返信先: 【新企画】桜志会×スポ根学園モノな挿絵小説
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第二十一話
現実世界へ戻った私とミアは、アジトで両親から受け取った進化版裏ミネルヴァノートと向き合っている。
「どうやらゼロツーは、主権国家がいずれ徴税権と国の形を放棄せざるを得なくなると睨んでいるようね」
感想を述べる私にミアが「そうなの?」と首を傾げる。私は順を追って説明した。
まず暗号資産の普及が所在の分散化による課税不能を招く。次に巨大テック企業による独自行政圏が中央集権にトドメを刺す。
さらに物理的な国境が放棄され、ブロックチェーン上に逃げ込んだ資本が徴税コードを無視し、国家を不要にする、と。
「ナツ、要するにデジタルユートピアってこと?」
「脱国家思想と言ってもいい。国や企業をも拒絶する経済圏の誕生よ」
「課税できないじゃん」
「で、ラクロスの出番ってわけ」
「はい?」
目が点になるミアに、私はノートが示す未来の課税像を説明していく。
「ポゼッション、つまりラクロスのボール保持率って、攻撃の起点でしょ」
「そりゃそうよ。得点の可能性が高まるし、主導権を左右するラクロスの最重要項目よ」
「そのボールを資本に見立てるの。保持時間が長ければ、その間に利益を得ているとみなす。滞留時間に応じた動的課税よ。素早い回転を奨励し、資本の死蔵を重課税とする」
「んー……まぁ、よく分からないけど、ラクロスでボールが止まるのは、よくないね」
「次に領域ベース課税。相手陣内の支配時間が長ければ得点期待が高まるでしょ。税制も所有する面積でなく、ゾーンの経済支配率(売上、影響度、雇用貢献)を重視するの。これに貢献控除を加味させる」
「えーと……ラクロスで言えばアレ? 点を取る選手だけでなく、アシストでパスを出す選手にも着目するって話?」
「そう。従来の〈稼いだ者〉〈持っている者〉への課税中心から〈他者の生産性への支援〉へと形を変えていく」
「税額控除があるじゃん」
「遅い! もっと経済環境の変化に瞬時に対応しなきゃ。ラクロスでもトランジション(攻守の切り替え)は重要でしょ」
「もちろん。失点リスクと得点チャンスの分岐点だし、瞬発力と戦術理解が問われるわ」
「税務行政も然り。旧来の紙ベースな年次確定でなく動的徴税プロトコルを目指す。経済活動をブロックチェーンでトラッキングし、経済ポジションの変化に即応した課税最適化を施す」
「……相変わらず難しいわね。まぁ、ラクロスにならい流動的で連携のある徴税モデルをって話ね」
「そう。固まった預金や空き家みたいなデッドキャピタルに流動化を促し、富の偏在の抑制と協力行動を促す。リアルタイム徴税で行政に反応速度を持たせるの。税は支配じゃない。ゲームであり未来へのパスよ。国家をチームとし、ゴールという生存を目指すの」
力説する私だが、ミアの反応は芳しくない。むしろ否定的にぶっちゃけた。
「あのさナツ。空間を回せば税が減るだのパスを繋げば社会貢献だの、資本の移動をゲームと見なすその発想自体が危ういわ。そもそもラクロスの連携って、仲間内だから成立するのよ。他人同士の税制なんかに適用出来っこない。資本主義経済を履き違えている」
「じゃぁ資本を持ち逃げし、眠らせ、循環を止める自由は経済的自由って呼べる? 貨幣も資本も回してなんぼよ」
「だからって国がパスの価値を決めアシストまで測定するなんて、神気取りもいいところだわ」
「いや、神じゃない。相互作用の密度計測技術は、すでに現代の金融テクノロジーに存在する」
私はミアと喧々諤々しながら、同時に推理を働かせる。あくまで直感ではあるものの、このノートにある構想はゼロツーによるものではない気がするのだ。
何はともあれ、私は自身の理解を形にすべく、何とかミアを説き伏せプログラムを組んだ。ラクロスの三分割されたフィールド図と、模擬都市エリアの経済ゾーンマップを並べ、それぞれにパスラインを設けていく。
ボールを、攻めるための道具と同時に、空間の支配権を可視化する装置と見るのだ。
「武器はスティックにあらず。徴税は争奪でなく停滞の打破と捉える」
「つまり、こういうこと? 回す意志のない資本には課税、他者との連携なりで動かした資本には減税、それがアシスト理論課税と。私は机上の空論に見えるけど」
「だからこそラクロスに置き換え、VR上にゲームとして再現し実験するのよ」
私はプログラム上の市民にランダムな経済行動を取らせ、ミアに経済活性指数と税収安定指数を計らせた。
それは、バブル崩壊による資産価値の暴落と経済の停滞が続く、失われた三十年へのリベンジでもあった。
一週間が経った。裏ミネルヴァノートから新たな課税モデルをラクロスに求めた私達は、成瀬先輩を通じ部員にVRで実演させた。
「何よこれ、本当にラクロス?」
これが皆の第一印象だ。確かに戸惑いを覚えていたが、ラクロスに置き換えている分、理解も早い。早速、同輩の恵が仮想住宅街の空き地エリアへと踏み込んだ。
目の前に現れたのは5年間、全く利用されていない空き家だ。明らかにポゼッション過多である。
「要するに経済というボールを停滞させないってことね」
コツを心得た恵は、異なる用途への変更をオプションとして選択し、応じるプレイヤーと接触、減税を餌にマッチング提案を成功させた。
「よしっ、ポイントゲットよ」
恵は空き地が回転を生む資本に転じる様子に目を細める。
一方、反対エリアでは、鈴谷先輩が仮想資産の隠蔽を発見していた。
「これは、明らかにポゼッションの偽装分散ね。えーと……資本移動を意図的停滞として処理、だっけ。制裁課税の発動よ」
鈴谷先輩は、慣れないながらも不自然なトランジションをフェイクパスとして課税処理する。目的は資本活性指数の向上だ。
とにかく経済を動かす──ラクロス模擬税制の最先端が、そこにはあった。
やがて、徴税者を演じるプレイヤーと納税者を演じるAIのバトルゲームは、ハーフタイムを経て後半戦へと突入する。
案の定、AIは新たな展開を見せる。デジタル化されたグローバル市場で、徴税者よりも速く資金を動かし始めた。
「マズいわね……」
私は舌打ちする。たちまち国家財政は空洞化し、どこで稼いでも、どこにも税を払わない状態が恒常化し始めた。
だが、徴税者を演じる恵らも負けてはいない。スピードと戦術が交差するラクロスの性質をそのままに、納税者のプレイスタイルをアルゴリズムで追跡、動的な課税モデルを展開し始めたのだ。
「オーケー、いい感じよ」「流石は恵達ね」
私とミアは成り行きに注目し続ける。データ化するプレイにリアルタイム解析を行うAI──課税をめぐる両者の攻防は、競技の枠を超え、完全な徴税の実験場だ。
プレイヤーの動き、協調性、意思決定、戦術選択がすべて数値で評価され、国家の納税インフラへと反映されていく。
──プレイとは消費か、あるいは投資か。模擬ラクロスは利益か、はたまた公共財か。
私は新たな国家税制モデルが設計されていく光景を食い入るような眼差しで眺め続ける。
いつしか税制はデジタル国家とアナログな国民が交わる、新たな人間中心の課税モデルを形成し始めた。
──これでいい。税は信頼の証、デザインだ。今まさに原型が生まれようとしている。
いつしか絶対的支配者だったAIは、人類と共同で政策を考える統治体へと再設計されていく。その現場を前に私の目尻は下がり続けた。
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この返信は2ヶ月、 1週前に
一井 亮治が編集しました。

