返信先: 【新企画】桜志会×スポ根学園モノな挿絵小説
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第十九話
ヘッドセットを装着した私達は早速、裏ミネルヴァノートが記す起源と、かつて存在した荒々しいラクロスの醍醐味へ迫るべくダイブした。
朦朧とする意識が晴れた先に現れたのは、かつて先住民が縦横無尽に駆け回っていた頃のアメリカだ。どうやら夜明けの暁らしく朝焼けの空が広がっている。
「うわぁ、凄いリアル……」
声を上げるのは、恵だ。互いにネイティブアメリカンの部族装束に身を包み、一帯に溶け込んでいる。
そこへ案内人が現れる。ナキアと名乗るプログラム上の女性だ。
「アメリカの原形へようこそ。言っとくけど、ここから広がる世界は、タフじゃなきゃ務まらないよ」
「望むところよ。そうでしょ、ミア、恵?」
「もちろん」「準備オッケー」
即応する二人を受け、私はナキアに言った。
「そう言う訳よ。で、私達は何をすればいい?」
「もちろん戦いよ。どの部族がこの世界を支配するか、これからラクロスで決しようって大会なのよ」
ナキアが指差す場所を見ると、このイベントに参加すべく続々とプレイヤーが集結している。驚くべきはその規模だ。各部族が合わせてゆうに十万人は超えている。恵が言った。
「ねぇ。ちょっとこの規模、ヤバくない?」
「確かに……」
私とミアが同意するものの、ナキアに言わせると、特に珍しいものではないという。どうやらラクロスは、想像以上にネイティブアメリカンの間で浸透しているようだ。
やがて、大会に先立ち神官と思しき男達が、声を張り上げ舞いを踊り始めた。場を神聖なものへと昇華させる儀式らしい。黙って見守る私だが、余程、胡散臭げな顔をしていたみたいだ。案内人のナキアがクスッと笑いながら言った。
「ナツさんにとってラクロスは、単なるスポーツでこういった儀式とは無縁なんでしょう」
「だって何の意味があるのさ」
「あるよ。部族間の調停っていうね」
「それはまぁ……ただ儀式で魂を浄化し神々と交信ってのがどうも」
「それはね。ラクロスの目的が勝敗にとどまらないからよ」
どう言う事なのか意味を図りかねる私にナキアが説明する。確かに激しくぶつかり球の争奪し合うラクロスだが、その目的は相手と先祖への理解であり、時代を超え人を繋げ争いを超えて魂を語り合う点にある。
私にはその理解が欠けている、と。
──確かに……。
ナキアに諭され私はうなずく。日頃から勝負師を標榜するだけに、理解の欠如を説く指摘には納得だ。だが、ミアと恵には面白くないらしい。間髪入れずに指摘を返した。
「でもナツがアレックスのミネルヴァノートをラクロスに転用したんでしょうが」
「そうそう。金融工学だけでなくラクロスにも広がりを見せた」
憤慨気味に訴える二人だが、ナキアは思わぬ事実を白昼に晒す。
「逆なのよ。ラクロスがミネルヴァノートを産んだの」
「え……どう言う事!?」
思わず問う私にナキアが続ける。
「ご存知の通り、私達ネイティブアメリカンは、白人入植者による侵略や戦争、虐殺で人口を激減させられた。土地を奪われ文化を破壊されてね。早い話が民族浄化よ。今では強制的に居留地に追いやられている」
「いわゆる同化政策ね」
まとめる私にナキアが同意する。この同化政策とは、支配的な文化を持つ勢力が、支配下の民族に対し、自らの言語や生活習慣、制度を強制的に受け入れさせ、同化させる政策を指す。
ネイティブアメリカンの場合、自分達の言語や文化を禁止され、白人のものに強制された。その後、アメリカ政府を公式に謝罪させるに至ったこの文化虐殺だが、事態の深刻さを鑑みた一部のネイティブアメリカンが、自らの文化であるラクロスを金融工学にすり替えたらしい。
例えば、試合におけるリスクとリターンの組み合わせ戦術は、金融工学におけるリスクヘッジやポートフォリオ最適化へと、ゲームの流れやテンポ、ボール支配率から相手守備の感情変動を突く速攻戦術は、市場の心理とテクニカル要因を複雑に絡み合わせたボラティリティブレイクアウトへと、といった具合だ。
こうしてラクロスを金融工学という隠れ蓑で欺瞞し、伝統を守った。この手法に着目し、勝負という心理戦で起こる普遍原理に、初代アレックスがまとめ上げたのがミネルヴァノートとのことだった。
「煎じ詰めて言えば、伝統を守る苦肉の策から知恵を得たってこと。ナツが嫌う古臭い伝統や風習にも、温故知新の原動力があるのよ。このプログラムでは、それを学んで欲しい」
──温故知新、か……。
私は思わず唸った。言われてみれば、それも私に欠けていた視点だ。新しきを求めるあまり古きを蔑ろにするのは、軽率とも言える。
──ここは一つ、彼らの伝統にどっぷり浸かってみよう。どうせ現状は閉塞だし、案外、活路に繋がるかも知れない。
納得を覚えた私は、ミアや恵とともにチームへと割り振られたのだが、ここで思わぬ人物との再会を果たす。
「あっ! あなたは王成麗!?」
「ナツじゃん!」
それは、中国で対戦した上海ドラゴンズのキャプテンだ。どうやら彼女も閉塞状態の打開を求め、このプログラムに参加したらしい。
しかも、この展開を作ったのは、他ならぬあの自信のなさげな欠陥個体のアレックスだという。
──何だよ。あの子、自身をB級品だなんて蔑んでいたけど、結構、暗躍してるじゃん。
色々と意を汲んだ私は、集結した皆を前に宣言した。
「いいじゃん。もうこうなったら徹底的に暴れてやりましょう」
意気投合した私達は、VR上の即席チームで強力なタッグを組み、居並ぶ男チームを相手に互角以上の戦いを見せた。
流石に優勝とまではいかなかったものの、そこそこの成績を残し、大会が終わる頃には皆して阿吽の呼吸で分かり合える絆になっていた。
やがて、強烈な西日が沈みとっぷりとした夜が来る。焚き火を囲み談話に興じる私達だが、頃合いをはかったようにナキアが切り出した。
「今、現実世界は自国さえよければ、何をしても許される風潮だよね。亡きアレックスはその流れをうまく捉え、日本を破綻寸前に追い込み実質的な王となった」
「でもさ。その一因を作ったのは、日本自身でしょ。外国人嫌いに天文学規模の放漫財政、絶望的な少子高齢化に内向きで閉鎖的な国民性、挙げればキリがないわ」
他人事だと思ってペラペラと軽口を叩くミアに同意しつつ、私は言った。
「今後、世界はどうなっていくのかな。私達に出来ることってなんだろう」
「まずは足場を固めることじゃない? その上で世界に関心を持つこと」
恵の指摘にミアが「そんなことが必要?」とまたまたツッコミを入れる。心中を察した私が代返した。
「確かに今は必要じゃないかも知れない。けど、五年、十年が経ったとき、世界に対する関心の有無が大きな視野の差を生んでいる気がするの。特にデジタルで繋がったネット社会ではね」
「地球も狭くなったものね」
「そういうことよ」
達観するミアに私はうなずく。事実、アメリカへアレックスに会うことも出来たし、中国で試合も出来た。そして今、VR上とは言え、こうして皆でつながっている。
私は言った。
「皆で歩調を合わせ、ゼロツーに対抗していこう。私達如きにどこまで出来るか分からないけど。亡きアレックスや名もなき劣化クローン達のためにもね」
皆は黙ったままうなずき合っている。それは、今はなきアメリカの原風景の中で立てた誓いだった。

