返信先: 【新企画】桜志会が大活躍する挿絵小説

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一井 亮治
参加者

     第二十三話

     メタバース・ワンが佳境に差し掛かっている。俺はこれから始まるベスト4をかけたアネリさんとアイスキッドの闘いに注目している。
    「一度、敗れたとは言え、戦力で言えばアネリさんだろうが……」
     MCが会場を盛り上げる中、俺はコーヒーを片手にゲームの成り行きを睨んだ。よく筋書きのないドラマと言われるが、俺に言わせればあらすじくらいなら書ける。
     賭けろと言われれば、断然アネリさんだ。事実、ギャンブルサイトのオッズも同様のオッズを弾き出しており、AIの予想も然りなのだが、俺はアイスキッドに隠し球らしきものを感じている。
     ――アイスキッドに扮する聖子の事情は、分からない。ただ勝負にはこだわる奴だ。本意ではないだろうが、何か小細工らしき仕込みは入れてくるはずだ。
     画面に注視する俺だが、不意にスマホに着信が入る。その相手を見た俺は思わずコーヒーを吹いた。
     ――ミスターDじゃねぇか。アイツ、どのツラぶら下げて、いけしゃあしゃあと……。
     俺は着信に応じるや否や吠えた。
    「おいミスターD、どういうつもりだ。今度は一体、何を企んでやがる!?」
    「そう言わんでくれ優斗、君を売ったことは後悔している。その埋め合わせと言っては何だが、これからゲストを送りたい」
     ――ゲストだと!?
     俺が首を傾げていると、タイミングをはかったかの如くインターホンが鳴った。いぶかりつつも相手を確認した俺は我が目を疑った。
     ――ジェイソン!?
     驚く俺は迷うことなく扉を開く。
    「やぁ優斗、お邪魔するよ」
    「ちょっと待て、お前と俺は敵同士のはずだ。というかそもそもお前、何者なんだよ」
    「それも含めてここに来た。国境なき税務団筆頭としてのお忍びだ。お邪魔していいかい?」
     ――追い出す訳にもいかないか……。
     意味深な笑みを浮かべるジェイソンに、俺は仕方なく手招きで応じた。コーヒーくらいは出してやった俺だが、PC画面の前で雁首を揃えながら、ジェイソンが切り出した。
    「優斗。僕がここに来たキッカケは、優子さんなんだ」
    「母さんが!? どういうことだ?」
    「国境なき税務団からの逃亡をはかった。その結果がこれさ」
     ジェイソンは自身のスマホをかざす。その画面には、身体中に爆弾を巻きつけられた母の姿が映し出されている。しかも乱れ髪の頭には幾本ものコードが繋がれ完全に電脳化されていた。
     あまりにも衝撃的な姿に、俺はしばらく言葉を失った。
    「……お前、一体、俺の母さんをどうする気だ!?」
    「僕はどうもしない。ただうちの反乱分子が、これを放っておかなくてね。結果、彼女には我がサイバー戦力の人柱になってもらおうとあいなった」
    「協力を拒めば爆死って訳か……」
     俺は怒りに震えながらジェイソンを睨む。その上で感じた疑問をぶつけた。
    「ジェイソン。そこまでするなら、なぜか母さんの命を取らないんだ。しかもこの俺の家にまで押しかけて」
    「仕方がないさ。この女がそうさせまいと凄むんだから。変わらないね。お節介というか……」
     ジェイソンは、冷めた目でPC画面を指差す。そこには、試合を控えるアイスキッドの姿が映し出されていた。
     よく分からないものの、どうやら聖子が消え、アイスキッドとしてメタバース・ワンに単独参加した要因は、俺の母を守るためだったらしい。
     ただ微妙な事情ゆえに何も言わずに俺の前から去り、自身の正体を伏せ阿吽の呼吸で閉塞状態の打破を目論んでいるようだ。
     ――アイツらしいな。
     俺は、改めて聖子が時折見せる奥ゆかさに感じ入っている。PC画面上でアイスキッドとアネリさんが対峙する中、ジェイソンが問う。
    「優斗。一つ賭けましょう。どちらが勝つとお思いですか?」
    「アイスキッドだ」
    「ほぉ……いいでしょう。もし、聖子扮するアイスキッドが勝てば、優子さんの身の安全は、この僕が保証しますよ」
     ジェイソンが破格の条件を示す中、俺はPC画面に注視する。互いに間合いをはかる二人だが、やがて、意を決したかの如く激突した。
     双方とも巧みに相手を牽制しつつ、ステージ上のコインを吸収していく。ある程度のタックスエナジーをゲットしたところで、アネリさんが仕掛けた。
     なんと自らのボディーアーマーを、ゴールドへと変化させたのだ。
     ――アネリさん、もう俺の隠し技をモノにしたのか!?
     凄まじいキャッチアップぶりに俺は驚きを隠せない。
    「優斗、どうやら一発勝負となりそうですね」
    「みたいだな」
     俺は生返事しつつ、勝負のなりゆきを見守っている。と言うのもこのゴールドアーマーは、瞬間的に戦力を飛躍させる長所がある反面、その状態が安定せず長持ちしない欠陥を抱えているのだ。
     ゆえにその勝負は、一撃で決めざるを得ない。案の定、アネリさんが仕掛けた。アイスキッドのガードの上から、強引に渾身の一撃を放った。
     いかに防御を固めようとも、ゴールドアーマーの一撃を受けては、ひとたまりもない。ジェイソンが冷徹につぶやく。
    「勝負あり、ですね」
    「……や、これからだな」
     反論する俺の目の先には、スッと姿を消し去り、別の場所に出現したアイスキッドの姿がある。
    「ほぉ。囮の幻影、ですか」
     ジェイソンは、意外そうに舌を巻いている。まんまとアネリさんを騙したアイスキッドは、ここぞとばかりに畳み掛けた。だがアネリさんもさるもので、取っておきのタックスエナジーを注ぎ込み応戦している。
     息もつかせぬ激しい応酬を打ち破ったのは、アイスキッドだった。アネリさんの一撃に自身のボディーアーマーを粉々に砕け散らせつつも、反撃の拳を叩き込んだ。
     これにはアネリさんも敵わない。決着のゴングが鳴る中、勝利を勝ち取ったアイスキッドは、拳を突き上げた。その姿は紛うことなき聖子のそれだった。
     ジェイソンは、パチパチパチと手を叩く。
    「いいでしょう優斗、約束です。優子さんの身は、保証しましょう。もっとも僕には、それほどの時間も残されていないのですが……」
    「〈183日ルール〉だな」
    「ほぉ、それをどこで?」
     意外げな表情を見せるジェイソンに、俺は核心を突いた。
    「ジェイソン、悪いがお前の事は色々調べさせてもらった。これまで一つの国に183日以上、滞在したことがない。理由は税金だ。居住者としてカウントされる前にその国を去り、別の国へ転々と移動を繰り返す。非居住者として合法的にどの国にも税を払わない節税スキーム、つまり、パーマネント・トラベラー(永遠の旅行者)というわけだ」
     じっと聞き役に徹するジェイソンに、俺はさらに続ける。
    「5フラッグ理論ってやつだな。不確実な世界情勢に対応し、一個人として国の介入を排除し、国家に依存しない永遠の旅行者。国籍・住所・ビジネス・資産運用・余暇を五つの国で使い分け、国家にとらわれず、自由を求めて世界を旅する独立した個人、それがお前の本質だ」
    「えぇ、それが何か?」
    「別にそのライフスタイルを否定はしないがな。実の父を手にかけ、国境亡き税務団の地位を承継するとなれば話は別だ。言っとくが、武富士事件の贈与税スキームならもう抜け道はないぜ」
     畳み掛ける俺にジェイソンは、冷笑を交え言った。
    「優斗、申し訳ないが、僕が亡き父の殺人に関与した証拠は何もない。全ては憶測の状況証拠でしかない」
    「そう。お前は全てがそうだ。拘束を巧みにすり抜ける幻影。悪いが俺はお前を認めない。それをこのメタバース・ワンで思い知らせてやる」
    「結構。相手になりましょう。このままいけば準決勝は君との勝負となる。大いに励むことですね」
     ジェイソンは、大胆不敵にも俺の宣戦布告を受け取るや、俺の家を去って行った。

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