返信先: 【新企画】桜志会が大活躍する挿絵小説
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第二十六話
各自がそれぞれの持ち場につく中、俺は聖子と対J戦用の作戦へと入っていく。
「いいか聖子、俺達の役割は……」
「時間稼ぎ、ね」
「そうだ。桜志会の片桐会長によれば、すでに特捜部と査察部が国境なき税務団の本部を押さえるべく動いている。ただなにぶん急だからな。突貫にならざるを得ず、時間が必要だ。それを俺達が捻出する。見てくれ」
俺はPCの画面上に聖子用に仕上げた新たなボディーアーマーを表示して見せたのだが、そのナリに聖子は言葉を失っている。
「優斗、これって本当にボディーアーマーなの?!」
聖子は驚きを交え声をあげる。無理もない。画面上に表示されたそれは、これまでとは打って変わって装甲化されず、まるで探検家である。
俺は概要を説明した。
「十中八九、Jはブラックアーマーで来る。だが、あれは危険なんだ。セイコ02との一戦を見ただろう」
「もちろんよ。あれはジェイソンであってジェイソンじゃなかった」
「ブラックアーマーは、装着主を内部から蝕み、潜在的に秘めたる攻撃性を過度なまで露出する。その動物本能的な残忍さは人にあらず。バーサーカー(狂戦士)だ」
「その対抗策がこれ? まるで丸腰じゃない」
「確かに装甲は捨てたが、代償に抜群の視認性と瞬発力を得た。ボディーアーマーと言うよりは、サバイバルアーマーに近い。戦闘中でも変幻自在に色を変え、及ばずながらも各々の機能を引き出せる。アイテムもモジュールパッケージ化で所持可能だ。いいか、俺達は奴を倒すんじゃない。時を稼ぐんだ」
俺の説明を受け、聖子はやれやれとお手上げの仕草を取りつつ、席を立つ。
「なんだかよく分かんないけど、やってみるわ。慣らす時間、ある?」
俺はうなずき聖子にVRキッドを手渡す。なんだかんだ言いつつ、どんな武器でも使いこなすのが聖子だ。現に今も新たなオモチャを前に目を輝かせている。
俺は苦笑しつつ、聖子とともに新たなコンセプトアーマーの実証へと入った。VRキッドを装着した聖子は、サイバー空間に設けた実験場にダイブし、サバイバルアーマーの使い勝手や機能を確認していく。
その開口一番、こう言った。
「軽っ……」
「そりゃそうさ。それだけじゃないぜ。バックパックがあるだろう。そこにアイテムが収納されている。そいつを臨機応変に使うんだ」
「オーケー。優斗、はじめて頂戴」
身構える聖子に俺は、エンターをキーパンチする。たちまち聖子の周辺が、ギミック化されたステージへと切り替わった。いわゆる訓練モードである。
「まずは、ステージワン。いいか聖子、そこは……」
「こう言うことでしょ」
御託は十分とばかりに聖子は、ステージをダッシュで駆け抜ける。様々なギミックを巧みに駆使しつつ、その身軽さと身体能力で一帯を制圧していく。
あっという間にゴールに辿り着き、フラッグを立て終えてしまった。俺は改めて痛感する。
――聖子は、本当に生まれながらのデジタルファイターなんだな。
俺は「オーケー」とうなずき、徐々にステージの難易度を上げていく。まさにメタバース・ワンの決勝戦ギリギリまで、サバイバルアーマーの擦り合わせを行なっていった。
明朝の十時がきた。すでにメタバース・ワンはお祭り騒ぎだ。初代電脳バトルのチャンピオンが決まるのである。誰もが興奮を覚え歴史的瞬間に立ち会うべく、会場に押しかけている。
そんな中、俺とジェイソンはスタンバイ中の聖子と、PC画面越しに最後の会話を交わした。
「時間がない中での調整だったが、おおまかな能力は解放できたと思う」
「十分よ優斗。あとは任せて」
意気込みを見せる聖子だが、よく見ると手が震えている。流石の聖子も因縁の相手を前に恐怖が先立つらしい。俺は言った。
「いいか聖子、絶対に無理だけはよしてくれ。いざとなれば俺が……」
気遣う言葉を遮るように、聖子が首を横に振る。
「優斗、アンタのおかげで私はここまで来れた。感謝してる。最後に言うわ。タオルだけは絶対に投げないで。これは、私が越えるべき壁だから」
「……分かったよ」
聖子の覚悟を前に俺は、かける言葉を失っている。やがて、その時が来た。MCが会場を煽る中、聖子の名前が高らかに呼ばれた。
「じゃぁ、行ってくる」
「あぁ、見守っているよ。聖子」
ステージに駆け上がる聖子を見送った俺は、傍らのジェイソンに問うた。
「これからジェイソンの本体を相手にする訳だが、クローンのお前としては、どんな気分なんだ?」
「朱に交われば赤くなる。本体の僕はあまりに急進派の影響を受け過ぎました。目指すべき生き方を失い、ダークサイドに闇落ちしている。もどかしいですね。あれだけのポテンシャルを持ちながら」
「つまり、本体への未練はないという訳か?」
「えぇ、確かに国家に依存しないという点では一致しています。ですが、僕はこれを己の身でもって実証したい。彼のように周囲を引き摺り回し、過激な手をかけるような真似はしません。おそらくジョン黒田も、本音ではそうありたかったはずです」
断言するジェイソンに俺は、つぶやくように言った。
「パーマネント・トラベラー……終身旅行者か。居住者として納税義務が生ずる前に他国への移住を繰り返す。網は張られつつあるが、確かに究極の節税ではある」
「目的は、節税だけじゃないんですよ」
否定して見せるジェイソンに、俺は「そうなのか?」と問う。ジェイソンは穏やかな微笑をたたえつつ、言った。
「国の社会保険制度は先が見えず、企業の終身雇用も崩壊寸前、もう日本の安全神話は崩壊したんです。なら終身旅行者として複数の国を人生の目的別に使いわけ、一国に人生を一点張りせず、リスクをヘッジすべきでしょう」
「例の5フラッグ理論か」
「えぇ、その先に僕は真の自由を得たい。ネットやマスコミだけに頼らず、海外を周りながら実地へ赴き、あるがままの世界の実像を肌感覚で学んでいく。その上でどの国を祖国とするのかを、自分で決めたい。これが全ての出発点なんです」
「ふむ。まぁ、それが日本であって欲しいところだが……」
そこでジェイソンのスマホに着信が入る。メールに目を走らせたジェイソンは俺に言った。
「後藤三尉からです。どうやら国境なき税務団への実動部隊が配置についたらしいですね。突入までの時間を稼いでくれとのことです」
「オーケー」
俺はすかさずキーボードを叩き、ミスターDとアネリさん、そして谷口エンタープライズの隼人さんとチャットを始めた。
〈「ランチ」を頼みたいんだが〉
徐ろに隠語を切り出す俺に、三人はメニューを問う。すかさず俺は返答した。
〈ラーメン、激辛でニンニクとメンマ増し増しにバター、サイズは特盛で〉
たちまち了解の返答がきた。俺は言った。
「調理しろ」
意味深な表情のジェイソンを横目に俺は、ほくそ笑む。
「斬首作戦、開始だ」

