返信先: 【新企画】桜志会×スポ根学園モノな挿絵小説

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一井 亮治
参加者

     第七話
     
     紅白戦の当日を迎えた。白のホームウェアに身を包むAチームを率いるのは言わずもがな、谷先輩だ。
     実はこの紅白戦にあたり、冬月とケインに谷先輩らがどんな準備をしてくるのか、探らせていたのだが、何と特別なことは何もしていないという。
     ──まぁ、無理もないか。
     私は試合前の予備練習につく両チームを眺めながら、ボヤいた。もう両者の実力の差は一目瞭然なのだ。
     攻撃力、ディフェンス、シュートの正確性などボール捌きがまるで違う。逆の立場なら私でも谷先輩と同じ心境でいたと思う。
     事実、Aチームの顔には明らかな余裕が見られ、対する我らBチームときたら、一つ一つの精度がまるで追いついていない。
     だが私には、確信があった。
    「いい皆? 確かにAチームは盤石に見える。けど、谷先輩らの強さは個々の強さ。私達はチームで挑む。実戦力はこっちが上よ。それを見せつけてやるの」
     試合前に組んだ円陣で、士気を上げようとする私だが、皆の表情はすでにお通夜だ。ブルーな雰囲気は紺色へと化し、もはや負けた気でいる。
     これが試合後、一変することとなる。
     ラクロスの試合開始はフェイスオフ、つまりドローと呼ばれる一対一のプレーから始まる。中央サークル内で地面に両手を付き、笛の合図とともにボールを奪い合うのだが、試合の主導権を大いに左右する重要なプレーだ。
     ここで私はフェイスオファーの谷先輩と対峙した。
    「ヨロシク。夏目さん」
    「谷先輩こそ、お手柔らかに」
     感情を押し殺し合う私達は、笛の合図とともにクロスでボールを奪い合った。先手を取ったのは谷先輩だが、ボール運びを阻止した私が奪取に成功する。
     対する谷先輩も負けてはいない。互いが真正面から激しくぶつかり合う中、ボールは意外な方向へと転がる。私達の頭上に弾かれたのだ。
     この空中戦を制したのは私だ。すぐさま味方へパスを送り、これを起点に先制点をとってしまった。その間、約十秒──あまりの速さにAチームの面々は、呆気に取られている。
     一方の私達Bチームは、この流れに大いに乗った。
     ──イケるっ!
     技術に長けるAチームと、それをいかす隙を与えないBチームの戦いは、ワンサイドゲームの様相と呈し始めた。
     なんと言っても私達は、VRでAチームとの対戦を経験済なのだ。仮想空間で何度も対Aチーム戦を繰り返しただけあって、皆、物怖じをすることがない。
     第一クォーターが終わる頃には、3ー0と完全にペースをものにしていた。この一方的な展開に動揺を隠せないのは、Aチームだ。
     無理もない。完全に舐め切っていた相手に完封されているのだ。正常でいろという方が無茶である。
     この流れは、第二クォーターに入ってから、より顕著となった。再開とともに焦るAチームが強引に出た結果、ファールとなったのだ。
     ファールを犯すと、ペナルティとして一定時間、その選手は退場となる。エキストラ(数的優位な状況)を得た私達は、ここぞとばかりに攻め立てた。多少の失点はあったものの、総じて私達はフィールドを支配し続けていく。私はしみじみと痛感した。
     ──やっぱ練習と試合って、全然違うわ。
     総じて真面目な谷先輩らは、決められたルーティーンをこなすだけのスタイルだが、実際は想定通りにいかずイレギュラーな方が多い。まさに筋書きのないドラマだ。
     ただ、あらすじは書ける。
     ──要は、想定と実際の差をいかに埋めるかよ。
     心の中で総括する私は、ふと周りを見るとBチームの面々も似たような表情をしている。どうやら同じことを考えていたらしい。ハーフタイムに入ったところで、同輩の恵が言った。
    「コツっているよね」
    「同感」
     うなずく私は実感する。このコツを猛練習で掴む者もいれば、遊びながら掴む者もいる。私は後者だ。
     ──練習で身につく技術なんてせいぜい一割程度、ほとんどは試合の実戦でしか得られない。
     ここで私は一つの決断を下す。皆を集め新たな後半戦のプランを晒した。今まで目立たなかった思わぬ選手にスポットを当てたのだ。
    「この試合、前半の主人公はミッドフィルダーの私だったけど、後半は成瀬先輩だから」
    「え、や……ちょっと待ってよ。夏目さん、どういうこと?」
    「どうもこうも成瀬先輩がチームの最年長でしょ」
    「そうだけど、三年生になっても補欠要員でしかない落ちこぼれよ」
    「大丈夫です。でしょ、皆?」
     周囲に同意を求めたところ、満員一致で可決した。というのも私達には予感があったのだ。
    〈今日の成瀬先輩って、なんかいい感じじゃない?〉
     成長に早咲き遅咲きとあれども、それを超越した何かを感じた。
     ──この後半、どうせAチームには詰められる。基礎技術はあるからね。そこを逆に突き放すにはギャンブルしかない。伸るか反るかの大博打、ここが勝負所よ。
     私は急遽、突貫で組み立てた作戦を皆に示していく。名付けて〈成瀬狂い咲き大作戦〉だ。
     成瀬先輩は困惑の表情を浮かべつつ、その瞳には炎が灯っている。
     ──目が死んでいない。大丈夫だ。
     安心した私は皆と円陣を組み、声を上げた。
    「皆、行くよ!」
     かくして紅白戦は、第三クォーターへと突入した。
     案の定というか、やはりAチームはさるもので、地力に勝る分、本来の力を取り戻してきた。前半戦を通じ、私達への適応力を身につけ始めたらしい。
     唯一の誤算、成瀬先輩の覚醒を除いて。
    「皆、成瀬先輩にボールを集めて!」
     吠える私に皆も応じる。確かにAチームは私達が築くディフェンスを次々に破り、シュートを決めていく。
     だが、それを上回る勢いでアタックの成瀬先輩が立て続けにシュートを奪い返すのだ。まさに殻を破り狂い咲く大化け銘柄である。
     その勢いたるや、凄まじいものがあった。
     ──本当にあの成瀬先輩?
     これが皆の心中である。あれだけ鳴かず飛ばずだった彼女が、獰猛な狩人へと豹変している。この勢いに続けとばかりに、他の面々もノってきた。
     あれだけオシャレ感覚がいいだの、勝負至上主義は好ましくないだの、ぐだぐだ言っていたのに、勝利へ邁進する成瀬先輩に触発され目の色を変えている。
     私は一言、呟いた。
    「成ったわ。もう〈歩〉じゃない。〈金〉よ」
     やがて、運命を告げるホイッスルが鳴り響く。まさに大差をつけての大勝利だ。呆然と立ち尽くすAチームを横目に私達は、歓喜の声をあげ皆で勝利を讃えた。
     その中心にいるのは、成瀬先輩だ。これまでの鬱憤を晴らし嬉し涙すら浮かべる彼女に、私達は手荒い歓迎で応じた。 
     私は心の中でつぶやく。
     ──これがあるから、勝負師はやめられないわ。
     勝利に対し中毒となりつつある自分に、思わず苦笑した。
     

     
     試合後、私達Bチームはタガが外れたようにジャイアントキリングを祝福し合った。ややハメを外した感は否めないが、まぁこれも無礼講だ。
     特に本日の主人公である成瀬先輩の覚醒には、目を見張るものがあった。
     ──人ってこんなに化けるのね。
     私はしみじみと痛感する。実はこの成瀬先輩、なかなかの苦労人である。実家が事業をやっているものの、いわゆる日本の失われた三十年を通じて需要が細り、成瀬先輩自身もバイトで家計を助けるなど、なかなか大変だ。 
     それでもやめずに続けている要因はひとえに、ラクロス愛にある。本当に好きなのだ。ただ前述の事情から練習への参加も時間が限られ、なかなか芽が出なかった。
     ──一体、何がよかったんだろう。
     気になった私は、打ち上げ後に誘った公園のベンチでさりげなく問うた。すると思わぬ答えが返ってきた。
    「夏目さんが初日に配ってくれた『必勝法』と『必敗法』と個人的な分析レポートのおかげだわ」
     成瀬先輩曰く、本音をぶつけた私の赤裸々な情熱に打たれるものがあったらしい。暗記するほど読み込んだという。
     さらに決め手となったのが、先日のVR模擬戦だ。凄まじい衝撃を受け、ふっと何かを掴んだとのことだった。
    「私、夏目さんと違って不器用だから……」
     照れ気味に語る成瀬先輩に、私は畳み掛ける。
    「先輩、これからです。ともに頂点を極めましょう!」
    「ふふっ……そうしたいのは山々だけど……」
     そこで成瀬先輩は口を濁す。どういうことなのか聞き耳を立てる私に、成瀬先輩はありのままの事情を語った。
     なんでも例のアレックスが起こした日本売りの煽りを受け、いよいよ事業がままならなくなった、と。
    「ちょっと待ってください。じゃぁ、成瀬先輩は……」
    「えぇ、今日を機に部活を辞めようと思う。最後にいい思い出をありがとう。夏目さん、本当に感謝してるわ」
     涙を浮かべる成瀬先輩に私は、愕然としている。気づいたら彼女の手を取りこう言った。
    「それいくらなんでも残酷過ぎます。なんとかならないんですか!?」
    「本当なら専門家の方に相談したいんですけど、うちにはそんな伝手も余裕も残ってなくて……」
    「私がなんとかします。実は祖父が税理士をやってて……っていうか、明日、空いてます? とにかく思いとどまってもらえませんか」
     必死に引き止め工作をする私だが、後から思えばこれがマズかった。明日と言わずに今すぐ誘えばよかったのだ。
     その後、成瀬先輩と別れた私は、玄蔵爺さんに連絡をとり時間をとってもらった。そして、翌日、雨の中、一緒に成瀬先輩の自宅に行った私だが、インターホンを鳴らしても返事がない。
     工場にも赴いたものの、もぬけの殻と化している。
    「どうやら夜逃げした様だな」
     玄蔵爺さんの言葉に私は、全身の力が抜けたようにヘナヘナと座り込んでしまった。
     ──こんなのあんまりだ。折角……折角何とか軌道に乗り始めたのに……。
     あまり悔しさに私は人目も憚らずに泣いた。やがて、怒りの矛先は今回の原因を作ったアレックスへと向いていく。
     ──人を……会社を……国を弄んで、暴利を貪っていく。許せない……。
     悔し涙に肩を震わせる私に玄蔵爺さんが、言った。
    「葵ちゃん、これが現実なんだ。何とかするには力をつけるしかない。勉強していくしかないんだよ」

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