返信先: 【新企画】桜志会が大活躍する挿絵小説

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一井 亮治
参加者

     第二十五話

     次の日、とある繁華街へと赴いた俺は、意中の人物との再会を果たす。
    「優〜斗」
     背中をゴツかれ振り向いた先に立っているのは、男性用の帽子と革ジャンを羽織る聖子だ。
     どうやらお忍びで来たらしい。俺に人差し指を立てて静粛を促すや、深く帽子をかぶり直す。再会を喜び合った俺達は、繁華街を並んで歩き出した。
    「聖子。いよいよメタバース・ワンも決勝を残すのみ、Jとの最終決戦とだな」
     切り出す俺に聖子は、うなずく。ジェイソンとの因縁の一戦を前に覚悟を固めているようだ。やがて、探るように問うてきた。
    「優斗、あんたはジェイソンについて、どこまで知ってる?」
    「なんか二人いるとか。クローンらしいな」
    「オッケー、なら話が早いわ。事の始まりは、今は亡きジョン黒田が桜志会を通じ、国家に依存しない組織の模索を持ちかけたことに発する」
    「まぁ当然、国は反対だろ」
    「表面上はね。ただこれに関心を寄せた一派があった。アンタがセイコ02をバトらせたサムライX、防衛省サイバー部隊と国税徴収部のタッグよ」
    「あぁ、あの後藤三尉がいるところか」
     俺はあの昭和を体現したような暑苦しい様を思い出し、苦笑する。同時に冷静に頭を働かせた。
     ――ネットは国境を溶かしかねない。物理的制約がない以上、国家を再定義しデジタルの概念で束ね直すジョン黒田の戦略は理解できる。だが、方法論が問題だ。
    「聖子、俺はデジタルテロリズムには、反対だぜ」
    「同感。事実、ジョン黒田自身も国との妥協点を模索していた。ただ、これに国境なき税務団の急進派が猛反発してね。子息のジェイソンを立てて内紛状態となった。完全な内ゲバよ。知ってた? アイツ、あれでもう大学まで出てんのよ」
    「まぁ、出来る奴ではあったな」
    「一方、危機感を覚えたジョン黒田は、ジェイソンのクローンを立てた。過激派に染まったジェイソンの牽制を兼ねてね。だがこれにジェイソンは激怒し、ジョン黒田を抹殺。今はクローンの方のジェイソンを付け狙っている」
    「俺達が知ってる方のジェイソンだな。今、どこにいるんだ?」
    「ここよ」
     聖子がパタリと足を止め、目の前の雑居ビルを指差す。そこは広くもなく、かと言っても狭すぎもしない潜伏先としては、理想的な場所だった。
     早速、中へ赴きインターホンを鳴らすと、ジェイソンが現れる。しかもその背後には、後藤三尉まで控えていた。
    「やぁ、待ってましたよ。お二人方」「お久しぶりだね」
     思わぬ出迎えを受けた俺達は、驚きつつも促されるまま部屋へと上がり込む。通されたキッチンに腰掛けるや、徐ろに切り出した。
    「ジェイソン、あらかたの事情は聞いた。だが俺には今一つ分からない。本体にせよ、クローンにせよ、なぜそこまで国家の拘束を嫌うんだ」
    「優斗。僕が求めるのは、国境なき個人であって、国境なき組織ではありません。あくまで一個人として、永遠の旅行者でありたい」
    「金はどうすんだよ」
    「その地その地で働きます」
    「足は?」
    「自転車です。安上がりでしょう」
     淡々と話すジェイソンに嘘をついている気配はうかがえない。そればかりか俺達に貴重な情報を提供してきた。
     後藤三尉は言う。
    「ジェイソンの……つまり本体側の方だが、メタバース・ワンの決勝戦で、デジタルテロを企んでいる。かなり、大規模なものだ」
    「やはりか。俺の母さんは?」
    「人質状態だ。無理やり協力を迫られているらしいが、迂闊には手が出せない」
     ――参ったな……。
     頭を痛める俺だが、ジェイソンはここで一つの作戦を提案してみせた。はじめこそ眉を顰めて聞いていた俺だが、やがて、説明が佳境に差し掛かるにつれ、その完成度に唸った。
     俺は思わず言った。
    「総力戦だな。本当に出来るのか!? 俺に聖子に後藤三尉、谷口エンタープライズ、ミスターD、アネリさん、そして桜志会……オールスターキャストだ。そもそもなぜお前はそこまで? 本体は俺達の敵なんだぜ」
    「だからこそ、ですよ。これは僕にとって身から出たサビであり、パーマネント・トラベラーを確立できる絶好のチャンスなんです。無論、指揮権は優斗に委ねますが」
     俺は聖子と目配せし合う。どうやら聖子も反対ではないらしい。俺は意を決し、ジェイソンに同意した。
    「いいだろう。この斬首作戦、協力しよう。武器がいる。最新のVRセットにハイスペックPC、直近バージョンのソフトにサーバー利用権、どうだ。手に入るか?」
     ジェイソンは笑みとともに、俺を隣の部屋へと促す。そこには、まさに俺が要求した品々が所狭しと並んでいた。
     
     
     
     その夜、俺達はメタバース・ワンの決勝に向けサイバー環境を整えていった。機材を梱包から取り出し、一つ一つ配線を組んでいく。
     機材が発する熱に皆が肌着となる中、聖子が問うた。
    「私達、本当に勝てるのかな」
    「さぁな。ただこれだけは言える。聖子のコード表、最後の十個目が間違ってるぜ」
    「あ……本当だ」
     照れ隠しで苦笑する聖子に、俺は言った。
    「つまり、そう言うことさ。九つ目まで正解しても誰も祝福はしないが、ただ一つのミスには皆が笑う。どれだけ成功しても社会はほんの小さな間違いを粗探しして、指摘するんだ」
    「私は恥はかきたくないけどね」
    「なら簡単さ。何も挑戦しなければいい。要するに、勝利や成功の果実は、リスクの先にしかないって話さ」
     単刀直入に答える俺に、聖子は実に不服げだ。俺は笑みとともに続けた。
    「結局、人生は思った通りにはならず、行動した通りにしかならない。ならダメ元で挑戦するしかないだろ? それでも成功の確率を上げることは出来るぜ」
     やがて、機材が整ったところで、俺達は秘密回線を通じ、今回の作戦に参加する全員と繋がり共同作戦のブリーフィングに入った。俺は画面上の皆に吠えた。
    「いいか。これより俺達は対国境なき税務団と本格的な交戦状態に入る。ターゲットは急進派筆頭のジェイソン、つまり、本体の方だ」
     俺は懇々と今回の作戦を伝えていく。その内容は二本柱で構成され、三段階に分かれている。
     まず、メタバース・ワンの決勝を聖子と、セコンドの俺が担う。性質上、舞台はサイバー空間だ。
     次に現実世界で、国境なき税務団の作戦本部を後藤三尉らが強襲する。場所は判明しているが、母を人質に取られている上にジェイソン(本体)ら急進派がどう出るか読めない。
     最後は総力戦だ。アネリさん、隼人さん、谷口社長、ミスターDらを交え、ジェイソン本体とAI化したジョン黒田を押さえる。
     なお、この作戦を全面的にバックアップするのが、桜志会だ。すでに親父を通じて会長の片桐先生の了承を得ている。
    「以上だ。作戦開始は半日後の午前十時。かなりシビアな展開になろうが、勝機は必ず訪れる。おのおの、それぞれの役割に備えてくれ」
     俺は皆に内容を伝達した上で秘密回線を閉じた。

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