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一井 亮治
参加者

     第六話
     
    「アレックス・チャン。凄いだろ」
     帰国した私に士郎兄が、語りかける。今や世界中がこのニュースで持ちきりだ。無理もない。圧倒的な対外純資産を有し、経常収支とともに過去最大を更新し続けていたはずの日本に市場が「NO」を突きつけたのだ。世間はこれを「少年トレーダーの黒い火曜日」と表した。
    「日銀も忸怩たる思いだろう」
     しみじみと語る士郎兄に私は問うた。
    「士郎兄は、こうなるって分かってたの?」
    「いや、想像を超えていた。少子高齢化に放漫財政のツケ、これからが大変だよ」
     士郎兄が総括する中、私は視線をテレビに移す。そこには、第二のジョージソロスと称えられたアレックスが特集を組まれている。
     その様を眺めつつ、私は言った。
    「私、世界って色々ありつつも、大人達が話し合って世間を回していたと思ってた」
    「変わった。今、市場を牛耳っているのは、紛れもなくアレックスだ。たっと一人の天才、それも子供がその柔軟で斬新な発想でスキームを組み日本に君臨している。知らぬ間に王が誕生していたんだ」 
     冷酷な現実を前に私を含め、ほとんどの日本人が打ちのめされている。例えるなら震災を前にしたときの無力感に近い。圧倒的な力をまざまざと見せつけられ、絶望感すら漂っていた。
     ──マジで国を滅ぼされる。
     その恐怖は私の死生観すら変えた。国の存亡や生活の安全神話に対しドライになったのも事実だ。
     ただ、それは私だけではなかったらしい。夜にも関わらず、スマホにラクロス部Bチームの面々から続々とメールが入った。
    〈会って話がしたい〉
     誰もが異口同音に声を揃える中、私は留守を士郎兄に託し、ジャージ姿のまま示し合わせた公園へと走る。すると、皆が待ち構えていたように私を囲んで訴えた。
    「あのアレックスとかいうガキ、何とかならないの。もうしっちゃかめっちゃかよ」
    「うちなんか両親の職場で自殺者まで出てる。もう無茶苦茶だよ」
    「私達、ラクロスなんかやってていいのかな」
     皆が動揺して詰め寄る中、私は感情を押し殺し問うた。
    「皆さ。今、死んで悔いはない?」
     周囲が静まり返る中、私は続ける。
    「今回の件、日本はアレックスという少年に屈した。ことの成り行き次第で国がなくなりかねない状況よ。でも私達に出来ることは何もない。今は、各々がやれることを悔いなくやるべきと思う。それがラクロスでもね」
    「それだけどさ夏目。アンタ、本気でAチームに勝つ気?」
     鈴谷先輩の問いに私は断言で応じた。
    「もちろん。戦略がありますから」
    「戦略?」
     皆が聞き耳を立てる中、私は持論を展開した。 
    「要は捨てるんです。アレもコレもでなく売りを見つけ徹底して特化する。皆、真面目過ぎるのよ。一から十まで全力、そりゃムリです」
     私の持論に皆は困惑を隠せない。言葉を詰まらせつつも、鈴谷先輩が問うた。
    「私達に足りないものって、根性とかじゃないの?」
    「違う。逆です。皆、根性から入るから失敗する。理屈から入るんです。その上で最後に根性に頼る」
    「そうすれば私達でも……」
    「勝てます」
     私の断言に皆の目の色が変わっていく。そこへ最年長の成瀬先輩が具体的な方法を問うた。
    「紅白戦まで残り三週間を切ってる。私達、何をすべき? 技術なんて全然負けてるのに」
    「いいですか先輩。勝負を決めるのは技術じゃないんですよ。早さなんです」
    「走り込みのスピードってこと?」
    「いえ、判断の早さです。リスタート、ボールデッド後の切り替え、選手交代、これらを誰よりも早くやる。技術力云々がモノを言う前に勝負を決めちゃうんです。こういうのって、練習じゃ身につかない。試合をこなしてはじめて経験値となる」
     実戦の大切さを説く私に同輩の恵が言った。
    「仮にそうだとして、どうやって試合を組むのさ」
    「普段の練習メニューをゲーム形式にする。シチュエーション6ー6、8ー8、これらを徹底的にこなして試合勘を身につければ、技術で劣っても試合には勝てる」
     皆の熱気が高まる中、私は畳み掛けた。
    「皆の残り時間を私に預けて。必ず結果を出して見せるから」
     こんこんと訴える私だが、どうやらその思いは通じたらしい。皆、納得の表情を浮かべている。恵が皆の心中を代弁した。
    「分かったよ夏目。アンタに従う。けどこれだけは教えて。なんでそんなに勝負にこだわるのよ」
    「私の性分。だって、これは競技よ。なら勝利を追い求めるのは、対戦相手に対する最低限のマナーでしょ」
     私の考えに皆の反論はなかった。
     

     何とかラクロス部員の求心力を得た私だが、アレックスが残した傷跡はバイト先にまで及んでいる。
    「アレックスには、参ったよ」
     玄蔵爺さんの税理士事務所で嘆くのは、顧問先の鬼塚社長だ。それこそ市場に振り回され、稼ぎ頭であるオンラインゲームの収益だけでは頼れない状況らしい。
    「何かいい方策は、ないかね」
     救いを求められ困惑しきりの私だが、何気に言ってみた。
    「スポーツ競技の方にも事業を転がされるとか、どうですか?」
    「流行のeスポーツかい?」
    「いえ、もっと本格的で実践的なプロスポーツの世界。例えば……そうですね。実は私、部活のラクロスで困っていて。何というか、もっと手軽に経験値を積める練習方法ってないかなって。それで思いついたのが……」
    「VRか」
     あたりをつける鬼塚社長に私はうなずき、言った。
    「東京五輪で金メダルを取ったソフトボールですが、秘策にVRが活躍したとか。何でもライバルの球速、軌道を擬似的に体感できて、それが金の原動力になった」
    「VRを用いた仮想打撃練習だな。専用ゴーグルをかけると打席に入った感覚が味わえ、投手の映像とともに実際と同じ速さの球が投げ込まれる、と」
    「えぇ、他にももっと手軽に擬似体験を求める需要はあると思うんです。税制上の優遇もありますし、一度、検討されても」
     私の提案に鬼塚社長は「ふむふむ」と、何度もうなずき虚空を睨む。その表情から察するに脈ありと踏んだらしい。
    「分かった。一つ、お蔵入りになった技術がある。それを叩き台としよう。夏目ちゃん、ギブ・アンド・テイクだ。君のラクロスで試してみようじゃないか」
    「本当ですか!?」
    「あぁ、その代わりその紅白戦、何としても勝ってくれよ」
    「もちろんです」
     私は二つ返事で鬼塚社長の提案を了承した。

     思わぬ形で新兵器が手に入った私は、ネオサイバー社の開発室でプロジェクトの実験台となり、実戦さながらの状況を再現させていく。
     Aチームのスペックを仮想空間上に再現させ体験してみたのだが、なかなかの出来栄えである。
    「どうだ。現実にこそ及ばないが、仮想現実として実戦の叩き台とするには、十分だろう」
    「はい。それはもう……」
     私は喜色の表情を浮かべ、心の中でつぶやいた。
     ──ひょっとしたら、本当に何とかなるかもしれない。
     早速、Bチームの皆を呼び寄せ、体験させてみたのだが、その反響たるや想像以上である。
    「凄いっ!」
    「本当にAチームと試合してるみたいっ!」
     皆の目の色が明らかに変わっていくのを前に、私は確かな手応えを感じている。強気を装いつつも、今一つ自信を持てずにいた私が、ハッキリと光明を見出した瞬間でもあった。
     ──これは、イケる!
     自信が確信に変わっていくのを実感しつつ、私は密かに拳を握りしめた。

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