返信先: 【新企画】桜志会×スポ根学園モノな挿絵小説
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第十一話
中国・上海に降り立った私達は、ホテルへと赴く。皆が束の間の休息につく中、私は単身で試合会場へと向かった。目的は偵察だ。
対戦することとなる〈上海ドラゴンズ〉の練習風景を探るべく、サブピッチで手頃な場所を探す私だが、突如、背中に何かがぶつかった。
見ると同年代と思しき少女が四つん這いで何かを探している。
「メガネメガネ……」
その言葉から察するに日本人のようだ。極度に近視らしくベタな動作で地面を探る茶髪の少女に、私は地面に転がっているメガネを手渡した。
「これじゃないですか?」
「あースミマセン……って、あなた日本語がお分かりなの?」
その少女はビン底メガネをかけるや、私を凝視する。なんでも中国にいる知り合いを求めやって来たものの、迷子になってしまったという。
何とか親戚と連絡はついたものの、すぐに迎えは寄越せないから、このサブピッチで待っていてくれと指示されたらしい。
「じゃぁ、あなたもラクロスを?」
「いえいえ、私はさっぱり。ここへも親戚の勧めで、ここに迷い込んでしまっただけで……」
──だよね。マイナー競技だもん。
私は自笑しつつ、その少女と一緒にサブピッチのベンチに腰掛ける。前を見ると対戦相手の上海ドラゴンズが練習に入っていた。だが、冬月とケインから報告のあった凄腕一年生が見当たらない。
「あ、もしかして王成麗さんを探してます?」
「え、ご存知なんですか?」
驚く私にその少女は嬉々とした表情で言った。なんでもかなりの有名人らしい。ただ今日は風邪をこじらせ、来ていないという。
私は残念に感じつつ、その少女から王成麗の情報を引き出しにかかるものの、あまり詳しくはないらしい。
ただラクロスそのものについての基礎知識はあるらしく、目の前で練習を繰り広げる上海ドラゴンズについて、色々話し出した。
「ところでアナタは、ラクロスを?」
少女からの問いに私は、完全に否定するのもおかしいと思い「少しだけ」と返答する。
すると少女は「ですよねぇ」と応じ、さらに問いを重ねる。
「なんかドロー……とかいうルールがあるんでしょ。難しいみたいですよ?」
「あー……まぁね。でも手首さえうまく使えば」
「手首? そうなんですか?!」
食いつく少女に私は、それとなしに仕草を見せる。その一挙手一投足に、少女はずり落ちるビン底メガネを人差し指でクイっと持ち上げ注視する。
その後も盛んにラクロス談義に花を咲かせていく。そこには、目の前で練習に励む上海ドラゴンズの情報も含まれていた。
──ラッキー、思わぬ情報源だわ。
私はここぞとばかりに質問を重ねていく。対する少女も同様だ。いつしか意気投合した私達だが、そこへ少女の携帯に連絡が入る。
どうやら話していた親戚とやらが到着したらしい。
「では、私はこれで」
少女は礼節の行き届いた仕草で腰を折り頭を下げるや、サブピッチを去っていった。
その背中を見送った私は、マル秘ノートに仕入れた情報を書き込むや、上海ドラゴンズの練習風景を眺め続けた。
その後、偵察を終え皆が宿泊するホテルへ向かう私だが、道中で見覚えのある人影に思わず声を上げた。
「あれは、谷先輩!?」
私は物陰に隠れる。どうやら気付かれてはいないらしい。私は谷先輩と距離を置きつつ、そのあとを追跡する。どうやらカフェに入ったらしい。
外からガラス越しに谷先輩を監視していると、誰かがやって来た。
「あっ、アレは!?」
私は思わず声を上げた。あろうことかその人物は、先程まで会話していたビン底メガネの少女である。
さらに驚いたのは、その少女がメガネを外し素顔を晒したときだ。忘れもしない。弱小チームを強豪校へと変貌させたという驚異の一年生〈王成麗〉の顔である。
──まんまとしてやられたわ。
私はおもわず空を仰ぐ。谷先輩が王成麗にノートを手渡す様子をカメラにおさめるや否や、ホテルへと急行した。
緊急招集したのは、アタックの恵とディフェンスの鈴谷先輩だ。
「じゃぁ何、偵察しにいったつもりが、逆に情報を取られてしまったってこと?!」
「ゴメン……」
なじる恵に私は深々と頭を下げる。その上で谷先輩がノートを手渡していた現場写真をスマホに表示させた。
「万事休す、ね」
鈴谷先輩が腕を組み、表情を顰めている。私は頭を抱えつつ言った。
「とにかく手持ちの情報は、全て筒抜け。それを前提に策を立て直すしかないわ」
「けど、その時間もないんでしょう」
鈴谷先輩の指摘に私は、返す言葉がない。重い空気が垂れ込める中、恵が一計を案じる。
その内容を勘案した私は、うなずく。
「そうね。ことここに至れば、それもやむなし、か。コツは出だしね。開始早々、王成麗を動揺させ主導権を奪いスタートダッシュを成功させる。あとはひたすら逃げ切りをはかるのみ、か」
「恵の策、悪くないと思う。ナっちゃん。それで行きましょう」
まとめる鈴谷先輩に賛同した私は、ともに健闘を誓い合った。
翌日、試合会場に入った私達は準備運動を終え、上海ドラゴンズと整列し対峙する。挨拶の後、ピッチに入り皆を配置につかせた私は、上海ドラゴンズの一年生エースと対面し、ドロー(フェイスオフ)へと入った。
ここで私が”口撃”を仕掛ける。
「あら、今日はメガネなし?」
「なんだ。バレてたの? いいよ、それも想定内だから」
王成麗は吊り上がった目をニンマリと細める。張り詰めた空気の中、ホイッスルとともに激闘の一戦へと突入した。
ドローを制したのは私だ。例の如く速攻を目論む私だが、ここで王成麗の本質を知ることとなる。あろうことか反則まがいの足払いをかけ、卑劣にボールを強奪するやアタッカーへパス、あっという間にゴールへと繋げてしまった。
先制点を奪われるまでの時間たるや、約十秒──凄まじい速攻である。歓喜に沸く相手チームに私達は面食らった感は否めない。
──確かにスピードに定評がある旨の報告を受けてはいたけど……ここまで卑劣だとはね。上等よ!
目が覚めた私は、すぐさま皆に伝令を下す。集団競技の厄介なところは、キャプテンの動揺が、即座にチームメイトに伝播する点だ。
たとえ足がつかない状況であっても動じない演技を振る舞うこと──これを信条とする私に皆も我へと帰っていく。
すぐさま反撃の一点を奪い返し、再度のドローへと持ち込んだ。ここで王成麗がボールを取るものの、私は審判の死角から綺麗に足払いをかけ返してやった。
よろめく王成麗からボールを奪取しアタッカーへのパス、ゴールと怒涛の反撃に転じる。開始直後に受けた仕打ちをそっくりそのまま返した格好だ。
見ると王成麗の目がニンマリ笑っている。私は、心の中でつぶやいた。
──どうやら似たもの同士の様ね。
多少の卑怯技もテクニックのうちと捉えているようである。その後も壮絶な潰し合いを演じていく私達だが、激しいボディーアタックは言わずもがな、反則スレスレの攻撃をぶつけ合い、両者との譲り合う事のない互角の状態が続いた。

