返信先: 【新企画】桜志会×スポ根学園モノな挿絵小説
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第十六話
アレックスに土をつけた私は今、ミネルヴァノートを再読している。これまでこの理論をラクロスに転用させてきた私だが、今ひとつ内容が分かっていない。
ただその真髄らしきものは、感覚で理解している。
「早い話がいかに心理戦を制すか、その最短距離をはかる理論ね」
つまり、視覚化が難しかった攻め手と守り手がもつ心理の揺らぎを、数値に置き換えるツールである。数値化ができれば視覚化も可能だし、他の分野への移植も可能だ。
これを資本主義経済で用いるなら相手は市場となるし、格闘競技たるラクロスなら敵チームとなる。
──ステージが変わるだけ、基本原理は同じ。確かにそうなんだろうけど……。
私は一つの懸念を覚えている。スパイの存在だ。自分で言うのも何だが、勝負師を自認するだけに、この手の勘は妙に鋭い。
──あるとすれば、谷先輩だけど……。
何かと疑念の尽きない私だが、事態は意外な方向へ転がる。それは、部活を終え帰路についていたときだ。目の前に思わぬ人影が現れた。
「アレックス!?」
ただ様子がおかしい。いつもの自信に溢れた表情はなりを潜め、顔色も真っ青だ。見ると怪我をしている。
「アンタ、どうしたのよ。何があったの!?」
「ふっ、ちょっとね……」
アレックスは、よろめきながらもこちらに歩み寄るや、その場によろよろと崩れ落ちてしまった。慌てて駆け寄った私は、アレックスに応急処置を試みる。
とにかく出血が止まらない。虫の息のアレックスを前に救急車を呼ぼうとした私だが、そこへ黒いワンボックスカーが滑り込んできた。ワラワラと得体の知れない男達が現れ、私達を取り囲む。
「ヘイキッズ、カモーン」「你好!」
英語と中国語が入り乱れる中、男達は何とピストルを取り出し、銃口をこちらに向けた。
──一体、何事よ!?
困惑を隠せない私だが、ふとアレックスを見ると、虫の息で何かを呟いている。どうやら助けてくれと言ってるらしい。
こんなときに甘くなるのが、私なのよね。母性本能ってやつ。おもむろに立ち上がるや、毅然と男達に吠えた。
「あんた達、この子に何をする気よ!」
どうやら日本語は分からないものの、何を言っているのかは伝わったらしい。一人の男が何の前触れもなく私に発砲した。
突き刺さる激痛とともに私は、フラフラとその場に崩れ落ちる。どうやら麻酔銃のようだ。体の自由が効かず困惑を隠せない。
さらに男達はアレックスだけでなく、私の身柄まで押さえつけ、ワンボックスカーの中へ放り込んだ。
──ヤバい。何とかしないと……。
焦る私だが、身動きが取れない。どこを走っているかも分からない。動揺を抑えきれない中、事態はさらに思わぬ方向へと転がる。
私達を拉致したワンボックスカーが、凄まじい衝撃を受け車体を横滑りさせたのだ。どうやら他の車に車の横腹をぶつけられたらしい。
たちまち車体が転がり、炎と共に私達は開いたドアから乱暴に放り出される。
──痛っ……。
アスファルトに叩きつけられ激痛に喘ぐ私だが、見ると私達を拉致した男達が、別の車から現れた男達に取り押さえられている。
察するに私達は別の何者かに助けられようとしているようだ。やがて、新たに現れた車から、一人の少女が現れる。
おもむろに私の前に歩み寄り、手を差し伸べる少女の顔を見た私は、思わず声を上げた。
「あなたはっ!?」
「久しぶりね。夏目さん」
微笑みかけるその顔を私は、忘れもしない。かつてラクロス部に所属し、一家ともども夜逃げしたあの成瀬先輩である。
「成瀬先輩、なぜあなたがここに?!」
「色々と事情がね。話はあと。とにかく今はここからズラかりましょう」
成瀬先輩は私に笑いかけるや、男達に命じて私とアレックスを車内へと運び入れ、その場から去って行った。
さて、その事情であるが、アレックスの一件で痛い目にあった政府が、同様の攻撃に対処すべく政府直属の秘密機関〈竹葉会〉なる組織を立ち上げていたらしい。
特にアレックスに絡む最重要人物が私らしく、ラクロス部で親交のあった成瀬先輩に声がかかったという。
「まぁ、うちも厳しいからさ。家計の足しにでもなればって。それに夏目さんには、恩もあるし」
「や、私は大したことは……」
「色々、教えてくれたじゃない。要領、とかね」
成瀬先輩は片目をつぶって、スマホの画面を見せる。そこには以前、私がラクロス部で配った『必勝法』と『必敗法』、それに成瀬先輩に特化したレポートが取り込まれている。
「これ、今でも見るの。ラクロスと関係ないところでも、本当に役に立ってる」
「それは、その……ありがとうございます」
私は恐縮しつつ、問うた。
「今回の襲撃なんですが、一体、なぜアレックスが?」
「夏目さんに市場で負けたからよ。どうやらかなりの損を出してしまったらしいわね」
「だからって命まで狙われるなんて……っていうか、あの襲撃班の正体って。一体、誰がアレックスの暗殺を……」
「二代目アレックスよ」
これには私も言葉を失った。一体、どう言うことなのか首を傾げる私に、夏目先輩が説明する。どうやら前回、敗北を喫したアレックスは、お役御免とばかりに退場を余儀なくされたらしい。
取って代わったのが、二代目のクローンたるアレックス02〈通称ゼロツー〉とのことだった。
──確かにクローンだとは、聞いていたけど……。
私は後部席の隣で眠りにつくアレックスを、複雑な視線で眺める。
──無理な科学技術で作られ寿命の限られた使い捨て可能なクローン。そりゃ生き急ぎもするよね。
私ははじめてアレックスに同情を示した。
その後、自宅まで送り届けられた私だが、車外へ出ようとした私の手をアレックスが引っ張る。振り返ると、一本の情報記録端末を手渡してきた。
察するに重要な何からしい。私はアレックスの手をぎゅっと握り締め、その情報記録端末を受け取った。
アレックスと別れ車外へ出た私に成瀬先輩が耳打ちする。
「車内でも言ったけど、今、あなた達のグループには、スパイがいる。くれぐれも気をつけて」
「分かりました。成瀬先輩も頑張ってくださいね」
成瀬先輩は笑みを浮かべつつ、車に乗り直し夜の闇へと消えた。
──スパイ、か……確かにある程度、目星はついているけど、果たして……。
私は大きく伸びをするや「疲れた」とつぶやき、家の中へと入って行った。
翌日、ネオサイバー社に赴いた私とミアは、鬼塚社長にアレックスの情報記録端末を手渡す。
「ほぉ、アレックスがねぇ」
鬼塚社長は興味深げに眺めつつ、PC端末にデータを取り込み始めた。拡張子を探るとVRデータのようだが、問題はその中身だ。
「ナツ、ミア。言っとくが、これ……かなり厳しいぞ」
「と、言いますと?」
問い返す私に鬼塚社長が続ける。
「コイツはな。一言でいえばラクロスの戦闘形態を表したプログラムだ。それも源流に遡った本来の蛮勇で野生味溢れる頃のな。二人は、ラクロスの起源って分かるか?」
「えっと、確か北米先住民族のイロコイ族が神事や鍛錬、部族間の争いの解決手段に用いていたとか」
「それを私の祖国カナダでフランス系移民がルールを設け、スポーツとして体系化し国技に至る、でしょ」
私とミアのまとめに鬼塚社長は、うなずく。その間、私の頭は猛烈に回転している。
──狩猟採取の延長線上に位置する荒々しさを残した伝統的な格闘競技……。
「社長。要するにコレ、アレックスの本質ですよね」
私の推測に鬼塚社長は、大いに納得しながら言った。
「部族の気高さや誇りが息づくネイティブアメリカの真髄であり象徴だ。多分、奴もその血を少し引き継いでいるんじゃないか。アレックスにとってこれは、アイデンティティーなんだろう」
「なるほど……でもなぜこれを私に?」
「その答えは、VRで体験した先にあるんじゃないか。どうだ二人とも。やってみるか?」
「是非」「お願いします」
社長は「オーケー、いいだろう」と受けるや、部下に準備をさせた。

