返信先: 【新企画】桜志会×スポ根学園モノな挿絵小説
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第十三話
帰国するや否や、私は新たな部員集めに奔走している。今回の上海ドラゴンズ戦で痛感したのは、これまでにない斬新な発想や特異な能力の必要性だ。
──多少、荒削りでもいい。どこかに見たことがないような才能は埋もれていないか。
それこそ目を皿のようにして探し続ける私だが、ここで耳寄りな情報を入手する。何でもうちの学年に留学生が来るらしい。
「カナダの元陸上部!?」
情報の提供主であるケインに、私は声をあげる。何でもかなりの実力者だったらしい。目を光らせる私だが、そこに冬月が水を差す。
「ナツ、気をつけろよ。うちの陸上部が勧誘を見送った程だ。どうも本国で色々、あったらしいぜ」
「何よそれ?」
「早い話が年功序列のはみ出し者だ。上級生を殴った挙句、止めに入った教師のキンタマを蹴り上げたらしい。素行が悪さは一級品。とにかく束縛されることが嫌いなんだと」
「へー……いいじゃんいいじゃん」
興味がわけば、とことん首を突っ込むのが私流だ。何よりカナダという点に惹かれた。ラクロス発祥の地なのだ。
起源は十七世紀に遡る。北米ネイティブアメリカンが戦闘用の訓練に用いていた格闘技をカナダに入植してきたフランス系移民が発見しルールが制定されスポーツ化した。
カナダでは国技として愛され続ける競技だ。
「ラクロス発祥の地からの元スプリンター留学生、これは何としても取りにいかねば」
ケインから送られた留学生の画像を眺めながら、私は腹を固めた。
放課後、ラクロスの練習を終えた私はバイト先の税理士事務所へと向かう。そこで思わぬ出会いが待っていた。応接室に噂の留学生が訪れているのだ。
ただその雰囲気は和やかではない。桜志会と思しき先生方を数人引き連れ、物々しさを醸し出している。玄蔵爺さんが手招きした。
「葵ちゃん、ちょっと入ってくれ」
促されるまま席に着くだが、そこで思わぬ話を聞かされた。何でも各国政府が本格的にミネルヴァノートの私物化に動き始めているらしい。
もっともそこはインターネットだ。すでに関係者の間で大いに広まり、知る人ぞ知る存在となっている。そこで私と留学生の出番だという。
「ミア・ディオン。ヨロシク」
無表情を動かすことなくミアが握手を求める。私は場の空気に流されるまま、その手を取ったのだが、ミアはいきなり物凄い握力で私の手を潰しに来た。
──痛っ……。
思わず表情を歪めた私だが、仕返しとばかりにミアの手を強く握り返す。互いの意地がぶつかり合う中、ミアは放り出すように私の手を払った。
面白くなさげにドカっとソファに腰を下ろすミアと、警戒一色に染まる私。その様子を桜志会の先生方がハラハラしながら見守る中、玄蔵爺さんが切り出した。
「君達二人には、アレックスの監視を頼みたい」
「え、でもアイツの居場所って、アメリカでしょ」
「それがそうでもないんだ。パーマネントトラベラー、通称PTと言ってね。巧みに国籍や所在を変え課税を……というか国の関与から逃れ続けている。対策を打とうにも新手の抜け道を見つけては、居直る有様だ」
「お話は分かるのですが、それはアイツの生き方なんでしょ」
「それがそうとも言い切れない」
割って入るのは、桜志会会長の広田和也先生だ。どうやらマネーロンダリングの疑いが浮上しているらしい。課税当局のみならず、各国の捜査機関も目を光らせているという。
「なるほど。で、私は具体的に何をすれば?」
「何もしなくていい」
広田先生の言葉に私は首を傾げる。すかさず玄蔵爺さんが補足した。
「葵ちゃん、何もしなくてもアレックスとその背後にうごめく連中が仕掛けてくる。つまり、君はミアのボディーガートという訳だ」
「なるほど。分かりましたが一つ、条件があります」
「ほぉ、承ろう」
皆の視線が集中する中、私は切り出した。
「ミアをうちのラクロス部に入らせること。ボディーガードなら、その方が都合がいいでしょう」
「ちょっと待ちなよ。アンタ、本気でそれ言ってんのかい。あたいの事もよく知らずに……」
★
声を荒げるミアに私は、ケインから譲り受けたレポートの内容を誦じた。
「親は脱税で拘束され、ご自身はハッキングで逮捕。司法取引を経て今の立場に至る。好きな食べ物はケンタッキーで、スヌーピーをこよなく愛しミッキーマウスを憎む。何より嫌うのは自由を束縛される事……」
「それと詮索されること、ね」
ミアはジロリと私を睨みながら返答する。一触即発となる中、玄蔵爺さんが間を取り持った。
「いいだろう。葵ちゃん、条件を飲もうじゃないか。いいだろうミア?」
有無をいわせぬ玄蔵爺さんに、ミアがそっぽを向きながらうなずいて見せる。かくして私は念願のラクロスで新戦力を手に入れた。
それは、同時に波乱要因をも巻き込んでいくこととなる。
翌日、うちのクラスの一員として迎えられた留学生ミアだが、まぁ派手だ。目立つ目立つ。
まず、異様に上手い日本語。漢字こそ使いこなせないものの、日常生活に不可欠な会話は実に流暢だ。どうやら両親のどちらかが、日系の血を引いているらしい。
次に素行の悪さ。てんで言うことを聞かず、傍若無人に振る舞っている。あの冬月までこう言った。
「おいナツ。あのミア、何とかならないのか?」
──アンタが言うな。
心の中でつぶやく私だが、確かにミアはクラスの輪を乱している。挙げ句の果ては喧嘩だ。クラスメイトが気に入らないとかで古武術らしき技を決め、保健室送りにしてしまった(ちなみにこれ、全部初日の出来事ね)。
一応、保護者らしき立場に私がいるんだけど、もうついていけない。
──損な役回りを引き受けてしまった。
浅はかだった己を呪う私だが放課後、このマイナス評価を帳消しにする姿を目撃する。
ちょっと試しに走らせて見せたんだけど、愕然としたわ。
「速っ……」
ラクロス部のダッシュでいならぶ先輩をごぼう抜き。しかもラクロスの方もやたら上手い。ろくに経験もないのに、たちまちエース的ポジションを勝ち取ってしまった。
──凄い身体能力……。
私は声が出ない。もっとも根っからの一匹狼だけあってきっちり組織の輪を乱すことも忘れない。あろうことか谷先輩に「アンタ、スパイなんでしょ。もうこの部を辞めなよ」と、余計な一言をかます始末。
「ミア。何、いらんこと言ってんのよ!」
抗議する私だが「その甘さがあるから中国チームに引き分け止まりなのよ」と、逆に説教をかましてきた。
とにかく厄介。めんどくさくて仕方がないのだが、それがなぜか物凄く嬉しい。
──次はどんな姿を見せてくれるのだろう。
飽きっぽい私が、次々とポテンシャルを開花させていくミアにすっかり首っ丈だ。
「凄い奴、入れたね」
同輩の恵の感想に「同感」と苦笑した。
「もう大変ですよぉ」
私が愚痴をこぼす相手は、ネオサイバー社の鬼塚社長だ。玄蔵爺さんから記帳業務を託され会社にお邪魔しているのだが、そんな私を鬼塚社長が笑う。
「その割には、随分と楽しそうじゃないか」
「まぁ、それは……ちなみに鬼塚社長は組織を強くしたいとき、社員の見極めをどうされてます?」
「ゼークトの組織論を使ってる」
「え、それはあの……どなたで?」
「ドイツ軍で上級大将を務めた軍人さ。組織内の人材を四つのタイプに分類し、どのような役割を与えると能力に応じた活躍ができるかを示した理論だ」
鬼塚社長の解説によれば、人材は「利口・愚鈍」と「勤勉・怠慢」の切り口でかけ合わせ、以下に分類できるという。
・有能な怠け者(利口・怠慢)
・有能な働き者(利口・勤勉)
・無能な怠け者(愚鈍・怠慢)
・無能な働き者(愚鈍・勤勉)
ミアはまさに有能な怠け者だ。軍隊においては「指揮官」の役割を担うとよいとされるらしい。マネジメントに秀でているタイプ。
怠け者な分、自分が動かず人任せで、利口な分、組織全体を俯瞰し適材適所に人を配置できる。
「じゃぁ、有能な働き者だったら?」
「ナツ、君みたいなタイプだ。働き者な分、人任せにせず、自分でやってしまうだろう。だから指揮官は向かない。参謀タイプだな」
「なるほど……」
私は妙に納得を覚えている。事実、キャプテンを務めているとはいえ、皆に各々の課題等を示した分析レポートを配布するなど、手法は参謀に近い。
ここで私は気になる核心の人物評を問う。
「じゃぁ、アレックスはどうなんでしょう?」
「うーん……さぁ、どうしたものか」
私の問いに鬼塚社長はしばし考え、意外な評価を下した。
「案外、無能な働き者かもな」
「え……有能じゃないんですか?!」
「俺の基準からすれば無能だ」
鬼塚社長の評価に私は考える。確かにアレックスは、幼さゆえに判断が独善的だ。これを無能と評価すれば、アレックスが動くことで間違った判断により損害が出たり、周囲が後始末に追われたりといった混乱を招くとなる。
しかも、本人は「よかれと思って動いている」だけに深刻だ。私は問うた。
「鬼塚社長は、アレックスみたいな無能な働き者が社内にいたら、どうされてます?」
「決まってるだろう」
鬼塚社長は何でもないことの様に、手で首の根っこをトンと叩き「クビ」の仕草を示す。その上で、こう付け加えた。
「アイツは、間違いなく組織に害をもたらす癌さ」

