返信先: 【新企画】桜志会×スポ根学園モノな挿絵小説
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第十五話
皆が帰った後、私はタブレットでアレックスのミネルヴァノートを見直している。
──いかにしてこの天才と対処していくか。
散々考慮を重ねた私が辿り着いた答えは、対決だ。それもアレックスが得意とする分野での勝利である。
──私にはよく分からないけど、ミネルヴァノートは有益な数理モデルなのだろう。示さんとしている理論も何とかなくでしかないが、分かる気もする。ただ……。
私は深く考え込む。あくまで感触でしかないのだが、どこか欠落した何かが感じられてならない。その違和感を探るべく、私は士郎兄やケインが寄越したミネルヴァノートに絡むレポートを読み重ねていく。
そこで一つの仮説に辿り着いた。課税理論だの金融工学だの色々振り回され、正直理解を試みること自体がおごがましいのは承知している。それでも提唱者のアレックスを知るがゆえに辿り着いた仮説だ。
──アレックスには、敗北した人間の気持ちが理解出来ていない。なぜならあまりに勝ち続けているから。負けを知らなさ過ぎるから。
その瞬間、私の脳裏に天啓が舞い降りた。それこそ素人ならではの発想だ。何も知らないからこそ得た気づきでもある。
──要するにラクロスだ。格闘競技と名高いだけに礼儀と相手の尊重を重視する。その姿勢がアレックスには、欠落している。要するに子供なのだ。
さらに偶然が重なり合う。たまたま見ていた冬月のレポートに、この欠落点を利用する気付きとなる算式が目に入った。それもなぜそのような算式になるのかは、分からないのだが、理屈ではない直感が働いた。
──多分これ、こう言うことじゃない?
すかさずその算式に思うがままの改良を加え、ネオサイバー社の鬼塚社長に送った。返事はしばらく後だろうと踏んでいたのだが、すぐに返って来た。
それもスマホへの電話でだ。
「ナっちゃん。これは本当に君が作ったのか?」
「や、正確に言うと冬月のレポートから得た着想なんですけど。正直、私には金融工学とか分かんなくて……ただその算式は以前、アレックスがチラッと言っていたことを思い出して……」
「思い出して形にした、と?」
「えぇ。私、基礎が分かってないんで応用のみなんですが、要するにそう言うことでしょ?」
「そうだ。そこが凡人で終わるか超越した何かを生み出せるかの差なんだ」
鬼塚社長は興奮気味に語り出す。なんとすぐさま必要な人材を寄越すとまで言った。
「や、社長。でも病院だと面会時間が限られてて……」
「ならロボットを寄越す。今、そっちにうちのAIのアクセス権を送った。そのプログラムを自由に使ってくれ。深夜でも一向に構わない。何か判明したらすぐに教えて欲しい。四六時中、進展を待っている」
「あ、や、ちょっと待ってください。私はただ気付きを得ただけで……」
必死に説得を試みようとするものの、覚醒に入った鬼塚社長を止められない。やむなく対アレックス戦を想定した理論を、一から編み出すこととあいなった。
まさかそれが私達がはじめて築く橋頭堡となり、反撃の狼煙となろうとは思いも知らずに。
アレックスが指定した期限が来た。すでに退院済みの私はネオサイバー社で待機中だ。傍らには鬼塚社長は言わずもがな、玄蔵爺さんや桜志会の広田会長、さらには冬月とケインのコンビとミアが取り囲んでいる。
「ナツ、あたいはどうなっても構わない。タオルを投げる心づもりは出来ているから」
覚悟を示すミアに私は、かぶりを振る。
「大丈夫よミア。私達は十分準備した。結果を信じて」
とは言うものの、それは明らかな嘘だ。あくまで私が得たのは、気付きだ。それを何とか誤魔化しながら、形に整えたに過ぎない。
だが、こうも思った。
──ここは勝負所だ。山張り名人として勝負させていただこう。
そこへ頃合いをはかったように、スマホに着信が入る。アレックスだ。通話に出た私にアレックスは切り出した。
「ナツ、返事を聞きたい。あの女を差し出し、僕に降ること。もし従うなら、君にこの世の全てを……」
「アホ。そんな条件、飲めるわけないでしょ。このマセガキが!」
私の罵倒を受けアレックスは、流石に面食らっている。さらに私は畳み掛ける。
「前から思ってたけど、アンタ、世間を舐めすぎ。日本のクビをとって国王を気取ってるみたいだけど、ちょっとは社会を知りなさいよね」
私の思わぬ挑発を出会い頭で受けたアレックスは、如実に反応した。プツリと通話を切るや、実力行使へと移って来たのだ。すなわち日本市場への強制介入である。
「あの……これでいいんですよ、ね?」
念押し気味に確認する私に、桜志会の広田会長がうなずく。と言うのも金融当局から、アレックスを怒らせてくれと言われていたのだ。
どうやら彼らにも、前回の敗北にリベンジするための策があるらしい。それにうまく乗った形だが、うまくいったようだ。
「オーケー。早速、来たぜ」
パソコンの画面を眺める冬月が反応する。案の定、アレックスによる市場への介入が始まった。ここで私が継ぎ接ぎだらけながらも、何とか形にした算式が働く。
ほぼ直感だけで組んだだけに、理屈は分からないのだが、金融当局の偉い人達がその至らぬ点に修正を加え、プログラムにしてくれた。
どうやらハイ・フリークエンシー・トレーディングと呼ばれる、コンピューターを駆使した超高速の金融取引を利用したものらしい。
過去の価格の動きを統計的に分析し、一秒間に数千回もの高頻度で売買の注文を繰り返す取引を指す。
相場全体の値動きを抑制する効果があるらしいのだが、稀にプログラムの不具合で株価が急落したり、短時間で値動きが増幅したりすることがある。
その値動きを隠れ蓑にあたかも弱気を装うのが、今回の作戦の肝のようだ。
──さぁ、どうだ!?
皆が注目する中、アレックスは気をよくしたのか、大胆にも介入額を一気に増やした。
「かかった!」
皆が声をそろえる。反応をうかがう限りうまくアレックスを騙せたらしい。私達が前のめりになる中、アレックスはこれ以上は出来ないほど掛け金を増やしていく。
だが、金融当局はこれを着実に買い支えていく。事ここに至り、さしものアレックスも異変に気付いたようだ。無理もない。弱気に見えているのは(理屈は分からないが)、私の算式をもとにした対アレックス戦に特化したプログラムのおかげなのだ。
──アレックス、あんたはまだ気付いていない。どれだけの日本人があんたから受けた攻撃から学んだかをね。
カラクリに気付いたアレックスは、慌てて市場を手しまいにかかるも、時すでに遅し。金融局による包囲網が固まっている。
すると信じられない結果が出た。あれほど常勝を誇っていたアレックスが、最も脆く崩れ始めたのだ。まさに自滅、砂上の楼閣である。
早速、金融当局から連絡が入る。
「十分だ。あとは我々にこの国を任せてくれ」
その返事を受け皆は、一斉に立ち上がり、割れんがばかりの拍手を起こした。
「よくやった。見事、アレックスに土を付けてくれた。大したもんだよ」
玄蔵爺さんに肩を軽くごつかれ、私は照れ笑いを浮かべる。さらにミアが手を差し出す。
「ナツ、助かったよ。礼を言う」
私はすかさず握手で応じ、互いの健闘を称え合った。

