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一井 亮治
参加者

     第二十一話

     メタバース・ワンは順調に進んでいる。予選リーグをトップで通過した俺は、はや決勝トーナメント入りを決めている。その後も続々とお馴染みのメンバーが続く中、思わぬ人物が接触してきた。
     それは新学期の初々しさが残る四月中旬だ。帰宅途上の俺の前に一台の車が滑り込んできた。その運転手に俺は思わず目を疑う。
    「ミスターDじゃないか!?」
     驚く俺にミスターDは、ニヤリと笑みを浮かべつつ車内へと促す。俺は警戒しつつも助手席に乗り込み、問うた。
    「ミスターD、普段は身を隠しているお前が一体、何用だよ?」
    「プレゼントだ」
     ミスターDは、ひと束の資料を俺の前に放った。不審に思った俺は、内容に目を走らせ思わず息を飲む。そこには、母の居場所に関する情報が記されていた。
     俺は驚きつつもミスターDに疑ってかかる。
    「ミスターD、お前とも付き合いは長い。一体、どういうつもりなんだ。この情報を買えってことか?」
    「それには、及ばない。全てタダで提供しよう」
    「ほぉ、で、コイツが本物である保証は?」
    「お前次第だ。優斗」
     淡々と語るミスターDに俺は、疑惑の目を向けている。
     ――コイツには何度も騙されたが、その情報力ゆえに隅にはおけない。果たして今回はどうなのか。
     悩んだ挙句、俺はその情報を信じることとした。車を降りミスターDを見送った俺は、早速、母の居場所と目される雑居ビルを訪れた。
     インターホンを鳴らしたものの、反応はない。試しにノブを捻ると扉の鍵が開いている。意を決し中へ踏み込んだ俺だが、そこで思わぬものと遭遇した。
    「ジョン黒田!」
     あろうことか国境なき税務団のボスが倒れている。慌てて駆け寄るも既に脈はない。動揺のあまりよろめく俺だが、そこへ待っていたかの如くパトカーが押し寄せた。今、彼らに見つかれば、俺は殺人の容疑をかけられ一貫の終わりだ。
     ――くそっ、まんまと嵌められた。ミスターDの奴、俺を売りやがったな。
     俺は、忸怩たる思いで裏口からの脱出を目論む。何とか路地裏へ逃れたものの、警察は着々と捜査網を狭め、俺を追い詰めていく。
     ――万事休す、か。
     絶望する俺だが、ここで思わぬ助け舟が現れる。スマホにメール着信が入ったのだ。相手を確認した俺は、思わず声をあげた。
    「アイスキッドだと!?」
     何でも秘密の逃走ルートがあるらしい。半信半疑ながらも、俺はメールにあるルートを探ってみると、確かに逃走に可能な地下道が続いている。
     俺は、最後の望みとばかりにそのルートにかけた。祈るような気持ちでドブネズミの如く地下道を進んでいく。すると、見事に警察の包囲網から脱することが出来た。
    「助かった……」
     無事に地上へと這い出た俺は、安堵のあまりヘナヘナとその場に尻餅をついた。同時に謎のメール送信者である〈アイスキッド〉に謝礼のメールを送る。
     願わくば、その正体を問いただしたかった俺だが、敢えて差し控えた。おそらく聖子だと推測されるものの、どうやらその正体を大っぴらに晒せない事情があるらしい。
     ――ここは当面、阿吽の呼吸だな。
     俺はアイスキッドとのやり取りを程々に、帰路へとついた。

     

    「一体、どうなってるんだ!?」
     俺が憤るのは、翌朝のニュースだ。死んだはずのジョン黒田がごく自然に演説しているのだ。
     ――昨日、確かに俺はジョン黒田の死体を目の当たりにした。あれは紛れもないジョン黒田本人だった。俺は一体、何を見せられているんだ。
     困惑を隠せない俺だが、世間ではジョン黒田は健在なことになっている。もっともその映像が本物であることを証する手段は、何一つない。まるで狐に摘まれたような気分である。
     学校へ向かった俺は、真っ先にジェイソンに噛みついた。
    「おいジェイソン。一体、どうなってるんだ!?」
    「何がです?」
    「何が、じゃねぇ。ジョン黒田は死んだんじゃなかったのか」
     吠える俺にジェイソンは、微笑を浮かべつつ応じた。
    「優斗、この世というのは所詮、幻影なんです。次の瞬間には消えてしまうかもしれない儚い幻影……それでも、そこに夢を見てしまう。人間というのは実に愚かな生き物です」
    「はぁ!?」
     首を傾げる俺をおちょくるかの如く、ジェイソンは続けた。
    「これから本格的な電脳社会が来る。その先陣を切るのは、ジョン黒田か。それとも……」
     ――ダメだ、これは。
     俺は、ジェイソンに答えを求めることを諦めた。とは言えこれといった手がかりもなく、俺としてもいつも通りの生活を続けるしかない。
     ホームルームが始まり席についた俺は、担任の長話をよそにメタバース・ワンについて頭を整理した。
     目下のランキングは、セイコ02をJら他のメンバーが追っている。よそのグループでは、アイスキッド、アキムさんがトーナメント入りを決めているのだが、意外なところでは、ミスターDが敗退している。
    「ざまぁみろだ。俺を売りやがった罰だ」
     俺としては、実にいい気味である。
     無論、メタバース・ワンが抱える裏ミッションも忘れてはいない。デジタル時代に即した課税技術の向上だ。いわゆるデジタルサービス税である。
     ――デジタルプラットフォームへの課税は、従来の税制で捉えにくい。最終的には強制執行となるが、仮想空間でいかにデジタル戦力を備えるか、その一里塚が国境なき税務団対策だな。
     頭によぎるのは、ジェイソン扮するJだ。奴らのデジタル戦力が結実したJをいかに倒すか。俺はPCを前に連日、対策を練っている。
     やがて、ホームルームが終わり休憩時間に入った。トイレへと立ち上がった俺を担任が呼び止めた。
    「おい優斗、進路の用紙はどうした。出していないのは、お前だけだぞ」
    「あー……スミマセン。あの、すぐ出しますんでもうちょっと待ってください」
     俺は担任に断りを入れ、逃げるようにトイレへと向かった。
     ――進路、か……。
     俺は一人、つぶやく。かつてはネットベンチャーかもしくは起業を考えていた俺なのだが、実は今、新たな道について真剣に模索している。
     ――税理士も悪くないかもしれない。
     これまで親父への拒絶反応もあって完全に選択肢から取り除いていただけに、俺は考えを改めている。ただ、決断に至るほどの覚悟までは持てずにいた。

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