返信先: 【新企画】桜志会が大活躍する挿絵小説
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第二十七話
現実世界で着々と皆が配置につく中、サイバー空間ではステージ上に聖子とジェイソン(本体)が対峙している。案の定、装備はブラックアーマーだ。
「何だその軽装備は? 舐めてるのかい?」
嘲笑するジェイソン(本体)に対し聖子の答えはない。これは、その装備がかなりの配慮の末になされたこと気づかせないための騙しだ。
だが、そこはジェイソン(本体)である。意図を正確に見抜き言った。
「新兵器、という訳ですか。結構、大いに僕を楽しませてください」
二人は拳を突き合わせるや、互いのポジションへと戻っていく。
その様子をPC画面越しに眺める俺に、傍らのジェイソン(クローン)が舌打ちする。
「これ、何かありますね」
「どういうことだよ、ジェイソン?」
「憶測に過ぎませんが、おそらく彼にも何か秘策があるんです」
――秘策、か……。
俺は画面上のジェイソン(本体)を注視する。確かにそこには、確固とした力の裏付けがあるようにもうかがえたが、その正体までは分からない。
そんな中、ゴングとともに周囲が決勝のステージへと切り替わった。白を基調とした幾何学ステージである。
「よし、行け。聖子!」
思わず声をあげる俺に対し、タックスエナジーの回収を目論む聖子だが、ここでジェイソン(本体)は、驚くべき手に打って出た。
なんと不動のまま自らのエナジーを全開にして解き放ち、ステージ上に隠されたタックスエナジーの全てを頭上の一点に吸い上げてしまったのだ。
「何だそれは!?」
俺は愕然とした。これでは、いかに聖子のサバイバルアーマーの機動性が優れていようとも、その力を発揮しようがない。
――マズい……。
試合早々から一気に劣勢に立たされ、俺は表情を歪める。だが、意外にも聖子は冷静だ。ジェイソンの意図を正確に見抜き、全力疾走で距離を取るや、ステージ上のギミックに飛び込んだ。
意を察しかねる俺だが、その直後、頭上に集中したタックスエナジーの塊が、轟音と爆風を伴って炸裂し、一帯を焼き尽くしてしまった。
もし聖子が咄嗟の判断でギミックに隠れていなければ、そこで勝負がついていたところだ。
「ふん。小癪な奴。まぁいい。かかって来なてください」
手招きするジェイソン(本体)に、聖子が応じる。離れていた距離を一気に詰め、肉弾戦に打って出た。
どうやらそのスピードは、ジェイソンの想定を超えていたらしい。
聖子の連打をガードし切れず、顔面に強烈な跳び膝蹴りをくらった。何とか足を踏ん張りその場にとどまったジェイソン(本体)だが、その顔色は怒りに染まっている。
「おのれ、よくも……」
「ちょっとは、渋い顔になったみたいね。ジェイソン」
聖子がはじめて言葉を発した。いつもなら挑発に熱くなるあまり、力を発揮し切れなかった聖子が、今は逆にジェイソン(本体)を挑発している。
実はこれもあらかじめ決めていた作戦の一つだ。というのもブラックアーマーは、制御の安定が難しい。一度、心を乱すとなかなか元には戻れないのだ。
案の定、ジェイソンは身を崩している。自滅のカウントダウンだ。おのれの感情を制御できず、有り余るエネルギーをところ構わず乱発し始めた。
もはや会場は大混乱だ。サイバーステージから観衆が逃げ惑う中、聖子は巧みにジェイソン(本体)に焦点を絞らせることなく、所定の位置へと誘導していく。
それをPCの画面上で確認しながら、俺は見切った。
「ここが勝負の分岐点だな」
「同感です」
ジェイソン(クローン)が冷静に切り返す。事実、聖子にフットワークでペースを掻き乱されたジェイソン(本体)は、膨大なエネルギーを戦闘に集中させることが出来ない。
そんな中、俺のスマホに着信が入る。画面を見ると親父からである。通話に出るや否や、親父は珍しく興奮気味に言った。
「今、国境なき税務団本部へと突入があった。母さんを無事、確保とのことだ」
「じゃぁ、もういいんだな?」
「あぁ、存分にやれ」
――よし……。
俺は親父との通話を切るや、画面上の聖子に合図を発信した。
「行け聖子、そいつをぶっ放せ!」
一転して攻勢に出た聖子は、ジェイソンを畳み掛けていく。これになす術を持たないジェイソン(本体)は、遂にダウンを喫した。
高らかに勝敗のゴングが鳴る。聖子の勝利が確定した瞬間だ。もっとも彼女はファイティングポーズを解かない。
もはやルール無しのカオスとなったステージでジェイソン(本体)は、断末魔とも思える呻き声を轟かせながら、聖子へと迫ってくるのだ。
ここで聖子は、アイテムを使った。バックパックから煙幕をとり、ジェイソン(本体)から視覚を奪った。
「小賢しいマネを……」
苛立つジェイソン(本体)は、両手で煙を払いつつ、聖子を見つけコーナーへ追い詰める。その形相は、まさに鬼そのものだ。
「聖子……お前だけは許さない。覚悟するがいい……」
「ジェイソン。悪いけど、勝負ありよ」
聖子は、涼しげな表情でコーナーをバックに指を鳴らす。ジェイソン(本体)が振り返ると、背後にあらかじめスタンバイしていたアネリさんとミスターDが、包囲している。
完全に詰みの状況だが、流石はジェイソン(本体)である。どうやら最後の切り札を隠していたらしい。残り少ないエナジーを爆発させ、サイバー空間から姿を消し去った。
その様をPC画面で確認した俺は、ジェイソン(クローン)と目配せの後、立ち上がる。
「計算通りだ」
「そうですね。優斗」
俺達はサイバー空間から戻ってきた聖子を交え、潜伏していた部屋をあとにした。
俺達が向かった先は、桜志会の事務局がある一和ビルだ。そこには、人集りができパトカーやテレビ局の中継車が推し寄せている。
何でもジェイソン(本体)とその取り巻きが、一帯を吹き飛ばせられるほどの爆弾を抱え、部屋を陣取っているらしい。要求は、俺達の身柄だ。どうやら何か言い足りないようだ。
――めんどくさい奴だ。
俺はぼやきつつ、ジェイソンと聖子に言った。
「二人は、ここで待っていてくれ。俺が一人で行く」
「や、ちょっと待ってください」「そうよ。私達も一緒にって話だったでしょう」
食いつく二人だが、俺は固い意志でこれを拒絶した。
「ここは、俺に任せてくれ。頼む」
俺の懇願を受け、二人は渋々これに従った。
「優斗、アレの使いどころだけは間違えずに頼みます」
頭を下げるジェイソン(クローン)に、俺はうなずき、差し入れのラーメンとともに中へと踏み込んだ。見ると室内にはガソリンが撒かれ、爆弾の起爆装置を手にしたジェイソン(本体)が、数人の覆面男とともに狂ったような笑みを浮かべている。
「ずっと思っていた。僕の理想をいつも邪魔する存在、それがお前らとこの桜志会だと。ならこの身もろとも、巻き添えにしてあげよう、とね」
「ジェイソン、もういいだろう。確かにお前がやったことは許されることではない。だが、それは然る場所で裁かれるべきだ」
俺の返答に対するジェイソンの反応は怒りだった。
「ふざけないで欲しいね。そもそも税というものが重大な泥棒行為だ。税務当局への協力姿勢を見せるお前達の場合、なおさらたちが悪い」
「ジェイソン、確かに無税国家構想は分かるが、なぜそこまで急ぐんだ。しかも、これだけ人を巻き添えにして」
「決まってるだろう。そうでもしないとこの国は変わらない。もう時間は、残されていないんだ」
切迫感を訴えるジェイソンに、俺は一定の理解を示しつつ、切り返す。
「じゃぁ、海外に行くなり別の方法があるだろう」
「無駄だ。この国もバカじゃない。何らかの網を張って資本の逃亡を阻止するのは、目に見えている。インフレにして国の借金帳消し? ふざけるな。対外純資産がトップだか知らないが、それは俺達、国民の金だ。無策の政府がもつ金じゃない」
こんこんと持論を説くジェイソンに俺は、しばし考慮の後、ズバリと切り込んだ。
「要するに好きなんだろう。この国が」
これには、ジェイソンも返す言葉がない。図星と見た俺はさらに続ける。
「ここで俺を巻き添えに桜志会の事務局丸ごと破壊すれば、お前の気は晴れるかもしれないが、お前が守りたかった日本は守れない。むしろ、これを機にお前達が信条としてきた無税国家構想自体が責められ滅びかねない。これまでの活動全てを否定されて、お前は満足なのか?」
「ふん……どうせこの国は滅ぶ。何と批判されようが構わないね」
「じゃぁ国境なき税務団は、どうなるんだ。たとえ組織が壊滅しても、その理念は生き続ける。だが、お前がここでぶち壊しにすれば、それすら守れない。生きた証を残したくはないのか?」
黙り続けるジェイソンに俺は、畳み掛けた。
「確かにこの国は、これから厳しい局面を迎える。それでも滅びはしない。戦後の復興、震災、オイルショック……色々あったがその都度、知恵を絞ってやってきた。これまでもそうだし、これからも一緒だ」
どうやら効き目があったらしい。ジェイソンの表情に変化が見えている。俺はここぞとばかりに切り札を出した。
「ここに誓約書がある。国境なき税務団の活動は禁ずるが、無税国家構想を説くAI化したジョン黒田に対しては、手を出さない。これが俺達に出来るギリギリの譲歩だ」
誓約書を受け取ったジェイソンは、それをまじまじと眺めている。脈ありと踏んだ俺は、ジェイソンに言った。
「まずは飯だ。麺が伸びるぞ」

