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一井 亮治
参加者

     第二十二話
     
     ラクロス部を総動員してデジタル時代にマッチした国家と国民の課税像を探る私だが、次に助けを求めたのは、アジトへ差し入れに訪れた玄蔵爺さんと士郎兄だ。
     VRで得たゲームデータを見せると、二人とも唸り声を上げた。
    「確かに面白い視点だ」
    「同感ですね。葵にミアさん、これは素晴らしい研究材料だ」
     すっかり乗り気な二人だが、私はさらなる構想を打ち出す。これらの研究材料をリアルの税制へと繋げれないか、だ。
     ここで名前が出たのが〈桜志会〉である。
    「確か税理士で構成される任意団体ですよね」
     私の問いに玄蔵爺さんがうなずく。
    「そうだ。実は会長の広田先生が、本会からの要請で新たな課税像を探る研究チームを立ち上げておられてね。無論、出所は伏せるが、この研究結果を大いに活用させてもらおうと思う」
    「俺も卒論のテーマにさせてもらう」
     士郎兄も同調している。これに気をよくした私はさらなる一手を晒した。アレックスの劣化クローンと接触し、暴走中のゼロツーに対し共闘を持ちかけようという内容だ。
     流石の二人もこれには、反対した。
    「無茶だ」「あまりにリスキー過ぎる」
     だが、私には一つの確信があった。皆がゼロツーの方を向いている今、むしろ劣化クローンの方こそ闇の真相へと迫る鍵があるのではないか、と。
     ミアが言う。
    「だったらナツ、なおさらヤバいじゃん」
    「ヤバいよ。でも虎穴に入らずんば虎子を得ず。ここに勝負を賭けようと思う」
    「何でよ?」
    「勝負師としての勘」
     断言する私にミアは、黙り込んだ。もっとも理由は他にも存在する。VR上で母親から受けた謎めいた助言だ。
    〈裏の裏は表、灯台下暗し。真相は得てして身近に存在するものよ〉
     無論、それが何を意味するかまでは分からない。ただなぜか私には、そこに劣化クローンのメッセージらしきものが感じられてならない。
     結局、皆の反対を押し切る形で、劣化クローンとの接触を図ることとなった。
    「ナツ。何かあったら、必ず連絡して」
     念を押すミアに私はうなずき、伊達メガネと帽子で男装を施すや、雨中のアジトを後にした。

     

     アレックスの劣化クローンと落ち合うべく私は、廃工場へと向かった。人気のない朽ちた建屋をくぐると、劣化クローンが待っている。
    「久しいわね。アレックス」
     声をかける私にアレックスの劣化クローンは、うなずいて見せるものの、その表情は相変わらず弱々しい。ここで幾つかの情報を交わした私は、徐ろに切り出す。
    「ゼロツーはどう?」
    「新たな段階に入っている。僕ら劣化品種の上位互換に属するからね。落ちこぼれから見れば、遥かに眩しい世界さ」
    「ふーん。それはそうとアレックス、アンタまた顔色が悪くなったんじゃない?」
     私の問いに劣化クローンは、うなずく。下位互換に属するだけに、あらゆる面で不安定なのだという。
     ただ頭は切れている。私が目論むデジタル国家とアナログな人間が混ざり合う新たな国家税制モデルに、すぐさま理解を示した。
    「随分、奇抜だね。ナツが言うラクロスに模した動的な新税制モデル、アプローチは面白いと思うよ。後はこれをどう定着させるか。いかにゼロツーを出し抜くか、だね」
    「えぇ、そのゼロツーなんだけど、要はアナログからデジタルへ時代が移行する間隙を縫って、この世界の王になりたいって話よね?」
    「そうさ。史に名を刻み、全てを手に入れ贅を尽くす。サイコーだろ?」
    「……さぁ、私には分かんないけど、結局、ゼロツー亡き後はゼロスリー、さらにその後はゼロフォー、ゼロファイブとナンバーを刻んでいく訳でしょ。完全な独裁じゃない」
    「それでいい。衆愚と化す民主制より、優れた遺伝子に哲人政治をさせるべきだ」
     私は首を傾げる。人類が王制の暴君から議会制民主主義へと移行した歴史を習ってきただけに、独裁には拒否感が否めない。
     だが、アレックスはこれを見事に否定した。曰く「民主制にせよ君主制にせよ一長一短があり、その時々で最適なものを選んでいくべきだ」と。
    「今のような時代の変わり目には君主制だ、と?」
    「あぁ。クローン技術が可能な今、哲学を学んだものに権力を与え、強力な指導力で善政を敷かせることで、私心無き統治を目指す哲人政治が出来る。哲学者プラトンが提唱した、ね」
    「でもあなた達、劣化クローンが犠牲になるのよ」
    「構わない。それで平和と安寧が宿るなら本望さ」
     喜んですら見せるアレックスだが、私は言いようのない違和感を覚えている。
     ──嘘ね。
     その後も、アレックスから劣化クローンとしての本音を探るものの、誘いに乗ってくることはない。ただ、だからと言って私を糾弾する気配も見せない。
     ──このクローンも案外、タヌキよね。
     私は十三歳に過ぎない目の前の少年に、まだ見ぬ一面を感じている。その後、情報交換を終えるとアレックスは、用は済んだとばかりに去っていく。
     廃工場に残された私は一人、立ち尽くしたまま考え込んでしまった。
    「哲人政治、か……」
     確かにこういった政治体制は古代より議論され、提唱されてきた。だが、いざそれを目の当たりにして、私の心は揺らいでいる。
     ──何かが違う。
     やはり、どうしても違和感を拭えないのだ。その要因が何なのかは、その時点では知りようもなかったのだが。

     アジトに帰った私だが、ここで思わぬ人物との再会を果たす。
    「谷先輩!?」
     私は思わず声を上げる。無理もない。死んだはずの人物が目の前にいるのだ。しかも、その表情たるや悲壮そのものである。必死に「どうか私を匿って欲しい」と懇願してきた。
     一体、何があったのか、谷先輩は慌て気味に話し始めたものの、その内容は実に複雑だ。論点も多岐に渡る。私は眉を顰めつつ聞き役に徹し続けた。
     やがて、一通りの内容を聞いた私は頭がクラクラする思いで、状況を整理していく。
     ──仮に以前、父さんと母さんから聞いた状況をA、今、谷先輩から聞いた状況をBとするなら、明らかに二つは矛盾する。だが、皆、嘘をついている風には見えない。なら、この矛盾を埋める何かが必要だ。
     頭を働かせる私だが、複雑に絡み合った状況なだけに真相に辿り着くことが出来ない。半ば理解を諦めかけた私だが、そこへミアが思わぬセリフを吐いた。
    「どこかがブラックボックスになってるんじゃない?」
     ──ブラックボックス……。
     確かに特定の人物にしか見えない何かが潜んでいる可能性は十分にあり得た。私はその正体を探るべく、あらゆる候補を消去法で潰していく。
     すると一つの仮説に辿り着いた。
     ──やはり、これしかない。だが、動機が分からない。一体、なぜ……。
     私は徐ろにカバンに書類を放り込むや、出発の準備を整えていく。ミアが問う。
    「ちょっとナツ。一体、どこ行くのさ!」
    「分からない」
    「分からないって……アンタ、どういうつもりよ。むやみやたらに動くのは危険だって……」
    「悪いけど、私はそう言うタイプじゃないみたい。動きながらでないと、頭が働かないのよ。でも真相まであと一歩なの。いいから好きにさせて!」
     私は必要と思しき資料を片っ端からデータ化するや、スマホ一つでアジトから出ていった。走りながら私はスマホで士郎兄に連絡を入れる。
     ここで間髪入れずに考えを聞いてくれるのが、士郎兄だ。着信に応じた士郎兄に判明している範囲の内容と推測を述べていく。
    「士郎兄は、どう思う?」
    「十分にあり得るが……ただ最後のピースが欠けているな」
    「そうなの! 教えて。私、どうすればいい?」
    「今のまま走り続けろ。前にも言ったがお前が持つ要領よさの源泉は感性だ。激変期にしか働かない才能と言っていい。動けば雷電の如く、発すれば風雨の如し。とにかくこっちのことは俺達に任せろ」
    「でも、皆に迷惑が……」
    「大丈夫だ。要は勝てばいい」
     あっけらかんと言ってのける士郎兄に、私は苦笑を禁じ得ない。覚悟を固めた私は通話を切るや、猛烈に頭を回転させながら、夜の街を駆け抜けて行った。

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