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一井 亮治
参加者

     第二十三話
     
     勘の赴くままに向かった先、それは夜の学校だ。裏口から密かに忍び込むや職員室へ侵入し、担任のパソコンを立ち上げた私は生徒一覧の情報に目を走らせる。
     そこで遂に動かぬ証拠を突き止めた。
     ──これだ。間違いないわ。
     すかさずそのページをスマホで写真に収めるや、数字の羅列から電話番号らしきものを見つけ、かけてみた。数コールの後に出た沈黙の主を私は決して忘れない。
    「冬月、アンタね」
    「へぇ、よくこの番号が分かったな。そうさ、俺だ。ケインもいるぜ」
    「てっきり死んだものと思ってたけど。ま、そんな訳ないわよね。あっさり退場なんてあり得ない。一体、どう言うつもりよ!」
    「そうイキるなって。勘の働くナツの事だ。色々見当はついているんだろう。いいぜ、真実を見せてやるよ。今から座標を送る。そこまで来るんだな」
    「一体、何を見せる気?」
    「それは来てのお楽しみ。あ、そうだ。多分、お前が今、見てるであろう端末だけど、気をつけろよ。ばーん!」
     ふざけ気味に通話が切れるや否や、目の前のパソコンが強烈な破裂音とともに木っ端微塵に吹き飛んでしまった。
     ──ふざけてんじゃないわよ……。
     驚きのあまり止まりそうになった心臓の鼓動を抑えつつ、私は教室を後にする。スマホに送られた座標を確認するや、夜の校舎を足早に去っていった。
     
     
     
     ──冬月にケイン、アイツらはじめからこう言う魂胆だったのね。
     電車に揺られながら、私は昂る気持ちを落ち着かせスマホの座標を凝視する。場所ははるかに離れた淡路島だ。
     ──おそらくゼロツーもいるわね。いよいよ本命とのご対面って訳か。
     単身で乗り込むには無謀だが、私はそこまでの危険を感じていない。むしろ彼らが何かを促そうとしているように感じている。
     案の定、今度はケインからメールが送られてきた。内容を確認すると、淡路島の地図が三つに大分されている。私は舌打ちしつつ、返信した。
    〈アンタ、淡路島でラクロスでもするつもり? 一帯の地図をフィールドに重ねるなんて〉
    〈イエッス。これはテストなんデス。うまくやればディフェンダーを撒けますよ。ここへのご到来、楽しみに待ってマスネ〉
     まるでゲーム感覚でいるかの如く、神経を逆撫でしてくる二人に憤りを感じつつ、私は謎を解き安全なルートを計算していく。その後、叱る場所に連絡を入れ、決戦に備え仮眠をとり始めた。

     

     翌朝、私は活動を開始した。街に出るとディフェンダーなる構成員が警戒しつつ配置についている。
     これを巧みにかわしつつたどり着いた場所は、淡路島の一帯が拝める高層ビルだ。その屋上へ乗り込むと、お目当ての二人が待っていた。
    「冬月、ケイン!」
     声をあげる私に二人は「よく来たね」と薄ら笑いを浮かべ一人の少年を紹介した。
    「ナツ。アレックス二号機、もといゼロツーだ」
     見るとビル風に髪を靡かせながら少年が腕を組んでこちらを見ている。
    「ナツ。お初にお目にかかる。いや、どうご挨拶したらいいものか」
    「結構! 悪いけどアンタの企みは全てお見通し。哲人政治だかなんだか知らないけど、余計な活動は身を縮めるだけよ」
     断言する私に冬月が言った。
    「ナツ、ちょっとは口を謹めよ。今、君が前にしているのは、この国の真の王だ。全く手のかかる国さ。ろくに改革すら出来ないんだからな」
    「冬月。余計なお世話よ。私達は自分でこの国を切り盛りできるわ」
    「おいおい、あまり自惚れない方がいいぜ。ま、俺達が提唱したデジタル社会の課税理論をラクロスで実証した点は、見事だったがな」
     冬月は目を細めつつ、ゼロツーに目配せする。ゼロツーはうなずき、私を見ながら切り出した。
    「ナツ。僕達と組まないか? ともに世界を変えよう」
    「お断りよ! ゼロツー、悪いけどアンタと違って私はこの世に王は不必要だと思ってる」
    「随分とアナーキーな。まぁいい。はっきり言う。このデジタル社会で人は二分される。分かっている人と分かっていない人だ。ナツは間違いなく前者だよ」
    「どうも。じゃぁ、こちらもはっきり言わせてもらうわ。ゼロツー、アンタ達が崇めるミネルヴァノートは、ただの机上の空論よ」
    「だがナツ、君が理論と実践の境目をラクロスで埋めてくれたじゃないか」
    「へぇ、全ては計算尽くって訳? 全然、嬉しくないわ」
    「ナツ、君も分かっているはずだ。デジタルで世界は変わる。物理的な国境が意味を失い、代わりにネット上でクラウド国家が形成されていく。地形や距離に左右されない価値観を共有する真の国家だ。僕はその王となる」
    「私には、裸の王様に見えるけど。で、サイバー空間で国作りって訳?」
    「国産み、と言って欲しいね。かつて、イザナギとイザナミの二神が、天沼矛で地上を掻き混ぜこの淡路島を作った。これを今、デジタル社会で再現する。まさにミネルヴァノートの着地点さ」
    「要するにこう言うこと? ネット上に目指すべき世界観をアップし、共感する同志を募って物理的制約のないクラウド上に国家像を形成する。それを今度は逆にクラウドからこのリアル世界へダウンロードする、と?」
    「流石はナツ、理解が早くて助かるぜ」
    「感嘆デス」
     同調する冬月とケインに私は、はっきり言った。
    「狂ってる」
     だが、二人は意に介さないどころか進んでそれを認めた。そもそもこの世は狂ってる、と。さらにゼロツーが畳み掛ける。
    「さぁナツ。この狂った世界でともにデジタル創世記と行こうじゃないか」
     実に自信ありげに話すゼロツー、冬月、ケインだが、私は何か不自然なものを感じている。己の勘を試すべく、三人にふっかけてみた。
    「皆、悪いけど私、嘘をつく人とは仲間にならない主義なの」
    「何のこった?」「分からないデス」
     首を傾げる三人に、私は目を光らせる。直視に耐えかねたのか、ゼロツーが言った。
    「ナツ、僕らは仲間じゃないか」
     ──やっぱり……。
     確信に近い感触を得た私は、さらにふっかける。皆はそれぞれが各々の役割を演じているに過ぎず、嘘をついていることはお見通しだ。いつまでペルソナを被り続けるのか、と。
     ゼロツーが言う。
    「ナツ、なぜ信じてくれないのさ」
    「その言い方……明らかにはじめての相手向けじゃない。私、苦瓜と嘘つきは嫌いな主義でね」
    「オーケー、それは破談と取っていいんだな?」
     冬月が念押し気味に確認を取るや、一帯に合図を送る。たちまち階段から組織の構成員が駆け上がってきた。
     対する私は包囲を逃れるべく反対側に走るや、隣接する民家の屋根の上へと飛び移る。だが、遂に逃げ場所を失い追い詰められてしまった。
     冬月が吠えた。
    「ナツ、今ならまだ間に合う。こっちに来いよ?」
    「お断りよ」
     断固として拒絶する私に冬月は「やれ」と構成員に合図を送る。皆が一斉に銃を構え強硬手段に打って出る中、突如、物凄いプロベラ音とともに謎のヘリが現れた。
     見ると成瀬先輩が中から、こちらへと手招きしている。驚く冬月が吠えた。
    「アイツらをやれ!」
     一斉に銃弾が浴びせられる中、私は激走し成瀬先輩がヘリから放り投げるハシゴへと跳びつく。その後、必死によじ登るや、何とかヘリの中へと転がり込んだ。
    「ナツさん、血が出てる!?」
    「このくらい、大丈夫です」
     私は腕の出血を生地で塞ぐや、眼下を振り返る。そこには、仕留め損ねた獲物を見送る三人の顔があった。

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