返信先: 【新企画】桜志会×スポ根学園モノな挿絵小説

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一井 亮治
参加者

     第二十五話
     
     アレックスと私の攻防は、いよいよ全面衝突の様相を呈している。情勢が膠着状態へとなだれ込む中、現状の打開を求めて冬月とケインが果たし状を突きつけてきた。
    「ナツ、ケリをつけよう」
     画面を見ると、サイバー空間上に決戦の舞台としてラクロスステージが、出現している。どうやらVRでの決着を目論んでいるらしい。
     ──来た、それを待っていたわ。
     私は身を乗り出して、その挑戦を受けた。ミア、王成麗、谷先輩、成瀬先輩と可能な限りメンツを揃え、VRでアレックスが展開するフィールドへとログインする。
     世界中のネットユーザーが注目する中、私達はアレックスが用意した冬月やケイン、プログラム生命体と対峙した。紺色のユニフォームに袖を通した冬月が言った。
    「ナツ、悪いが容赦はしないぜ」
    「上等よ、冬月。そっちこそ泣きをみないことね」
     その後、ともに配置につくや否や、試合開始のホイッスルが鳴り響く。たちまち私と冬月はドロー(フェイスオフ)でぶつかり合った。
     弾け飛ぶボールの不規則な動きを捉えたのは私だが、これを冬月は見事に奪い取る。
     ──へぇ、流石は冬月ね。
     感心する私だが、すでにこれに対処する策は講じている。身体能力に長けたミアが冬月が放つケインへのパスを見事に阻止した。
     そのまま速攻へと展開すべく、私達はディフェンダーのブロックを回避し、素早いパス回しでボールを展開させていく。アタッカーの成瀬先輩を起点とし、王成麗が巧みな体捌きでシュートをねじ込んだ。
    「よしっ!」
     ネットに突き刺さるボールに、私達は歓喜のガッツポーズを作る。主導権を引き寄せる先制点のゲットに大いに沸いた。
     もっともこれで楽勝モードとはいかない。すぐさま冬月がこちらの攻めにパターンを見出し、ケインや他のプログラム生命体を巻き込んで反撃へ転じていく。
     ──癪な奴らね。
     私は舌打ちしつつ、これまで講じてきた策を総動員してフィールドを駆け抜け、格闘競技に興じ続けた。
     試合がシーソーゲームの様相を呈す中、地力で勝る冬月がケインを巧みに使い、私達から点を奪っていく。
     1Q、2Qを終え、一点ビハインドでハーフタイムに入った。コーナーに戻ろうとする私を冬月が呼び止める。
    「ナツ、お前だって分かってるんだろう。もう国家は限界だ。今、ある姿は完全な惰性、亡霊だ。概念自体はとっくに死んでいる。誰に気付かれることなく静かにな」
    「じゃぁ何? アンタ達はその先に無限の選択肢が待っていると?」
    「そうデス。デジタルで人類は究極の自由が得られるんデス」
     ケインが冬月に同調する中、私はかぶりを振って言った。
    「悪いけど、私の見立ては違う。確かに国家は生存形式を未来に向けて最適化する必要はあるかもね。けど、人間って本能的に帰属や境界を求める生き物なのよ」
    「ほぉ……」「で?」
     聞き耳を立てる二人に、私はさらに続ける。
    「国家や国境、これを煎じ詰めて言えば、誰が責任を取るかを分けた信用の形だと私は思う。その消滅は、誰も責任を取らない身勝手な自由でしかない」
    「十分じゃないか。自由っていうのは無責任の別名なのさ。国家という古びた幻想の亡霊を引きずる必要はない」
    「違う。たとえ国家が不要になっても、誰かのための居場所は必要とされ続けるの。それが伝統を生む。このラクロスの様にね。そのために責任を求められるなら、私は喜んで引き受けるわ」
     皆の視線が集中する中、私は冬月とケインに別れの仕草を取り、自身のコーナーへと引き上げていった。
     

     
     後半に向けた策を練る私だが、ここで思わぬ提案を出したのが、谷先輩だ。曰く、自身が囮として犠牲になる、と。
     私は驚き気味に問うた。
    「確かに助かりますが、キケンです。相手は米中を手玉に取るスパイどもですよ!」
    「承知の上よ。ナツさん、はっきり言うわ。私はアンタが嫌い……というか、苦手。ただ間違っていたのは、私だった。その埋め合わせはさせてもらう」
     断固とした覚悟を見せる谷先輩に、私は返す言葉がない。察したミアが「ならば」とばかりに策を出してきた。曰く、罠を仕掛けよう、と。
     その内容を聞いた私達は、思わず唸った。
     ──確かにリスクはあるけど、効果は抜群だ。やってみる価値はある、か……。
     私は伴う危険を前に戸惑いを隠せない。だが谷先輩は毅然と言い切った。自分がしっかり役割を果たす、と。
    「だったらさ。アレもやらない?」
     さらなる提案を出したのは、成瀬先輩だ。私は思わず唸った。
     ──アレかぁ……。
    「でもアレって、決まるの三回に一回ですよ」
     恵が懸念を示すものの、他のメンツは実に乗り気だ。皆の内心を見て取った私は、決断を下す。
    「オッケー、それで行こう!」
     私達はうなずき合うや、円陣を組む。皆で掛け声とともに後半戦へと散っていった。
     前半同様にドロー(フェイスオフ)へと入った私は、仕掛けた。敢えて相手のケインにボールを奪わせ、冬月へとパスを投げさせたのだ。
     ここで谷先輩が打って出る。巧みなステッキ裁きで冬月を幻惑し、意図的なファールを引き出した。
     ──決まったっ!
     私達は心の中でガッツポーズを取る。通常、ファウルを犯せば、その選手は一時的に退場となる。ここで見事に六分間のペナルティータイムを稼ぐ事が出来た。
     ──第一段階、成功だ。
     冬月がしてやられた顔でフィールドから去る中、私はミアとアイコンタクトを取る。小さくうなずくミアに私は頃合いをはかった。と言うのもこれはエキストラ(数的優位な状況)となったからこそ成功率が高まる策なのだ。
     自陣で体勢を整えた私達は、巧みにケインらの死角に隠れるや仕込みに入る。幸い誰も気づいていない。極力、なんでもない風を装いつつ、私は手慣れたスティック捌きでボールをポンっと上に跳ね、ミアへとパスを送る……仕草を見せた。
     実はこれは囮──ミアへボールを託すフリをして、ボールそのものは私のスティックへと再度収納し直している。
     ──どうだ?
     様子をうかがう私だが、数で劣るケインらは注意力が減った分、この事実に気づいていない。死角を巧みに利用したフェイクであり、完全なトリックプレーだ。
     ──行けるっ!
     確信を持った私は、一気に相手陣地へと切り込んだ。ケインらはボールがミアに渡ったものとばかり思っているらしく、マークがミアへと集中したままだ。
     門番たるゴーリー(ゴールキーパー)すら、騙されている始末である。
    「ケイン、罠だ!」
     ようやく気付いたらしい冬月の声も虚しく、私は間隙をぬって疾走する。スピードが乗ったところで、運命のロングシュートを放った。
     ──行けっ!
     私は自身のスティックから飛び出すボールの行方を追う。確かに距離はあったが、ノーマークだ。全く妨害を受けず、ディフェンダーに勘づかれることすらなく、ボールは相手チームのネットに突き刺さった。
    「決まったぁっ!」
    「凄いっ!」
    「逆転よ!」
     見事な奇襲にしてやったりの私達は大いに気勢を上げる。こうなればもう、完全にこちらペースだ。エキストラタイム中に私は、次々とゴールを決め、一気に相手を引き離した。
     ──勝てる。
     誰もがそう感じ始める中、エキストラタイムが終了し、冬月がフィールドへと戻った。ここで意気揚々の私達に冬月が吠える。
    「おいナツ、随分とセコい手を使うじゃないか」
     振り返った私は冬月を見て、息を飲む。その表情は明らかに普段のものを違っている。初めて見るその顔は、荒々しさと狡猾さに満ち、猛々しい目は猛禽類のそれだ。
     ここで私は冬月のヤバさを思い知ることとなる。完全にキレた冬月は、これまでの余裕を浮かべたスタイルから、あり余るセンスとポテンシャルを武器に、私達が構築するディフェンスを蹴散らし始めた。
     ──これが冬月の本気!?
     私達はあまりのパワフルさになす術がなく、愕然とした。
     無論、反撃を試みはした。本気の冬月にチーム一身体能力の長けたミアが張り付く。
    〈今のうちに早く体制を整えろ〉
     そう目で語るミアだが、冬月の勢いは本物だ。パワーといい、テクニックといい、その全てが規格外なのだ。
     やがて、試合は3Qを終え最終ラウンドへと突入する。リードはわずか三点に縮まっている。もはやゲームの行方は、虎の子の点差を死守する私達が、いかに冬月らの追撃から逃げ切るかにかかっている。
     ──ミアの体力も限界だ。ここは私が……。
     意を決した私は冬月の阻止を試みる。だがこれが裏目に出た。あろうことか冬月の誘いに乗りファールを取り返されてしまったのだ。
    「しまった……」
     思わず舌打ちする私だが、覆水盆に返らず。相手に対し五分のエキストラを与えるに至った。
    「ゴメン、皆。もう限界かもしれない」
     流石の状況に私は弱音を吐く。だが、これを皆が否定した。言葉にこそ出さないものの、虎の子のリードを守ることに死に物狂いだ。
     ──頼む。皆、何とか守って……。
     フィールド外から心の中で必死に拝む私は、皆の目の色が変わっていることに気付いた。明らかに私の失態を補おうとする目だ。これには私の心も大いに打たれた。
     どうやら思いは通じたらしい。一点差まで詰め寄られたものの、暴れまくる冬月を全員で防ぎ続ける。その様はスズメバチを前にしたミツバチだ。
     やがて、運命の五分が終了し、私はフィールドの中へと舞い戻る。思えばここが勝負の分かれ目だった。いわゆる天王山という奴だ。
     一致団結した私達に対し、流石の冬月もペースを落とし始めた。双方の死力を尽くした攻勢は最終盤を迎える。シュートを試みる冬月、体を張って阻止する私達、熾烈な攻防を繰り広げる中、ついに運命のホイッスルが鳴り響いた。
     それは、ギリギリの競り合いの中で勝負が決まった瞬間だった。
     ──虎の子の一点が守れた……。
     安堵と尽きる体力に私達は、その場に座り込んでしまった。もはや歓喜の声を上げる余力すらない、薄氷を踏むような勝利だった。 安堵にくれる私だが、そこへ手が差し伸べられる。見ると冬月とケインだった。
    「上出来だ。お前達の勝ちだよ」「イエッス」
     笑顔を見せる二人に私は悟った。どうやら私にどれ程の覚悟があるのかを見たかったようだ。
    「要するに合格ってことかしら?」
     私の問いに二人は笑みを浮かべつつ、うなずいている。手を引っ張られ立ち上がる私だが、そこへ新たな人影が現れた。アレックスである。
    「僕らの負けだ。認めよう。手を引く。だが言っておくよ。今日の決着は、史に残る。ナツ、君達のせいで時代の進歩が十年遅れたってね」
     妬み節を全開にするアレックスに、私は毅然と言い返す。
    「アレックス。アンタは十年、早過ぎたのよ。常に最短距離を求める姿勢は分かる。けど時代はそう簡単には変われない。動かすのは生身の人間だからね」
    「だからこそ、改革が必要なんじゃないか! ナツ、君なら分かると思っていた。理解してくれるはずだ、と……」
    「理解出来るからこそ、賛同出来ない。命令で動くのは軍隊だけ、社会はロジックでなく感情で動いている」
    「ふっ、漱石の草枕かい。僕は智に働き過ぎた、と」
    「えぇ。で、私は情に棹させて流された。だからアレックス、アンタも意地を通すのはやめなさい。今が引き際よ」
     歩み寄りを求める私だが、アレックスは納得しかねるようだ。無理もない。この革命に人生の全てを投げ打って生きて来たのだ。
     やがて、アレックスは忸怩たる思いで、無念さを私にぶつけた。
    「ナツ、君は国家を責任の所在であり、信用の形だと説いたよね」
    「えぇ、ボーダレスになっても心の拠り所は求められると思ってる」
    「それが僕には分からない。国なんて船みたいなものだろ。沈みかけたら乗り換えたらいいだけの存在、なのに君は船と運命をともにしようとしている。沈没が目に見えていると言うのに……実にナンセンス!」
     肩をすくめお手上げの仕草を見せるアレックスに、私は同意しつつ言った。
    「多分、これが日本の限界なのよ。理念で生まれ移民達に育てられた人工国家アメリカと、革命や独立戦争と無縁の土着した自然国家日本……どちらも一長一短で、是々非々だと思ってる」
    「船乗りは船と運命をともにする、と? 後悔するよ」
    「覚悟は出来ている」
     断言する私にアレックスは、熟考している。やがて、おもむろに重い口を開いた。
    「僕は日本を救いたかった。ナツを含め本当に好きだったから。だが君達の国だ。僕はこれ以上、何も出来ない。だから言おう。君達に残された時間は長くない。フロンティアスピリッツに幸あれ」
     そこでアレックスは、VR空間から完全に姿を消した。それは全てが終わった瞬間だった。

     第二十六話
     
     VRでの決戦から一ヶ月が経った。世の中が混乱からようやく落ち着きを取り戻す中、私は夏休み明けの学校で、冬月やケイン、ミア、恵らとホームルーム前の時間をともにしている。
    「アレックス、亡くなったらしいね」
     ミアの情報に私はうなずく。劣化クローンだけに身体維持に困難が伴う中、一切の処置を断っての衰弱死だったという。
     冬月が口を開く。
    「あいつは元々、米中双方から日本のサイバー空間を制するよう送られたエージェントだったんだ。だが、ナツを知りこの国を研究するうちに愛着が移ってしまった」
    「そうさせるだけの魅力が、この国にはあった訳デス。ゆえにデジタルの力で乗っ取り自ら再興させようとネ」
     同調するケインに私も異論はない。アレックスの心中は察してあまりあるが、さほど悲しみは感じていない。
     ──多分、アレックスには彼なりの流儀があったんだ。それを貫き全うした。ならそれを喜んであげないと。
     思いを改めた私は、冬月とケインに問う。
    「で、アンタらのパトロンとボスはどうなのよ? あわよくば日本を乗っ取る気だったんでしょう」
    「まぁな。だが俺が止めさせた」
     返答する冬月にケインも「僕もデス」と応じている。どうやら二人にも、この国に宿るアイデンティティーに感じ入るものが芽生えたらしい。
     ラクロスを通じ、ともに敵として戦った後だけに私は納得を覚えている。
     ──日本の取るべき道は、成熟かそれとも成長か。政府は大きくあるべきか否か。
     国の未来もさることながら、まずは自身である。私は第一歩を求めスマホに税理士の受験要綱を映し出した。然るべき受験資格を得た後、玄蔵爺さんや士郎兄にならって、己の道を切り開く覚悟を決めたのだ。
     同時にラクロスに対しても、マイナースポーツを広める新たな道を模索している。
    「ナツ、色々やるのはいいが、手を広げ過ぎじゃないか?」
     呆れ気味の冬月に私は言った。
    「器用貧乏の私には、それくらいで丁度いいのよ。いずれは世界へ打って出る。それまでは、この国も生き残っていてもらわないとね」
     私はまだ見ぬ未来へと思いを馳せつつ、ホームルームに向け、軽い足取りで皆とともに席へとついた。(了)

    • この返信は1ヶ月前に一井 亮治が編集しました。
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