返信先: 【新企画】桜志会が大活躍する挿絵小説
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第二十四話
ベスト4が出揃い、いよいよメタバース・ワンがクライマックスへと向かいつつある。対J戦に向け着々と準備を整える俺だが、そこへSNSを通じ思わぬ人物から連絡が入った。
「聖子!?」
俺は慌ててスマホを取る。
〈優斗。今、連絡取れる?〉
〈もちろんだ。でもどういう事だよ。いきなり姿を消すわ、メタバース・ワンにアイスキッドとして参加するわ、一体、なぜ?〉
〈悪いけどその問いには、答えられない。けどせめてヒントだけでもと思ってね〉
聖子は断りを入れた後、本題に入った。
〈優斗。実はあの国境なき税務団だけど、桜志会とサイバー戦争があったの。無税国家か適正な納税か、それぞれのアイデンティティをかけてね。これに桜志会は勝った。敗北した彼らは今、手負のオオカミとなって周囲に牙を剥いている〉
〈ほぉ、危険な状態だな〉
〈えぇ、そこで彼らは今、最後っ屁とも言える破れかぶれの暴挙に出ようとしている。メタバース・ワンを乗っ取り、サイバーテロを目論んでいるの〉
聖子の文言に、俺は唸った。確かにそれっぽい動きはあった。国境なき税務団の焦りらしきものを感じていた俺は、聖子に同意しつつ応じた。
〈聖子、問題はない。次のゲームで俺はジェイソン扮するJと当たる。そこで白黒きっちりつけてやるぜ〉
〈や、多分、優斗は勝てない〉
〈どういうことだよ?〉
怪訝に思う俺に聖子は、続けた。なんでも彼らは今、Jに莫大な資本を投じているという。その規模たるや、中小国の国家予算レベルらしい。
俺はあまりの内容に声を失っている。
〈出来れば、優斗には棄権して欲しい〉
本音を切り出す聖子だが、俺は反論した。
〈聖子、悪いが俺は逃げるつもりはない。セイコ02も同様だ。たとえ勝ち目のない戦いでも、その中で何かを拾えるはずだ。おそらく決勝は、ジェイソンが扮するJと聖子が扮するアイスキッドの一騎打ちとなろう。俺はその礎になる〉
覚悟を示す俺に聖子が、そう言うと思ったと返した上で締めた。
〈とにかく気をつけて。健闘を祈ってる〉
聖子の忠告に反し戦う意志を示した俺であるが、その意味を痛感することとなる。まざまざとJの強さを思い知らされた。
満を持してセイコ02をサイバースタジアムに送り出した俺だが、試合開始早々、Jはとんでもない手を打ってきた。漆黒のボディーアーマーを投じたのだ。
「ブラックアーマーだと!?」
俺は思わず我が目を疑った。これはある種の禁じ手で、他と異なり死を前提としている。攻撃力、防御力、スピードともに最高値が与えられる反面、制御には膨大なタックスエナジーを消費する。
これをジェイソンは国境なき税務団が有する全ての資本を投じ、この一戦に挑んできたようだ。
――確かに聖子が棄権を促した気持ちも分かる。
大いに納得するものの、セイコ02は自ら戦う意思を示している。やむなく成り行きに任せることとした。
今、思えばこれが失敗だった。強引にでもセイコ02を撤退させるべきだったのだ。それほどまでにJのブラックアーマーの力は、凶悪に尽きた。
まず開始早々、セイコ02はそのボディーアーマーを木っ端微塵に打ち砕かれた。
反撃を目論むものの、Jはその余裕を与えない。たちまちセイコ02は、追い詰められそのライフをゼロ付近まで減らされていく。
――負けた……。
あっという間の敗北に愕然とする俺だったが、奴の凶悪さはここに止まらない。すでに決着のゴングが鳴ったにも関わらず、攻撃をやめないのだ。
――マズいっ!
動揺する俺は、審判にゲームセットを求めるものの、その要望はリジェクトされた。どうやらジェイソンに何かを仕込まれ、メタバース・ワンがハッキングされたようだ。
顔面蒼白となる俺は、画面に向かって吠える。
「おいジェイソン、もう決着はついただろう!」
答えはセイコ02への惨殺という形で返ってきた。
機能不全に陥ったメタバース・ワンのステージで思う存分、いたぶられたセイコ02は、真綿で首を絞めるように残り少ないライフを削られた挙句、誰もが目を背けたくなるような惨さで、デジタル生命体としての息の根を止められた。
まさに完膚なきまでの敗北である。俺は愕然とするあまり、声が出ない。
――ジェイソン……お前は異常だ。ここまでやる必要がどこにある。
セイコ02の四肢をバラバラに引きちぎった上で、その顔面を踏み躙り高笑いするジェイソンを、俺はただ見届けることしか出来なかった。
衝撃の敗戦から丸一日が経った。俺は未だにショックから立ち直れずにいる。セイコ02を投入したことへの懺悔の念が拭えない。
――俺が間違っていた。
後悔に苛まれた俺が悩んだ末に頼った相手は、親父だった。スマホを取った俺は、徐ろに電話をかける。数コールもしないうちに、親父が出た。どうやら俺の電話を予想していたようだ。
「親父、俺はもう分からない。どうすればいい?」
「ふむ。敗因は分かるか?」
「俺の怠慢と油断が起こした判断ミスだ。J、いやジェイソンを舐めていた。セイコ02の投入が悔やまれてならない」
「なるほど……いいだろう。全てを明かす。実は今、国境なき税務団への斬首作戦が進行中だ。表面上は政府関係機関が主体となっているが、実質的な起案は桜志会のメンバーだ。私を含めてな」
「ジェイソンなら先日も会ったぜ。見る限り野放しだ。なぜ誰も取り締まらない?」
「それは、奴が我々側のスパイだからだ」
これには、俺も言葉を失った。どう言うことなのか、意味をはかりかねる俺に親父が順を追って説明した。
「国境なき税務団の元首領、つまり、ジョン黒田だが、奴はまだ生きている。AIとしてな。彼は組織の理念を永続させるべく、自らの信条を人工知能に落とし込んだ。だから、未だに映像にも出来るし、会話も交わせる。まるで本人が生きているかの如くな」
「それって以前、話題になったパナソニックの松下幸之助の言動を基にしたAIみたいなやつか?」
「そんなところだ。つまり、これを破壊しない限り、組織は何度でも復活し壊滅できない。そこで我々は、会長の片桐先生を通じお前達を泳がせた」
記憶を遡らせた俺は、思わず声を上げた。
「じゃぁ何か? 俺を聖子と会わせたのも、母さんを国境なき税務団に亡命させたのも……」
「計算のうちだ。もっとも、ここまで派手に暴れてくれるとは思わなかったがな」
――相変わらず、いけ好かねぇ親父だぜ。
思わず舌打ちする俺だが、その計算高さには感服だ。なかなかの策士ぶりに呆れつつ、さらに疑問を投げた。
「ジェイソンだが、奴はどうなんだ。あの暴走ぶりは尋常じゃない。まるで二重人格だ」
「そりゃそうさ。二人いるからなら」
「はぁ!?」
「早い話がクローンだ。パーマネント・トラベラー(永遠の旅行者)のライフスタイルを許容することを条件に、国が協力を求めた」
「じゃぁ、俺が学校で会っていたのは」
「我々の協力者、サイバー空間を中心に暴走しているのが、国境なき税務団の現首領だ」
俺は呆れつつ頭を働かせる。親父の話を総括する限り、この案件は勝負所を迎えている。どうやら決戦の地は、あらかた定まっているようだ。
――要するに尻拭い、か。
しばし考慮の後、俺は言った。
「聖子に会いたい。Jの方は俺達に任せてくれ」
「うむ。そう言うことだ。後ほど連絡先を伝えよう。優斗、働きを期待している」
そこでプツリと通話が途切れた。無駄な挨拶や与太話が一切なく、一方的に用件だけ伝えるスタイルは相変わらずだ。
全ては仕事が優先する――そんな生き様しか送れない父に半ば同情しつつ、俺はスマホを確認した。そこには、父から受信した聖子の潜伏先と思しき場所が記されていた。

