俺はあらかじめ親父から知らされていた。
     PC画面を前に親父は言った。
    「優斗、いよいよ桜志会が本腰を上げる。お前を全面的にサポートするから、大いに暴れろ」
    「もちろん、そのつもりさ。けど、いいのか? 何かあったら俺では責任が持てないぜ」
    「気にしなくていい。その際は私に任せてくれ」
     親父は断言した上で、一封の紙を見せた。桜志会に何かあった場合に、備えての辞表だ。
     驚く俺に親父が断言する。
    「優斗、勝ち戦はお前に任せる。ただお前では手に負えなくなったとき、負け戦は私が引き受けよう。いいな?」
     念を押す親父に俺は黙ってうなずいた。
     さて、大会のルールであるが、全プレイヤー総当たりの予選リーグ戦で、通過したファイターが、最終トーナメント戦へと駒を進めるスタイルだ。
     エントリーが世界中から殺到する中、俺はセイコ02で戦いを挑もうと考えている。狙いは言わずもがな、聖子だ。
     ――聖子は、必ずこの大会に姿を現す。その時こそが国境なき税務団を追い詰めるチャンスだ。
     意気込む俺の鼻息は荒い。実はこの一月、行動を極力控えていた俺だが、セイコ02の自己学習だけは進めていた。
    「聖子が何を考え、どう行動するか」
     俺は可能な限りのデータを入力し、自信を持ってこのデジタル生命体を送り込んだ。やがて、全ての募集が打ち切られ、ファイターのメンバー表が送られてきた。
     連なる参加者の中で、俺は一人のファイターに目を止める。そこに記されたコードネームに思わず声を上げた。
    「〈アイスキッド〉だって!?」
     俺はそのコードネームを知っている。かつて、防衛省との模擬演習の際、聖子につけられた名前だ。
     さらに別の箇所には、国境なき税務団で知られるコードネーム〈J〉のジェイソンや、ミスターDのものと思しきファイター、以前、模擬戦で一戦を交えた防衛省や国税徴収部も名を連ねている。
     他にもかつて、エストニアを訪問した際に、随所を見学させてくれたアネリさんの名前や、かつてのハッカー仲間など、実に多種多様なメンバーが一堂に集結していた。
     その陣営たるや、壮観たるものである。
    「どうやら波乱の幕開けとなりそうだ」
     感想を述べる親父を傍らに、俺は闘いへの覚悟を固めながらVRセットを装着した。
     やがて、メタバース上に今大会〈メタバース・ワン〉の主催者である谷口エンタープライズの谷口社長がアバター姿で登壇した。開会宣言を告げるスピーチが世界に向かって翻訳されていく。
     曰く、サイバー空間の世界一を決めようではないか、と。
    「望むところだ」
     俺は画面を前に武者震いを覚えている。誰もがメタバースの歴史を切り拓かんと意欲に溢れる中、親父は釘を刺すことを忘れない。
    「優斗、分かっていると思うが、自分の立ち位置だけは踏み外すな」
    「あぁ、分かってるさ」
     うなずく俺の脳裏に、メタバース・ワンが秘める裏ミッションがよぎる。それは国境なき税務団の打倒と、税務における概念フレームワーク構築だ。デジタル化に対し徴税はいかにあるべきか、適正な徴税のあり方を探らんとする切実な実情があった。
     ――国境なきネットは税を簡単にすり抜けてしまう。いかにデジタル時代に有効な課税技術を確立するか。その鍵を見つけるのが、このメタバース・ワンだ。
     早い話が主催者と税務当局の橋渡し役である。これを桜志会が買って出るとともに、その先に聖子の救出も見据えていた。

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