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一井 亮治
参加者

     第一話 プロローグ

     俺は桜井志郎、いわゆる税理士浪人だ。大学進学とともに勉強を始め、この難関資格への挑戦を始めた。
     だが、現実ってのは厳しい。まるで歯が立たず気がつけば十年が経ってしまった。失われた十年なんてもんじゃない。三十を前にして一科目も受からない、破れ続けた泥沼の負け組人生だ。
    「それに比べて……」
     視線の先にあるのは、最年少で官報合格を決めた竹本龍桜なる人物の特集記事である。通常、税理士は幾つかの選択により五科目の合格が課されるが、この竹本は俺が税理士を勉強し始めた歳で、あろうことか一発合格を決めやがった。
    「けっ、妬ましいことこの上ない」
     俺はメガネの下から生意気そうな瞳をうかがわせる竹本の顔写真と記事をビリビリに破り捨てるや、夜空を仰ぐ。クリスマス一色のイルミネーションも、俺には虚しさのみが先行した。
     お先真っ暗な俺は、大阪の街を漂い続ける。己の無能さにほとほと嫌気が差した俺は、気がつけば展望台に登っていた。
     大きく溜息を吐いた矢先、それは起こった。もたれた柵が体重に支え切れず崩れ落ちたのだ。
     ──ヤバいっ……。
     我に帰るも時すでに遅し、俺は展望台から真っ逆さまに転落してしまった。
     
     ………
     ……
     …
     
     はたと気がついた俺は、自身の姿に愕然とした。
    「何だこれは!?」
     まるでファンタジーの主人公の様な姿をしている。それだけではない。水溜りに映る俺は、まさに十年前である二十歳手前の姿に戻っている。さらに周りをうかがうと、薄暗い洞窟が広がっていた。
     ──どう言うことだ!? 俺がいたのは、専門学校から離れた場所にある展望台だ。なのに今はファンタジーゲームにあるダンジョンのような世界にいる。
     状況が全く読めない俺は、はたと逃げ始めるコウモリに目を向ける。何かあったのか、振り返り空を仰ぎみて息を飲んだ。ドラゴンなるモンスターが現れ、こちらに襲いかかってきたのだ。
     ──危ないっ……。
     身をすくませる俺だが、突如、そのドラゴンの頭部が矢に貫かれた。たちまちドラゴンは地面へ叩き落とされる。
     そこへ二人の少女が現れた。一人は鎧姿の剣士だ。いかにも身軽といった風体で、やや日焼け気味な肌と黒いショートカットが実に似合っている。勝ち気そうな表情も、いかにもファイターといった感じだ。
     対してもう一人は武道家らしい。真っ赤な武道着を身にまとい、利発そうな表情もポイントが高い。剣士より若干茶髪で少し長めのショートを靡かせる姿は、実にボーイッシュだ。
     共通しているのは、ともに今の俺と歳が変わらなさげな点だ。二人は仕留めたドラゴンにとどめを刺すや、屍から素材を剥ぎ取りつつ、こちらをうかがっている。
    「アンタ。その格好、アレか? 最近、現れた革命的な……ゾラ、なんて言ったっけ?」
    「魔法使い、でしょ。ソフィア姉」
    「あぁ、そいつだ」
     察するに双子らしい。ソフィアとゾラなる二人は、こちらを不思議そうに眺めている。
     俺は唖然としつつ、状況を説明した。自分がいたのは、こんなゲームのような異世界ではない。何かの拍子に迷い込んでしまったらしい、と。
     俺の説明に二人は、声をあげてケラケラ笑った。
    「何だよ、それは」
    「まぁ、いいじゃん。ソフィア姉、この変な子もパーティーに加えよう。まずは腹ごしらえ」
     二人は仕留めたばかりのドラゴンを捌き、焚き火をおこすやステーキを焼き始めた。その一方で俺にこの世界のことを話していく。
     なんでもこの世界に突如、〈魔法〉なる力が発見されたらしい。体内に宿る魔術の基礎エネルギー〈マナ〉を呪文で燃焼させ、炎や氷といった超常現象を引き起こす。
     実に便利な力なのだが、あろうことかその鍵とされるイリア姫がこの世界の創世主を名乗る魔王に攫われてしまったという。
     これを受けオハラ王子は、預言書に記された五人の救国戦士を募った。二人はその一角をなす存在だという。
    「うちらはな。二人でセットの双子なんだ。今、オハラ王子の命を受け残りの四人を探している」
    「てっきりアンタかと思ったけど、違うみたいね」
     二人は、ドラゴンステーキを頬張りつつ、屈託のない笑顔を向ける。さらにオハラ王子から託された任務書も見せてくれた。徐ろに目を通した俺は思わず心の声を上げる。
     ──これ……五人の救国戦士って、思いきり税法五科目キャラじゃないか!
     俺は焚き火に興じるソフィアとゾラに再び目を走らせる。勘が正しければ、剣士ソフィアは相続税キャラであり、武道家ゾラはその補完税たる贈与税キャラだろう。
     まさに一税法二税目をなす資産税コンビだ。となると残りの四人のメンツは法人税キャラ、所得税キャラ、消費税キャラ、もしくは会計キャラとなる。
     さらにその預言書だが、中身を見るとまるっぽ日本の戦後税制を担う報告書である。なぜそんなものがこの異世界の基礎になっているのか、皆目、見当がつかない。
     ──何なんだ、この税法魔術ワールドは!?
     疑問符だらけの俺は、二人に言われるがまま焚き火の前で食事を済ませ、ダンジョンをともに探索していく。ただの洞窟ではない。かつて、盗賊団が存在した謎多きダンジョンらしい。
     当然、その中にお宝なり救国戦士の手がかりなりがあるはずなのだが、それらしきものは見当たらないようだ。
    「ちょっとどうなってんのよ。このダンジョン」
     不服を漏らすソフィアだが、ここでパーティーに加えられた俺の勘が働く。
    「ソフィア、ゾラ、ちょっと待って」
    「ん?」「なんだよ、志郎?」
     立ち止まる俺に二人は怪訝な顔を向けている。俺は構わず仮説を述べた。
    「このダンジョン。多分、トラップだ」
    「だろうね」
     ソフィアが同調する。これだけ探しても見当たらない上に出口すら無くなっている。明らかにこちらの体力がなくなるとを待っているとしか思えない。
     弱ったところを仕留めようと言う意図がありありとうかがえた。となれば、ダンジョンの謎を解くしかない。
     ゾラが持つマップに記された数値を凝視した俺だが、はたと天啓が舞い降りる。
    「加重平均だ」
    「?」
     きょとんとする二人を前に俺は頭を働かせる。この加重平均とは、特定の数値に対して、他の数値よりも重要度が高いことを加味したデータセットの平均値を指す。
     一般的には統計分析や株式ポートフォリオに用いられ、税法においては資産税で、正面路線に二以上の路線価が付されている場合の宅地評価に用いられる計算技能である。
     これを元に俺はマップに記された数値に修正を加えた。その上で再度ダンジョンを探索し直すと驚くなかれ、あるべき通路が目の前に開けた。
    「凄い志郎……」「アンタ、なんでそんな計算テクニックを持ってんのよ!?」
     目を見開く二人に俺の心境は複雑だ。税理士の試験項目で垣間見る概念なのだが、どうやらこの魔法ファンタジーでも通じるらしい。
     何はともあれ開けた活路を進もうとする俺達だが、何やら様子がおかしい。剣士ソフィアが匂いで嗅ぎ分け吠えた。
    「敵よ!」
     その言葉とともに遺跡のあらゆる箇所から、なりを潜めていたモンスターがゾロゾロと現れた。いかにもハイエナといった風体で、実に狡猾そうな目をギョロリとさせ、俺達に襲いかかってくる。
     とても相手し切れる数ではない。
    「ゾラ、志郎、走れ!」
     ソフィアの号令とともに俺達は、ダンジョンを駆け抜ける。
     途中、いくつか食いつかれつつもソフィアの剣とゾラの拳骨で攻撃を払い、遺跡の中でも個室と思しき場所へと飛び込み扉を締めた。
     ──助かった……。
     安堵のため息にくれる俺は、安堵しつつ改めて入ったばかりの個室をうかがう。見ると中央に祭壇らしきものが据えられ、青い焔が灯されている。
     俺達は慎重にトラップを警戒しながら、その焔の前へと歩み寄った。そっと手を触れた途端、突如として異変が生じる。部屋が真っ暗闇に変わり青い焔が人型を形成したのだ。
     俺達が警戒する中、その人型の焔は実に砕けた口調で話しかけてきた。
    「お待ちしてやしたで、ダンナ。あっしは漆黒の闇より生まれし青き焔、シャウプっす。勇者殿」
     ──勇者?
     首を傾げ周り見渡す俺にゾラが言う。
    「志郎、アンタのことでしょ」
    「へ? この俺が勇者だって!?」
     思わず素っ頓狂な声を上げる俺に、シャウプは続ける。
    「勇者志郎、アンタは異世界より現れし二人のうちの一人だ。元の世界へ戻らんとするなら五人の救国戦士を集め、この魔法革命を勝利に導くことっすね」
    「おいちょっと待って、シャウプとやら。一体どういうことなのか、さっぱりだ。第一、この世界に紛れ込んだ二人って何だよ。もう一人って誰さ?」
    「この世界の創生主、タケモトっすよ」
     ──タケモト?
     俺はその名を口ずさみ、はっと息を飲んだ。
    「まさか、五科目一発合格者のあの竹本龍桜か!?」
    「いかにも。あっしらはあの方こそが真の勇者と信じて疑わなかった。だが違った。あの方はあろうことか魔王となり、この世界を滅ぼそうとしているっす」
    「だとして、だ。なんでもう一人が俺なんだよ!? まだ一科目も受かっていないんだぜ」
    「だからこそ、っすよ。ノーマークで手頃。神輿は軽くてパーがいい」
     流石の俺もこれには、カチンとした。詰め寄る俺にシャウプは「冗談っす」と、言い訳がましくも俺の両肩を掴む。
    「へへっ……勇者殿、期待してるっすよ」
     たちまちシャウプは姿をくらませる。残された俺はソフィアとゾラを前に頭を抱えた。
     ──何が勇者だ。要するに使いパシリじゃねぇか。
     憤慨する俺を二人は声をあげて笑う。
    「シャウプの言うとおりだ。志郎は勇者に適任だよ」
    「私も同感。志郎、アンタはこの世界を託されたの。期待してるわよ」

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