返信先: 【新企画】桜志会が大活躍する挿絵小説
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第二十二話
下校中の俺は、帰路の途上でメタバース・ワンの結果を確認している。
――どうやら全ての予選ブロックが終了したみたいだな。
俺は運営からのアナウンスを開くや、新たに発表されたトーナメントに目を走らせた。一回戦で当たるのは、以前、模擬戦でセイコ01が圧倒した防衛省と国税徴収部のタッグだ。
国の根幹を担う者同士で結成したデジタルファイターで、コードネームを〈サムライX〉と称している。決戦は、今夜の十時だ。
――フフッ、リベンジという訳か。いいだろう。デジタル時代の国の番人たり得るか、俺がテストしてやる。悪いが手加減する気はないぜ。
帰宅した俺は早速、PCを立ち上げたるや、晩飯のカップ麺をすすりながらセイコ02のメンテナンスへと入る。入念に細部を調整しつつ、対サムライX戦の準備を施していく。
なお、決勝トーナメントのステージは、白を基調とした幾何学的な空間らしい。勝敗の鍵は、距離制約のないステージに設けられたギミックだ。
これを駆使し、伏せられたタックスエナジーの源となるコインをゲットすることで、ボディーアーマーを強化変形させ戦いを有利に運ぶことができる。
「要するにサイバー空間における徴税技能の実地開発だな」
大会の真意を見抜いた俺は、いかなる試合運びを見せるか頭を捻っている。その辺は実に徹底しており、いざというときのための奥の手まで考慮を済ませていた。
やがて、試合開始の時間が到来する。
「よしセイコ02、行け!」
俺の合図を受けセイコ02がステージ入りした。ボディーアーマーのモードは黄色である。これは戦闘力は他より劣るものの、ゲットしたコインを倍に飛躍させるモードだ。
意外なのは、サムライXもこの色で揃えてきたことだ。パワー重視の武骨な外見に似合わぬ守銭奴っぷりに俺は、思わず突っ込んだ。
――おいおい、武士は食わねど高楊枝だろう。
嘲笑する俺だが、勝利に向けたなりふり構わぬ姿勢には、感じ入るものがある。ゴングが鳴る中、俺はコインを求めセイコ02にステージ中を疾走させた。無論、サムライXと戦いつつだ。
互いを牽制しながらも、様々なギミックを駆使しコインに変えていく駆け引きに、ネット界隈は早くも興奮の渦である。
一方、当事者の俺は、以前の模擬戦からガラリとスタイルを変えたサムライXに舌を巻いた。
――よくこの短期間にここまでレベルを上げたな。設計思想もかなり理解出来ている。流石だ。
ほぼ互角の展開を見せる中、俺は頃合いを図っている。やがて、ステージのコインをほぼ取り終えたと見たところで、セイコ02に命じた。
「セイコ02。もうコインはいい。バトルだ!」
セイコ02は反転するや、サムライXとの格闘戦に入る。互いに潤沢なコインを得ているだけに、その破壊力は凄まじい。
ステージ上の構築物を次々に巻き込みながら繰り広げられるバトルは、もはや戦争だ。一進一退の攻防を皆が固唾を飲んで見守る中、俺はもう一つの頃合いをはかっている。
――そろそろだな。本当なら決勝まで取っておきたかったが……。
残りコイン数を横目に置きつつ、俺は言った。
「セイコ02、やれ!」
指示を受けたセイコ02は、サムライXと距離を取る。ファイティングポーズを解くや、黄色のボディーアーマーに隠された特別モードを起動させた。
その瞬間、セイコ02のボディーアーマーが七色の光を放ち、異質なモードへと変化させていく。金色に煌めくゴールドアーマーである。
これには、サムライXも意表を突かれたようだ。観衆も完全に言葉を失っている。無理もない。セイコ02の戦闘力数値が一桁跳ね上がったのだ。
実はこれこそが、このボディーアーマーの本質でもある。制限はあるものの、タックスエナジーを極限のフルパワーにまで高めることが出来るのだ。
それは開発者の俺だから知る秘密の高等ノウハウである。この荒技に周囲が愕然とする中、俺はセイコ02に命じた。
「今だ。サムライXを始末しろ」
そこからの展開はあっという間だった。互角の健闘を見せていたサムライXは、たちまち守勢へとまわり、気がつけばエナジーがゼロになっている。
トドメとばかりに飛び膝蹴りを放つセイコ02に、サムライXはマットへと崩れ落ちた。その圧勝ぶりは会場の全員を驚愕させるに十分な内容だった。
俺は敗れたサムライXの健闘を称えつつ、その限界にも気付いた。
――確かにボディーアーマーの本質をよく理解できている。だが、所詮はコピーだ。オリジナルには勝てない。なり切る努力が足らなかったのだろう。
努力は夢中に勝てない――その事実を俺は改めて痛感していた。
さて、決勝トーナメント初日を白星で飾った俺だが、これには後日談がある。下校途上の俺の前にサムライX扮する三十前と思しき自衛官が直接、押しかけてきたのだ。
後藤三尉といい、桜志会を通じて俺の学校を教えてもらったらしい。
――な、何だ。殴られるのか!?
屈強な肉体を前に身構える俺だが、後藤三尉は十歳程歳下の俺に頭を下げてこう迫った。
「なんで俺は君に勝てないんだ!」
――はぁ……プロって凄いこと聞くな。
俺は心の底から感服しつつ、思うところを述べた。どうやら後藤三尉にも思い当たる節があったらしい。大いにうなずきつつ、俺に言った。
「確かにそうだ。俺は対策を叩き込まれはしたが、四六時中熱中する程の熱さはなかった。完敗だな」
素直に負けを認める後藤三尉に、俺はこう思った。
――アツいなこの人、暑苦しい。タイプが昭和だ。きっと俺より強くなるわ。
意気投合した俺と後藤三尉は、ファーストフード店で互いに意見を交わした。何でも自衛隊サイバー部隊きってのエースで、国税徴収部とのタッグにいの一番で参加を表明したという。
言わばエリートとして出世の道具にしようとしていたらしいのだが、思わぬ挫折を味合わされ今回のエントリーに至ったとのことだった。
「適正な納税は、国土防衛の要でもある。自分は何とかここで足跡を残したい」
ざっくばらんに語る後藤三尉の熱意に俺は共鳴すること大だ。その後、互いの連絡先を交換したのだが、その別れ際に後藤三尉は置き土産とも言える貴重な情報を残してくれた。
「優斗君。ここだけの話、今、国境なき税務団を率いているのはジョン黒田ではない。手を下したのは、J扮する息子のジェイソンだ。今、彼らは内紛の最中でその渦中に君のお母さんがいる」
――母さんが!?
身を乗り出す俺だが、後藤三尉の口は固い。
「すまない。俺に言えるのは、ここまでだ。だが、君の健闘は祈っている」
俺は去っていく後藤三尉の背中を、ただ見送るしかなかった。

