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一井 亮治
参加者

     第二話
     
     ラクロス部でちょっとした事件があった。二年の谷花江先輩が、隣街にある暴力団系不良グループの嶋という青年からマジでシャレにならないちょっかいを受けたらしい。
     ま、大人しげな先輩なんだけど、とにかく私が相談を受けた。ここで夏目センサーが働く。
     ──智に働いて丸め込むチャンスよ。
     というのも何か私、嫌われてんの。一年のくせに先輩のポジション奪って何様って。だから、これを機に谷先輩の悩みを解決出来れば、低飛行気味な私の株も一気にあがろうってもんよ。
    「悔しい。私、どうしたら……」
     涙すら見せる谷先輩に私は「大丈夫です。私に任せてください」と胸を叩いてみせる。とは言えこんな危ない橋は、渡れない。
     それとなしに協力を求めた相手が、私を勝手に婚約者扱いする冬月とケインだ。
     ──さぁ、コイツら。どう出る?
     私の考えでは明らかに未成年には手に負える案件だ。大人ですらヤバくてリスクを背負えない状況だが、どんな反応を見せるか試してみると速攻で返事がきた。
    「事情は分かった。荒事は任せろ」
     ──早っ……。
     私は驚きつつ呆れ気味に訴える。
    「冬月、あんた任せろって、どーすんの? 警察も動いてくれないのよ」
    「俺がやる。ケイン。あれを出来るか?」
    「イエス」
     何やら了承を見せるケインに冬月はうなずき、立ち上がるや教室を出て行った。慌てて追いかける私と谷先輩、なんと冬月は学校中を歩き回って、不良仲間のゴロツキを根こそぎ掻き集めてしまった。その数、約五十人。
     で、そのまま隣街へと乗り込んで行く。流石の私も焦ったわ。
    「ちょっと冬月、あんた戦争でもする気?」
    「や、それはない」
     自信ありげな冬月に私達は戸惑いを覚えつつ、成り行きを見守っている。結果から言うと、確かに戦争にはならなかった。こっちが倍の人数を集めたからね。
     ただ交渉はした。向こうのボスと話をつけ、問題の不良を差し出すことで、合意と相なった。
    「よし……」
     冬月は用済みとばかりに軍団を解散させるや驚くなかれ、今度はその不良を引っ張ってバックに控える暴力団事務所に乗り込んでしまった。
     無論、入口で武器や録音機の類を持っていないか、厳重なボディーチェックがされた上でだ。冬月が組長に直談判を持ちかける中、私達が見守っていると、その問題の嶋が「俺がやった証拠がねぇだろ」と開き直ってしまった。
    「どう言う事だ。お前、さっきまで罪を認めてたじゃねぇか」
    「知らねぇな」
     嶋がシラを切る中、周囲の構成員が私らを取り囲み、罵声を浴びせてきた。
    「ガキのくせにヤクザ、舐めんじゃねぇ」
    「殺すぞ、ワレ」
     周囲が騒然となる中、嶋はもはや難を逃れ余裕の笑みを浮かべている。
     とそこへ暴力団事務所に電話が入る。冬月が人差し指を立てて言った。
    「その電話、早く出ろよ」
     ヤクザ達は訝りながらも、その電話に出る。相手はケインだ。なんと音声をスピーカーに繋がせ、事務所に入って今に至るまで全ての録音音声を流し始めた。
     見る見るうちにヤクザやチンピラ、嶋の顔色が失われていく。組長が吠える。
    「おい、どうなってんだ。コイツらのボディーチェックは済んだんじゃねぇのか!」
    「や、そうなんっすが……」
     皆が口を閉じる中、俺は「失礼」と詫びを入れ、嶋のジャケットの胸ポケットに手を入れる。出てきたのは、ケインの端末に通ずるペンシル型の録音機だ。
     どうやら、仲間の嶋にまでボディーチェックはしないであろう盲点を突いて、密かに忍ばせていたらしい。
     ここで冬月が畳み掛ける。
    「さっきの〈殺すぞ〉って脅迫ですよ。分かってます?」
     流石の組長も分の悪さを認識したらしい。改めて交渉となり、問題の嶋にきっちりケジメを付けさせることで合意と相なった。まさに私達の完全勝利である。
     私はほっと安堵のため息とともに、今回の案件を成功に導いた冬月とケインに感服した。
     
     
     
     その後、谷先輩と別れた私と冬月は、ケインと合流し、近辺のファーストフード店で存分に礼をした。
    「二人ともありがとう。助かった。奢るわ」
    「どうってことないさ、なぁケイン」
    「イエース」
     おちょける二人に私は苦笑を禁じ得ない。何しろラクロス部でエースを張る私のメンツが保たれた上に、谷先輩に恩も売る事が出来たのだ。
     まさに笑いが止まらない。止まらないのだが、今一つ何か引っ掛かるものを覚えている。
     どうやら二人もそんな私に気付いたらしい。目配せの後、その笑みを凍りつかせる録音データを再生し始めた。それは、先程まで全く流さずにいた谷先輩と嶋の音声だ。
    〈嶋、うまくいったよね。あの夏目って後輩、痛い目に合わせてやってよ〉
    〈ほぉ、いいのか谷?〉
    〈えぇ、もうやっちゃって。皆、あいつには頭にきてんの。この後もうまく私が泣きついて騙すからさ〉
     次々と露わになる事実に私は愕然とする。
    「ちょっと、何よそれ……何なのよ!」
    「所詮、先輩後輩の仲なんて、こんなもんさ。特に夏目はな。お前さ、要領がよすぎるんだよ」
    「アメリカでもそうですよ。信じる者は足すくわれる。皆、足の引っ張り合いばかり」
     ケインも同調する中、私は頭を抱え塞ぎ込む。
    「……ゴメン。私、ちょっと」
     声を震わせる私の意を察した二人が席を立つ。一人になったのを確認した私は、涙を目一杯浮かべ肩を震わせて嗚咽した。何も気づかずのほほんと振る舞っていた自分があまりに情けなく、辛さが心にしみるしみるほど痛かった。

     
     
     その夜、帰宅した私が頼ったのは、兄の夏目士郎だ。私より三つ上のタレ目でクールなこの兄は、私の話に大いに理解を示している。
    「葵、確かにお前は何をやっても、ある程度まで出来てしまう。で、妬みやっかみを受け努力家に抜かれていく。要するに器用貧乏だな」
    「士郎兄、私、どうすればいいと思う?」
     悩む私に士郎兄が出した答えは、意外だ。別に悩む必要はない、と。どう言うことか聞き耳を立てる私に士郎兄は、説明した。
    「今、時代が日進月歩で世の動きが早いだろう? そんな中で大器晩成を待っていたら、完成した頃には時代の方が変わってしまう。葵は卑下するが、今は器用貧乏の方がかえっていいんだ」
    「え、でも皆、大器晩成の努力家を称えるじゃん」
    「日本人の美徳だからな。結果、見下していたアジア諸国に抜かれるに至る。困ったもんさ」
     しみじみと嘆く士郎兄に、私も異論はない。ではどうしたらいいか聞き耳を立てる私だが、ここで士郎兄は思わぬ提案をする。
    「葵、ここは一つ、税理士を目指してみないか?」
    「え……」
     思わず私は閉口する。あまりに唐突で頭が回らず、固まった。
     ──私が税理士? 何でまた?
     疑問符を浮かべる中、士郎兄がその根拠を述べた。曰く、ある程度数字に強い上に税務署との折衝で、持ち前の器用貧乏さが上手く働くと読んだらしい。
     私は士郎兄にうなずきつつも言った。
    「何となく分かるんだけど……でも税理士って確かAIに取ってかわられるとか……」
    「記帳や税理事務だけではな。だが、いかに時代が変われど経営者ってのは、いつも孤独だ。相談にのれる数少ない存在の一つが税理士さ。確か玄蔵爺さんが事務所を開いていたはず。一度、相談してみろよ」
     ──税理士、かぁ……。
     思わず唸る私に士郎兄は、笑みとともに言った。
    「多分、お前には合ってると思うぜ」

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