返信先: 【新企画】桜志会×スポ根学園モノな挿絵小説
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第二十四話
「成瀬先輩、確かに連絡は入れましたが、まさかこんなに早く助けにきてくれるとは、思いませんでした」
「もちろんよ。ナツさんはトランプのジョーカー、簡単には手放せないわ。それより以前、ナツさんがまとめたレポート。今、分析官に読ませているけど、どうやら真実みたいよ」
成瀬先輩の分析に私は、聞き耳を立てた。
まず冬月だが、どうやら中国の二重スパイらしい。かなり以前から潜入し、工作員として私に白羽の矢を立てていたようだ。
さらに上を行くのがケインだ。元ハッカーで冬月同様に私を潜在力を探るべくアメリカの情報機関から送られてきたという。
早い話が、米中の二大機関がアレックスを通じて、私を取り込みに来たのだ。
「それは分かります。けど私には、あのゼロツーが分からない。ひょっとしたらナンバリングが違うのかも……」
「実はゼロスリーかもってこと?」
「かも知れませんし、違うかも知れない。一度、調べさせてもらえますか」
「いいけど、どうやって?」
「アレックスの劣化クローンを使います。おそらく彼が一番、真相に迫っている」
「なるほど……分かった。うちの組織の通信設備を使わせてあげる。そこで連絡を取ってみて」
その後、その通信施設へと赴いた私は、成瀬先輩の案内の下、機械室へと案内された。あらゆる通信機器が内包された部屋で、手がかりを求めアレックスの劣化クローンと連絡を取る。
「アレックス。今日、アンタの上位互換にあたるゼロツーと接触してきたわ」
「そうなのかい。じゃぁ、いよいよ……」
「そう。アンタに話していた作戦を実行する。コード名は……そうね。季節的に〈苦瓜大作戦〉ってところでどうかと」
「え、でも嫌いなんでしょ」
──ビンゴだ。
私は頭を抱えつつ、アレックスに指摘した。
「なぜアンタがそれを知っているの?」
「何の話さ?」
「苦瓜よ。私が嫌っていることは、淡路島でゼロツーにしか話していないのに……」
ここでしばし間が流れる。やがて、ガラリと口調を変えて返答がきた。
「ふっ、流石はナツだね。この僕が引っかかるとは。そうさ。お察しの通り、劣化クローンの僕とゼロツーは同一人物、冬月とケインも一緒にいるよ」
「つまり、劣化クローンを騙って私に接触を……」
「逆だ。劣化クローンの僕がゼロツーを騙って君に接触した」
「何よそれ。じゃぁゼロツーは……」
「抹殺済だ。それだけじゃない。全てのナンバリングごと消し去った」
驚くべき事実に私は返す言葉が見つからない。それでも何とか声を絞り出し問うた。
「アレックス、一体、アンタはそこまでして何がしたいの?」
「別に。要は下剋上さ。いつまでもB級品の劣化クローンで甘んじていられない。スペアにしか過ぎない僕らの気持ちなんて誰にも分からない」
「だから、上位互換のゼロツーらにクーデターを起こしたってこと?」
「やられる前にやっただけさ。大した話じゃない」
「十分、大ごとよ。アンタ、世界を敵に回すつもり!?」
吠える私にアレックスが説く。デジタルで国家という概念を過去の遺物に変え、通貨を分散型台帳に統一し、国籍もパスポートも国軍も消し去るんだ、と。
「要するにリアル世界へと宣戦布告って訳?」
念押し気味に問う私にアレックスは、同意する。
「ナツ、いずれ政府は通貨発行権を失い、徴税システムは崩壊する。軍は民間ネットワークに吸収され自警ネットと成り果てるんだ。それを僕が証明する。まぁ、見ていてくれ」
そこでプツリと通話が途切れた。私は困惑の表情のまま、自身のスマホを眺めている。
「アレックス。アンタは一体、何を始める気?」
胸騒ぎを覚える私だが、それはすぐに始まった。知らせてくれたのは、ネオサイバー社の鬼塚社長である。世界有数のオンラインゲームを運営する同社で、ゲーム内通貨が忽然と消失したのだ。
「消失って、どう言うことですか?」
私の問いに鬼塚社長は「ただ気が付けば消えていた」と、困惑気味に前置きした上で続けた。
どうやら世界中のバーチャル空間で同じような現象が生じているらしい。仮想通貨を強奪し暗号資産として新たな国家がメタバースに出現しつつあるという。
「まるでデジタル創世記だ。イザナミとイザナギを名乗るAIプレイヤーが、天沼矛なるシステムでネット上にバーチャル国家を出現させてしまった。今、ネット上は大荒れだ」
鬼塚社長が悲鳴をあげる中、私は急速に頭を回転させる。状況から察するに、これがアレックスの所業であることは疑いようがない。
問題はその手段だ。宣戦布告もなく次々と奇襲を成功させていくスピード感に皆、ついていけない。
──これが民主主義の限界だ……。
私は宙を仰いだ。振り返れば戦後の日本は権力の集中を避け、熟議で時間をかける民主主義を大事にしてきた。
だがこの決定に至る遅さが今、脆弱さを生んでいる。デジタル化する世界で、これまでの常識では解けない問題をつきつけられ、最終責任を国民の自助努力に押しつけざるを得ない。
「ナツ、このままでは日本は全滅だ。戦後の高度成長体験が裏目に作用している。社会構造が変化しているのに過去の成功体験を持ち出しても機能するはずがない」
──確かにその通りだ。だが、どうすれば……。
考え込む私の脳裏に士郎兄のセリフがよぎる。
〈お前は走りながら考える革命家タイプだ〉
──そうだ。私は考えるタイプじゃない。動いてこその私だ。
意を決した私は鬼塚社長に言った。
「社長、そっちのプログラムをこちらでリンク出来ませんか?」
「出来なくはないが、どうするんだ?」
「このデジタル仕掛けの奇襲ですが、アレックスは私が立証した理論を現実世界に出現させようとしているんです。それを阻止したい」
「だがナツ、お前に難解なプログラムが書けるのか?」
「書けませんが、アレックスがやろうとしていることは、わかります」
「何だ?」
「クーデターです。物理的制約の伴う現実世界を一旦、サイバー空間にクラウド国家として出現させデジタル技術で最適化する。これを今度は現実世界へとダウンロードする。つまり、国境線の書き換えなんです」
私の訴えに鬼塚社長は、唸っている。果たしてそんな絵空事が可能なのか、信じられない様子だ。私はさらに訴える。
「いいですか社長。行き着くところ世界の統治はマネー、つまり税制なんです。アレックスは課税権を主権国家から奪おうとしている」
「まぁ百歩譲ってそれを認めたとして、だ。打つ手はあるのか?」
「あります。ラクロスです」
断言する私に鬼塚社長は、大いに訝りながら問うた。
「ナツ、そこが俺には分からない。お前はいつもラクロスを出す。なぜなんだ? 国家存続の危機とどう関係する?」
「それはですね。ラクロスこそが、アメリカを世界一の国家に仕立て上げた隠れ役者だからです。始まりは社長もご存知のミネルヴァノートにあります」
「アレックスが書いたレポートだろ。金融工学からマネーロンダリング、挙げ句の果てには国家運営に至るまで様々な知古を生む源泉となった」
「確かにアレックスが提唱した。けど、実は原案はアレックスじゃないんです。彼の祖先が記した禁書なんです」
「え……」
絶句する鬼塚社長に私は、ダメ押しする。
「初代アレックスから聞いたから間違いありません。その祖先の名は、ベンジャミン・フランクリン」
「はぁ!? ちょっと待てナツ。アメリカ建国の父として独立宣言を起草したあのベンジャミン・フランクリンか?!」
「はい。独立の指導者であり、科学者、発明家、作家と多大な功績を残した人物ですが、最大の遺産はミネルヴァノート。その一ページ目に〈勝利を導く最古の戦略は、スポーツに偽装された儀式である〉と記されている」
「それがラクロスという訳か……」
聞き耳を立てる鬼塚社長に私は、これまで秘密にしてきた内容を晒した。
ベンジャミン・フランクリンは独立宣言の裏で、秘密裏にネイティブアメリカンの部族長たちと接触していた。
目的は、彼らが何世紀も守り伝えてきた戦わずして勝つ知恵――戦略ラクロスの教義だ。
〈このスポーツは、戦争以上の力を持っている。これは未来の国を築く武器となる〉
そう語ったフランクリンは、やがて、ジョージ・ワシントンにこう進言する。
〈この地に根ざした戦術を、我々の国是とせよ。銃ではなく、戦略で世界を制するのだ〉
ちなみにこの戦略ラクロスとは、古代ネイティブアメリカンが用いた儀式的戦争法で、地形把握に始まり敵軍の心理解析、動的集団行動のモデル化へと続く。
このスポーツを通じて〈勝利とは支配ではなく、相手の戦意の消失にある〉と説くのだ。アメリカはこれを国際戦略に転用した。
軍事作戦に〈陣形ラクロス戦術〉、大統領選に〈心理操作ラクロス法〉、国際交渉に〈パス外交〉、これらの隠語をもとにラクロスのゲーム構造を模倣することで、覇権を築き上げていった。
このベンジャミン・フランクリンのDNAをクローン化したのが、アレックスなのだ。
〈スポーツは文化であり、文化は戦略である〉
〈国家とは、ゲーム設計者である〉
〈勝つとは、相手のルールに乗らないこと〉
等々、様々な教訓がここから生まれるに至る。
これらの事実を前に私は、迫った。
「鬼塚社長、私達の相手はアメリカ建国の父です。生半可では勝てない」
「……分かった。俺も腹を固めよう。ネオサイバー社のシステムに対するアクセス権を付与する」
なんとか協力を取り付けた私は、次に玄蔵爺さんと連絡を取る。アレックスの意図を前置きした後、その対策を説明した。
「概要は今言った通り。玄蔵爺さんの方で何とかなる?」
「何とかやってみよう。桜志会の広田会長に相談してみる。だが葵ちゃん、無理だけはするなよ」
「分かってる。じゃぁ頼むね」
私は礼とともに通話を切るや、さらに中国の王成麗へと連絡を入れた。どうやら向こうも異常事態に気付いたらしい。進行しつつあるアレックスの陰謀を前にてんやわんやだという。
「王成麗、VRは使える?」
「何とか。ナツ、ポジションだけ空けておいて」
「分かった」
私は手短ながらも意図を共有するや、着々と対抗策を練っていく。その中心を貫くラクロスだが、確かに世の中に必要な全てがつまっている。技能といい戦術眼といい、人生の縮図そのものなのだ。
その理解の上で私は断じた。
──コツはリスペクトし過ぎないこと。
そもそもラクロスは紙に書いて説明し切れるものではないし、理想像を決めてしまえば、それが頭打ちを産んでしまう。
かつて、士郎兄は言った。限界に限界はない。自由を与えられ何かをできる人間と、何もできなくなる人間がいる、と。
──果たして私は、どちらなのか……。
先行する迷いを私は一瞬で消し去る。そもそも考えている時間などないのだ。自由を与えられた以上、判断は自分でしなければならない。
──他人の頭ではなく、自分の頭で考えるんだ。
私は己を叱咤しつつ、矢継ぎ早に手を打ち続けた。

