返信先: 【新企画】桜志会×スポ根学園モノな挿絵小説
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第十四話
鬼塚社長をして癌と言わしめたアレックスだが、それを垣間見せる出来事が起きた。
その日はホームゲームで、天気はあいにくの雨。白のホームユニフォームも泥塗れで、ミアも身体能力を持て余している。その辺は、経験不足が露呈した形ね。
だが、それは来たるべき事件の予兆でしかなかった。ミッドフィルダーとして360度を視野に入れる私は、隣接するビルの屋上からとんでもないものを発見する。
──え、まさかアレって……。
まさに私の危機センサーが如実に働いた瞬間だ。
「ミアっ!」
叫ぶ私は気付けば、ミアを庇うべく前面に出ていた。その直後、銃声らしき音が轟く。宙を切り裂く飛来音とともに、何かがかすめた。
私の額から鮮血がほとばしり、気がつくと地面に倒れ込んでいる。
「ナツ!」
周囲が叫ぶ中、私は遠のく意識の微睡に飲み込まれていった。
………
……
…
どれほど時間が経っただろう。はたと気がつくと、見たことのない部屋にいる。どうやら病院の様だ。そこへ傍らにいる人影が声をかける。
「葵!」
それは、士郎兄だった。
「あれ……私。一体、どうして……」
困惑の中、上体を起こそうとしたものの、凄まじい頭痛に阻まれ病床へと伏せる。疲労困憊な私に、士郎兄が事情を説明し始めた。
どうやら私は、ミアの身代わりになって狙撃されたらしい。危篤状態が何時間も続き、一時は命も危ぶまれたものの、何とか一命は取り止めた。
ちなみに皆は、警察から事情聴取を受けている最中との事だ。そもそもそんな過激な世界とは無縁だっただけに、私は出すべき言葉を失っている。
──一体、なぜ? 何者が!?
疑問に対する回答は、限られてくる。間違いなくアレックス絡みだ。本人がそれを命じたのか、あるいはその関連で狙ったのかは定かではないものの、私は明らかにヤバい世界へ踏み出してしまったらしい。
「ナツ、心配だろうが、とにかく今は休んでろ。親父と母さんもこっちに向かっている」
士郎兄が私を安心させようとする中、不意に扉が開き、ミアが冬月とケインを引き連れ病室へと駆け込んできた。
「ナツ!」
飛びつくミアは、私の無事を確認するや、ヘナヘナと糸の切れた操り人形の如く、その場に座り込んでしまった。
どうやらこのジャジャ馬でなる跳ね返り娘にも、可愛らしいところはあるらしい。安堵の余り涙を浮かべている(本人は涙だと認めていないが)。
一方、大いにはしゃぐのは冬月とケインだ。私の無事を喜びつつも、やれ報復だの仕返しだと叫び散らしている(どこまで本気だか知らないが)。
何はともあれ、私は一命を取り止めた。その一点において、天に感謝した。
その後も皆のお見舞いは続く。ラクロス部のメンバーやクラスメイト、さらには玄蔵爺さんや桜志会の先生方など、多方面からの気遣いを受けた私だが、それが一区切りついたところで、徐ろにスマホを取り出す。
今回の事件に関連するであろう人物と連絡を取るべく、メールを送った。
〈アレックス、アンタの仕業ね〉
返答はすぐに来た。
〈ナツ、君が無事で何よりだ。もう気が気でなかった。君の返事が見れて安堵したよ……ただ、あの女は頂けないね〉
〈ミアね。だからって暗殺まで図るなんて、どういうことよ!〉
〈そういうことさ。君が救ったあの女の狙いは僕だ。なら取り除かねば。当然だろう〉
なんら悪びれることのないアレックスに、私は目の前がクラクラする思いだ。私は言った。命まで狙うなんて常人のすることではない、と。
だが、アレックは全く意に介さないどころか、さらに冷酷な一面を見せた。
〈ナツ、警告する。もしあの女……ミアを救おうものなら、次の標的は君になる。その時は今回のような幸運はない。待っているのは、死だ〉
〈アレックス。アンタ一体、何を焦ってるのよ!?〉
しばし沈黙の後、アレックスが返答を寄越した。
〈ナツ。知っての通り、僕は先が長くない。だから遠慮はしない。可能な限りこの世の全てを変えていく。たとえそれが死を招こうともね〉
〈そんなの間違っている。アレックス、アンタの野望は何も産まない。待っているのは、ただの破滅よ!〉
〈上等だね。破滅、滅亡、大いに結構。その先にこそ真の未来がある。日本にとってもだ〉
まるで歯車の噛み合わない私達は、非難の応酬に明け暮れ平行線をたどった挙句、物別れに終わる。
〈ナツ、君ならわかってもらえると思ったが、残念だ。ただチャンスをあげよう。一週間、これが僕が君に与えられる最大限の猶予だ。もし、考えが変わったら連絡をくれ。そうでないなら、容赦はしない〉
そこでアレックスのメッセージは、プツリと途絶えた。
翌日、見舞いに来た士郎兄、冬月とケイン、ミアを前に私は考え込んでいる。というのも私の無事を知った両親が急遽として見舞いを中止し、仕事に戻るとともに私に一本のメールを寄越したのだ。
張り付けられたURLを開くと、そこには謎の算式が記されている。訳が分からない私にミアが素直な感想を述べる。
「算式はともかく、娘の入院に駆けつけないアンタの両親って、どういうことよ」
「全くだ」「ヒドいデス」
冬月とケインも続く中、私と士郎兄は「そういう親なのよ」と苦笑する。
実はこの辺、うちは変わっている。あれは私が小学校を、士郎兄が中学校を卒業するときだ。両親が卒業祝いと称し、プレゼントに現金三百万円を用意してくれたのだ。
〈この原資を運用して大学までの資金を自分達で捻出しろ〉
半ば養育の放棄とも取れる方針で、これをよく言えば自覚を促す放任主義となり、ありていに言えば「勝手に育て」となる。事実、士郎兄は見事に運用を覚え、株式市場とコモディティ取引で私の分まで養育費を稼いでいる。
さらに秀逸なのが、教育方針だ。いわゆるストップウォッチ勉強法と言われるもので、常にどれだけ勉強したかが分かるよう、細切れの時間まで計らせるのだ。今、思えばこれが私の要領の良さにつながっている気がしている。
何はともあれ今は、算式だ。士郎兄が記憶を頼りにあたりをつけた。
「これ、相続税評価額で使う路線価の加重平均を元にしてるな」
「何それ?」
首を傾げる私に士郎兄は「異なる正面路線価を間口距離で按分する算式さ」と、これまた難解に説明する。
よくは分からないが、どうやらこれを元にうまくバランスを取ってアレックスと戦え、ということのようだ。
さらに算式は、二つの法則を導いている。第一法則を戦闘力に武器効率と兵力数を、第二法則にこの兵力数を二乗したものを置くというものだ。
「それ多分、ランチェスターです」
ケインが思い当たる節を述べた。要約すると、戦争における戦闘員の減少度合いを数理モデルにもとづいて記述した法則らしい。
──つまり、弱者は第一法則を取れってことか……相変わらずまどろっこしい親ね。
私は苦笑を禁じ得ない。その上でいかにアレックスと対処していくかについて議論を重ねていった。

