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一井 亮治
参加者

     第四話
     
    「ワォ、税理士に。クール!」
    「いいんじゃねぇか夏目。打倒アレックス少年、応援するぜ」
     教室で現状を話す私にケインと冬月が同調する。私は照れ気味に言った。
    「まだ始めたばかりだけどね。それにつけてもアレックス少年よ。まさに知謀沸くが如し、何よりスピード感が凄い。課税当局がまるでついていない。いたちごっこは完全にアレックス少年のペース、凄いの一言よ」
    「おいおい夏目、憧れているうちは勝てないぜ」
    「何? 大谷翔平? まぁ、そうなんだけど……」
     私は腕を組み改めて考える。実はあれから色々調べたのだが、デジタルスキームにクリエイティブアカウンティングなど、法の盲点を突いた施策が目白押しなのだ。
    「一体、どうしたらこんな発想が出来るのか。一度、会ってみたいものね」
     感嘆のため息とともに心境を漏らす私だが、ここで二人が意外な反応を見せる。
    「いいじゃねぇか。皆で会いに行こうぜ」
    「イエッス。賛成です」
    「ちょっ……アンタら何でないことのように言ってくれるけど、どうやって? 相手はアメリカのシリコンバレーで暴れまくるツワモノよ」
     呆れ気味に説く私だが、なんとケインがその場でSNSを通じ、アポを取ってしまった。
    「夏目さん。今度の連休、部活はお休みでしたね。確かパスポートはお持ちだとか。今、飛行機のチケットを取ってマス」
    「や、えぇっ……ちょっとちょっと何やってくれんのよ!」
     声をあげる私に冬月が言った。
    「夏目、これがデジタル時代のスピード感さ。食いついて行こうぜ」
     
     
     
     ──何がデジタル時代のスピード感よ。冗談じゃないわ。
     放課後の部活動でラクロスクロスに怒りをぶつける私。訳の分からないうちに、皆で渡米することとあいなった。いたく不満である。
     不機嫌な私だが、どうやらオーラが出ていたらしい。皆が気にかけており、その最たるが先日の一件で腹黒さを見せたあの谷先輩だ。インターバルで声をかけて来た。
    「夏目さん、大丈夫? なんか今日、様子がおかしいけど」
    「あぁ、や。大丈夫です。ちょっと私用で」
     お茶を濁しつつ、私は谷先輩の心中を探る。
     ──アンタが私を嫌ってることは、よーく分かった。果たして次は何をしてくることやら……。
     本当なら声も聞きたくないのが本音だが、チームを組む以上、最低限のコミュニケーションは築いておかなければならない。仕方なしに平静を装っている。私も大人になったもんよ。
     さて、そんな中、ちょっとした事故が起きた。ビブスゼッケンを羽織っての練習試合で部長が他の部員と接触し、怪我を負ったのだ。
    「おい一年、救急箱だ!」
     清原武志監督の怒声が響く中、応急処置を施すものの、どうも派手に足首をグネってしまったらしい。たちまち病院行きとあいなった。
    「お前ら、善後策を練っておけ」
     清原監督は私達にそう言い放ち、部長を車で運んでいく。残された私達は皆、動揺を隠せない。
    「善後策って、どういうことよ?」
    「や、だから、そう言うことでしょ」
     皆が小声でコソコソと囁く中、切り出したのは谷先輩だ。
    「試合も近い。あくまで暫定の措置だけど、当座の部長は夏目さんにするしかないと思うの」
     皆も納得の表情でうなずく中、私は「や、ムリっすよ」と頑なに固辞する。だが、チームメンバーの大勢は「部長は夏目」で固まってしまった。
     半ば無理やり決められた人事に、私の嘆きは止まらない。
     ──もう、勘弁してよ。アンタ達、皆揃って、私のこと嫌ってんじゃん。
     よほど皆の本音を晒してやりたかった私だが、それをやればチームは即、崩壊だ。やむなく部長の座を引き受けることとなった。
    「よろしくね。夏目キャプテン」
     作り笑顔を振り撒く谷先輩らに、私は穏やかならずも笑顔で応じた。
     

     
    「ほぉ、アメリカ行きにラクロス部のキャプテンか。随分と賑やかそうじゃないか」
     帰宅後、夕食を囲みながら士郎兄が楽しそうに目を細める。ちなみに両親は基本、家を空けがちだ。税法学者の父は研究に没頭し、ジャーナリストの母は海外への取材で忙しい。
     家庭をかえりみず、自由放任主義で「各々、勝手に育って」と言った感じ。
    「もう勘弁して欲しいわ。あれもこれもで大変よ」
    「それを何とかしてしまうのが、葵だろう?」
     ズバリと指摘され、私は黙ってうなずく。事実、忙しくなる程、頭が逃避モードに入って「いかに上手く手を抜くか」という要領が次々と浮かぶのだ。
     そんな私を士郎兄が評した。
    「葵、お前が持つ力の源泉は感性だ。要領のよさも遊びへのパワーもな。俺や親父は……まぁ、言ってみれば石橋を叩いて渡る凡人だが、お前は違う。母さんに似て走りながら考える……そうだな。高杉晋作タイプだな」
    「誰それ? 士郎兄のダチ?」
    「アホ。幕末に名を馳せた革命家だ」
    「あぁ……えーでもさ、そう言うのってどーせ司馬遼太郎が勝手にそー言ってるだけでしょ」
    「その冷めた感覚がいい。平時の日常を切り盛りする俺や親父と違って、有事で世界一変させる、激変期にしか活躍出来ない革命家だ。伊藤博文曰く〈動けば雷電の如く、発すれば風雨の如し〉さ」
     ──士郎兄も歴史、好きねぇ……。
     私は呆れつつ、言った。
    「色々、評してもらって誠に光栄だけど、実際問題、一年の私の言うことなんか、ラクロス部の先輩ら聞かないよ」
    「だろうな」
    「じゃ、どうしろと?」
    「簡単だ。勝てばいい」
     あっけらかんと言ってのける士郎兄に言葉が出ない。士郎兄が夕飯のオムライスを平らげながら補足した。
    「いいか。お前は皆と団結して勝つ青春タイプじゃない。勝ってチームを団結させていく実業家タイプだ。だから、勝利のために手段は選ぶな。アレックス少年の案件然り、上手くやれば時代を掴めるぞ」
    「悪いけど興味ないわ。そういうの、士郎兄に任せるから」
    「俺じゃムリなんだよ。選ぶのは時代だ。時代が勝手に選ぶ。理不尽な話さ」
     士郎兄は憤慨気味にこう締めた。
    「葵、お前の才は革命でこそ生きる。この日本を頼んだぞ」
     
     
     
     ──日本を頼むぞ、だってさ。
     夕食を終えた私は、自身の部屋で机を前に考え込んでいる。歴史に傾倒するあまり陶酔気味で、士郎兄の言うことについていけない。
     ただ言わんとしていることは、分かる気がした。
    「要するに適材適所ね」
     ちなみにラクロスのポジションはゴーリー、ディフェンダー、ミッドフィールダー、アタッカーの四種で、ポジションによって性格に明らかな違いが出る。
     一つのプレーやミスに対する考え方や不安の感じ方が違うのだ。
     面白いことに、それは税務においても同じだ。サンズイ(法人)、トコロ(所得)、消費税(ケシ)、相続税(サン)と、出身の畑で慎重さに違いが見受けられる。
     ──スポーツのポジションや組織の部門でこんなに違うなら、国が変われば、なおさらだろう。マッチョで単細胞なアメリカ人、世界のどこででも生きていける中国人、器用で小心な日本人……ってところか。
     無論、不真面目な優等生の代表格な冬月や、意外な器用さを持つケインのような例外もあるが、総じて枠からはみ出さないのが、日本人だ。
     ──果たしてアレックス少年の本性やいかに、彼はこの日本をどう見ているのか。
     そんなことを感じつつ、授業と部活と革命とやらに向け、各々の宿題に取り掛かっていった。

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