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一井 亮治
参加者

     第五話
     
     翌日の部活、皆の前で私は高らかに宣言した。
    「あくまで臨時だけど、一年生ながらも私が部長をやる。練習内容も清原監督から一任された。はっきり言う。私はPTAや協会が喜ぶラクロスは一切、やらない。とにかく勝つラクロスよ」
     皆が唖然とする中、私はチームを二つに分けた。レギュラーからなる強豪Aチームと補欠からなる弱小Bチームだ。
     キーポイントは、私がBチームのトップを務める点だ。ちなみにAチームのトップは、谷先輩である。
    「今から一ヶ月後、紅白戦をやる。そこで私にアピールして。礼儀、遠慮、忖度は一切、不要。分かった?」
     私は強引に皆を丸め込むや、Bチームのメンツを掻き集めて二種類のレジュメを渡した。一枚目が『必勝法』、二枚目が『必敗法』だ。
     早速、三年生で最弱の成瀬先輩が問うた。
    「あの……いくら何でも私達だけで勝つのは……」
    「勝つの!」
     吠える私に今度は、同じ一年の磯川恵が声をあげた。
    「この必勝法……何かセコいっていうか、ちょっとやり方、汚くない?」
    「恵。アンタ、なんでそんなに真面目なの?」
     意を察しかねる恵に、私は続けた。
    「Aチームのメンバーとの実力差、分かってる? そんなもん普通にやって勝てる訳ないじゃん! だったらズルでもするしかないででしょ」
    「まぁ、そりゃそうだけど……」
     恵が言葉を失う中、傍らに控える二年生の鈴谷先輩が本音を吐いた。
    「夏目さん。言いたいことは分かるけど、私達、別に勝ちたい訳じゃないの。ただオシャレに学生生活を送りたいだけで……」
    「それっ! 行きましょう! オシャレでスタイリッシュな勝利、大いに結構。要するにこう言うことよ」
     私はホワイトボードに山を描き、頂上に向かって線を引いた。一本目は真っ直ぐに、二本目は華麗に、三本目は空からパラシュートで降下する形で。
    「いい。コツは頑張らないこと。ただ頂上は目指す。どんな形でもいい。そしたら思わぬ抜け道が見つかったり、助けてくれる人が現れたりするから」
    「や、でもやっぱり努力の末に……」「そうよ」「無理ゲーだわ」
     皆が困惑する中、私は言った。
    「あのね。私、これまで努力ってしたことがないの。要は考え方! マインドさせ正しければ努力なんてしなくても、結果って付いてくるのよ。いい? 練習時間も今のまま。見た目も同じ。ただ心が変わる」
     皆を黙らせた私は、さらにメンバーごとに『マル秘』と付されたレポートを配った。そこには、私から見た各々への実力分析と対策、それに本音が記されている。
     赤裸々にぶつかる私だが、どうやら真意は伝わったようである。困惑しつつも皆の目が変わったのが、分かった。
    「今から一ヶ月後、私達は変わる。いい?」
     私は皆と円陣を組んで掛け声を合わせた後、練習へと入る。
     内容は同じ、ただ質が違う。手を抜いた百回の素振りでなく真剣な十回の素振りだ。限られた時間の中で私達は、それぞれが持ちうるポテンシャルから最大限のパフォーマンスを発揮すべく、練習に取り組んでいった。
     
     

     ラクロス部のぬるま湯に喝を入れるべく、紅白戦をけしかけた私だが、その一方でアレックス少年の案件も進行中だ。連休を利用し、本人と会いに現地へ赴くのである。
    「いやーゾクゾクするな」
     機内で能天気な声を上げるのは、冬月だ。ちなみに今回のチケット取りには、親が航空会社に勤めるケインの助けを借りている。
     ──それにしても……。
     私が思うのは、アレックス少年だ。これ程の有能な著名人が、無名の私達如きに会う事実がいまだに信じられない。
     一体、どう言う風の吹き回しなのか訝る私に冬月がうそぶく。
    「俺様に恐れをなしたのさ」
    「んな訳ないでしょ。とにかく何か理由があるはずよ」
    「それはいいけどさ。夏目、ラクロス部の紅白戦が迫ってるんだろう。なのに練習放ったらかしで北米入りなんて余裕だな」
    「しょうがないでしょう。アンタらが勝手にアポとっちゃったんだから!」
     吠える私に冬月が苦笑している。その傍らからケインが言った。
    「夏目さん。紅白戦の勝算は?」
    「現状は一割、これを数日で五割近くには持っていくつもりよ」
    「なぜそんな無謀なギャンブルを?」
    「性分。器用貧乏だからね。こうやって追い込んどかないと私、要領かましてサボっちゃうの。アレックスとの対面も然りよ」
     ケインに応じつつ、私はラクロス部の皆に配った戦力分析レジュメに対する返答を読み込んでいる
    〈努力はいらない。必要なのは、正しい考え方〉
     自身の思いを述べた私だが、その出発点は現状把握だ。アレックス少年との対面も然り。自身の立ち位置や今後の展望ををどのように考えているのか、その一端に触れるつもりでいた。
     やがて、窓の向こうから海に浮かぶ大陸が姿を現す。言わずもがな。アメリカ大陸だ。
     ──ついに私はアメリカに……。
     感慨深げに窓の外の景色を眺めつつ、今後の行程について、頭を巡らせた。
     
     
     
     カリフォルニアに降り立った私達は、早速、現地へと足を運ぶ。向かう先は、シリコンバレーの一角に事務所を構えるアレックス邸だ。
     子供ながらにして一軒家を構えるなど、日本ではあり得ない光景ではあるが、これが現実だ。現地に足を降ろした私達は、早速、アレックス邸のベルを鳴らす。扉を開いた先に現れた人影こそ、あのアレックス本人だ。
     齢十三のあどけない表情に知的な笑みと、どこか端正な品を感じさせる金髪青眼の少年である。カタコトの英語で挨拶を述べようする私達に、逆にアレックスが流暢な日本語を切り出した。
    「ウェルカーム、待っていたよ。ジャパニーズ。さ、入って」
     あまりの好意的でざっくばらんな態度に面食らいつつ、私達トリオは中へと足を踏み入れた。すると私達を歓迎すべくテーブルいっぱいに食事が用意されている。
    「カモーン」
     アレックス少年の手招きに応じ、私達は椅子に腰掛ける。まさに至れり尽せりだ。アレックス少年の歓待に私達は、目配せしつつ心の中で会話を交わす。
     ──え、これってどう言うこと? 大丈夫?
     つい先日、SNSで知ったばかりの相手に対するあまりの歓迎ぶりに訝りつつ、私達は食事へとついた。
     そこから始まったのは、アレックス少年による質問攻めである。
    「ジャパンってどうなの? 生活は? 学校ってどんな感じ? 何が流行してるのさ?」
     あまりの興味津々ぶりに私達は、困惑を隠せない。だがアレックス少年は、構うことなく続ける。挙げ句の果てには、臨時ながらもアルゴリズム開発チームの一員に迎え入れたいとまで述べる始末だ。
     無論、日本人としては嬉しい。そうなのだが、あまりのフランクさに違和感を拭えない。
     そこへ急ぎの連絡が入ったとかで、アレックス少年は席を立った。残された私達は、小声で会話を交わす。
    「ねぇ。一体、どう言うつもりよ?」
    「知らねえ」
     冬月はかぶりを振り、ケインは「親日家なのでは?」と、仮説を述べる。
     やがて、食事を終えた私達は戻っていたアレックス少年に従い、仕事部屋へと案内された。そこで促されるままソファに腰掛け、会話を再開させていく。
     この時点においても、私達はまだアレックス少年の真意を読み取れずにいる。とにかく日本に詳しい。経済状況は言わずもがな、あらゆる指標が頭に入っているばかりか、日本の製造業や観光、ポップカルチャーに至るまで知識が豊富なのだ。
     あまりの熱心さに私は問うた。
    「アレックスは、日本に来たことはあるの?」
    「あるよ。オキナワとかね。でも本格的な調査はこれから」
     ──調査?
     いきなり出た妙な言葉に私のセンサーが反応する。どうやら冬月とケインも何かを感じ取ったらしい。気が付けば私はアレックス少年に問うていた。
    「日本に投資をされるんですか?」
    「敬語なんて要らない。普通にしゃべってくれたらいい。まぁ、そうさ。実はちょっとしたビジネスを始めている」
    「どんなビジネス?」
    「風俗」
     アレックス少年の即答に私は二の句が告げない。てっきりどこかのメーカーか商社株かと思っていただけに、思わぬ業種に言葉を失った。
     流石にこれは単刀直入過ぎたと感じたのか、アレックス少年がその真意を説いた。
    「僕は世界中を見てきたけど、その際の入り口は女性なんだ。大体、女を見ればその国が分かる。縮図と言ってもいい。国勢を探る体温計みたいなものさ」
     ここでケインが反応する。
    「アレックスは、資本主義をどう捉えています?」
    「お上公認の公営賭博」
    「え、カジノってこと?」
     思わず声を上げる私にアレックス少年は、うなずく。さらに冬月が問う。
    「じゃぁ、国力の源泉は? 国の根源はどこに現れると?」
    「みかじめ料……もとい税制」
    「日本の税制をどう捉えてる?」
    「複雑、シャウプ勧告という原点に立ち戻るべきだと思う」
     その後も様々な問いを互いに積み重ねていく私達だが、これにアレックス少年は実に詳細に答えていく。そのあまりの理解度には、感心を通り越し恐れすら抱いたほどだ。
     アレックス少年は言った。
    「僕はね、投資にせよスキームの考案にせよ、やるなら論文一本は書けるくらいの調査をやるタイプだ。そりゃ詳しくもなるさ。当然だろう?」
    「じゃぁ、私達への歓待は……」
    「リサーチ。丁度、日本をターゲットにしていた矢先、君達からタイミングよくSNSに連絡があった。渡りに船って訳さ」
     
     
     
    「投資、か……」
     アレックス少年と別れ、日本への空路で私はつぶやく。確かにそう考えれば、辻褄は合う。だが、それを即座に行動に移すあたりにアレックス少年の凄みがあるのだろう。
     ──アレックスは、女性をその国の縮図であり体温と表現していた。果たして私を通じ日本はどんな国にうつったのか。
     それがいいものであって欲しいと願う私だが、なぜかアレックス少年に違和感が拭えない。その旨を冬月とケインに問うものの、二人とも首を傾げている。
    「や、特には……」「女の勘ってやつか?」
     冷やかす冬月にやや憤慨しつつ、私は違和感の正体を探っている。これを敢えて例えれば〈焦り〉だ。なぜか生き急いでいる気がしてならないのだ。
    「夏目、アレックスは、あの歳で既に学業を終え、カネと地位、名誉の全てを手にしたんだぞ。何を焦る必要があるのさ」
     笑う冬月にケインも「同意見です」と続く。確かにそう言われてしまえば、返す言葉がない。勘違いかと、自分の主張を引っ込めた。
     さて、結論から言えば、私が正しかった。その一端を私達は帰国してすぐに思い知ることとなる。あろうことかアレックス少年は、強烈な日本売りを始めたのだ。
     ターゲットとなったのは、円と十年ものの日本国債である。アレックス少年は機関投資家を巻き込み、あらゆるスキームでこれらを市場に売り浴びせた。その下落率たるや、凄まじいものがあった。
     その後、なんとか持ち直したものの、既にアレックス少年らは、利益を確定させ相場を終えている。
     自分が儲けるためなら、例え国家が潰れても構わない──そう言って憚らないアレックス少年に、私の中で何かが芽生えた。
     ──アレックス、あなたは間違っている。
     もっとも今の私に出来ることは何もない。だが、アレックス少年に強烈な敵愾心を覚えたのは事実だ。
     ──確かに市場には、国家を転覆させかねない力を秘めている。だが、これは違う。未来に何も築いていない。資本主義の履き違えだ。
     私は市場の無法者と成り果てたアレックス少年に限りない憤りを覚えつつ、これに抗う力を持たない己の無力さを呪った。

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