返信先: 【新企画】桜志会が大活躍する挿絵小説

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一井 亮治
参加者

     第二十八話

     結局、ジェイソン(本体)は、俺の条件を飲んだ。事務局ビルを開放したジェイソン達一派は、特殊部隊に連行されていく。それを横目に俺は、ほっと安堵のため息をついた。
    「上手くいった様ですね」
     語りかけるのは、ジェイソン(クローン)だ。さらに聖子が俺にカップ麺を差し出してきた。
    「ここんとこ飯抜きだったでしょ。せめてこれでも」
    「おいちょっと待て。まさかこれがネゴシエーションの成果報酬じゃないだろうな」
    「フフッ、まぁ、色々明らかにしたいんだろうけど、大人の事情ね。ことが機微に触れるだけに大っぴらには出来ないんだって。せめてもの労いってことらしいよ」
     ――何が労いだ。人の気も知らないで。
     俺は憤慨しつつ麺が伸びる前に、カップ麺をすする。それを横目に聖子が誰にいうでなしにつぶやいた。
    「この国は果たして、どうなっていくんでしょうねぇ」
    「分からん。まぁ、このカップ麺の如く細く長くあって欲しいところだな」
    「それを守るのも税理士の仕事だし、桜志会の役目なんじゃない?」
    「どっちにせよ、俺の身には余るぜ」
     ぼやく俺にジェイソンが言う。
    「その割には、まんざらでもなさそうですが」
    「ふん、これ以上、酷使されてたまるか」
     俺はそっぽ向きつつ、麺を一気にすすった。

     
     
     事件解決から数日後、俺は聖子とともに港にいる。旅立つジェイソンを見送るためだ。
    「しかし、忙しい奴だな。183日ルールか何だかしらねぇが、ゆっくりして行けよ」
     呆れる俺にジェイソンは、どんでもないとかぶりを振る。祈願だった世界一周自転車計画を始められることが、嬉しくて仕方がないらしい。
     そんなジェイソンに聖子が言った。
    「確か二十歳までに国籍を決めなきゃいけないんでしょ」
    「えぇ、日本では二重国籍は認められていませんから」
     返答するジェイソンを前に、俺はかつてこいつが述べていたセリフを思い出す。
    〈僕は真の自由を得たい。ネットやマスコミだけに頼らず、海外を周りながら実地へ赴き、あるがままの世界の実像を肌感覚で学んでいく。その上でどの国を祖国とするのかを、自分で決めたい〉
     俺には、到底考えが及ばないものの、その権利を得たジェイソンの喜びようたるや、側から見ているこちらまで陽気になるほどだ。
    「ジェイソン、お前は不安じゃないのか。テロに疫病、検閲、戦争、世界はお前を守っちゃくれないぜ」
    「もちろん不安はあります。でも期待がそれを上回るんです。それにね。温暖化で大陸が沈もうが、戦争で国が滅びようが、人は何なと生きていくんです」
    「ゆく河の流れは絶えずして、方丈記ね」
     聖子の相槌にジェイソンは、うなずく。 
    「これまでも国や民族が消えてしまったこともある。それでも人類は生き残ってきた。環境の変化に耐え忍ぶその力は、大自然の力と同じくらいにたくましい。僕はそれを見たいんです」
    「今度はジム・ロジャーズか? そこに感銘を受けるあたりがお前らしいよ」
     やがて、汽笛が鳴り、俺達はジェイソンに別れを告げた。
     何があろうとその全てを眼に収め、自由に国境を跨ぐジェイソンのバイタリティーに感服しつつ、俺は言った。
    「俺は、どう生きればいいんだろう。聖子はどうなんだ? 以前言っていた電脳格闘大会は、もう達成しちまっただろう」
    「フフッ、実はもう考えてあるの」
    「そうなのか!? 次は何なんだ?」
     驚き気味に問う俺に聖子は、じれったそうにしつつも、ポツリと言った。それは実に意外な答えだった。
    「お嫁さん……とか、どうかなって」
    「跳ねっ返り娘のお前がか!? 第一それ、職業じゃないだろう」
     思わず失笑する俺だが、聖子は構うことなくウィンクで笑いかけ言った。
    「じゃ、帰ろっか」(了)

     オワタ……

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