【新企画】税法を萌えキャラで擬人化した動画小説
【新企画】税法を萌えキャラで擬人化した動画小説
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一井 亮治により17時間、 39分前に更新されました。
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第一話 プロローグ
俺は桜井志郎、いわゆる税理士浪人だ。大学進学とともに勉強を始め、この難関資格への挑戦を始めた。
だが、現実ってのは厳しい。まるで歯が立たず気がつけば十年が経ってしまった。失われた十年なんてもんじゃない。三十を前にして一科目も受からない、破れ続けた泥沼の負け組人生だ。
「それに比べて……」
視線の先にあるのは、最年少で官報合格を決めた竹本龍桜なる人物の特集記事である。通常、税理士は幾つかの選択により五科目の合格が課されるが、この竹本は俺が税理士を勉強し始めた歳で、あろうことか一発合格を決めやがった。
「けっ、妬ましいことこの上ない」
俺はメガネの下から生意気そうな瞳をうかがわせる竹本の顔写真と記事をビリビリに破り捨てるや、夜空を仰ぐ。クリスマス一色のイルミネーションも、俺には虚しさのみが先行した。
お先真っ暗な俺は、大阪の街を漂い続ける。己の無能さにほとほと嫌気が差した俺は、気がつけば展望台に登っていた。
大きく溜息を吐いた矢先、それは起こった。もたれた柵が体重に支え切れず崩れ落ちたのだ。
──ヤバいっ……。
我に帰るも時すでに遅し、俺は展望台から真っ逆さまに転落してしまった。
………
……
…
はたと気がついた俺は、自身の姿に愕然とした。
「何だこれは!?」
まるでファンタジーの主人公の様な姿をしている。それだけではない。水溜りに映る俺は、まさに十年前である二十歳手前の姿に戻っている。さらに周りをうかがうと、薄暗い洞窟が広がっていた。
──どう言うことだ!? 俺がいたのは、専門学校から離れた場所にある展望台だ。なのに今はファンタジーゲームにあるダンジョンのような世界にいる。
状況が全く読めない俺は、はたと逃げ始めるコウモリに目を向ける。何かあったのか、振り返り空を仰ぎみて息を飲んだ。ドラゴンなるモンスターが現れ、こちらに襲いかかってきたのだ。
──危ないっ……。
身をすくませる俺だが、突如、そのドラゴンの頭部が矢に貫かれた。たちまちドラゴンは地面へ叩き落とされる。
そこへ二人の少女が現れた。一人は鎧姿の剣士だ。いかにも身軽といった風体で、やや日焼け気味な肌と黒いショートカットが実に似合っている。勝ち気そうな表情も、いかにもファイターといった感じだ。
対してもう一人は武道家らしい。真っ赤な武道着を身にまとい、利発そうな表情もポイントが高い。剣士より若干茶髪で少し長めのショートを靡かせる姿は、実にボーイッシュだ。
共通しているのは、ともに今の俺と歳が変わらなさげな点だ。二人は仕留めたドラゴンにとどめを刺すや、屍から素材を剥ぎ取りつつ、こちらをうかがっている。
「アンタ。その格好、アレか? 最近、現れた革命的な……ゾラ、なんて言ったっけ?」
「魔法使い、でしょ。ソフィア姉」
「あぁ、そいつだ」
察するに双子らしい。ソフィアとゾラなる二人は、こちらを不思議そうに眺めている。
俺は唖然としつつ、状況を説明した。自分がいたのは、こんなゲームのような異世界ではない。何かの拍子に迷い込んでしまったらしい、と。
俺の説明に二人は、声をあげてケラケラ笑った。
「何だよ、それは」
「まぁ、いいじゃん。ソフィア姉、この変な子もパーティーに加えよう。まずは腹ごしらえ」
二人は仕留めたばかりのドラゴンを捌き、焚き火をおこすやステーキを焼き始めた。その一方で俺にこの世界のことを話していく。
なんでもこの世界に突如、〈魔法〉なる力が発見されたらしい。体内に宿る魔術の基礎エネルギー〈マナ〉を呪文で燃焼させ、炎や氷といった超常現象を引き起こす。
実に便利な力なのだが、あろうことかその鍵とされるイリア姫がこの世界の創世主を名乗る魔王に攫われてしまったという。
これを受けオハラ王子は、預言書に記された五人の救国戦士を募った。二人はその一角をなす存在だという。
「うちらはな。二人でセットの双子なんだ。今、オハラ王子の命を受け残りの四人を探している」
「てっきりアンタかと思ったけど、違うみたいね」
二人は、ドラゴンステーキを頬張りつつ、屈託のない笑顔を向ける。さらにオハラ王子から託された任務書も見せてくれた。徐ろに目を通した俺は思わず心の声を上げる。
──これ……五人の救国戦士って、思いきり税法五科目キャラじゃないか!
俺は焚き火に興じるソフィアとゾラに再び目を走らせる。勘が正しければ、剣士ソフィアは相続税キャラであり、武道家ゾラはその補完税たる贈与税キャラだろう。
まさに一税法二税目をなす資産税コンビだ。となると残りの四人のメンツは法人税キャラ、所得税キャラ、消費税キャラ、もしくは会計キャラとなる。
さらにその預言書だが、中身を見るとまるっぽ日本の戦後税制を担う報告書である。なぜそんなものがこの異世界の基礎になっているのか、皆目、見当がつかない。
──何なんだ、この税法魔術ワールドは!?
疑問符だらけの俺は、二人に言われるがまま焚き火の前で食事を済ませ、ダンジョンをともに探索していく。ただの洞窟ではない。かつて、盗賊団が存在した謎多きダンジョンらしい。
当然、その中にお宝なり救国戦士の手がかりなりがあるはずなのだが、それらしきものは見当たらないようだ。
「ちょっとどうなってんのよ。このダンジョン」
不服を漏らすソフィアだが、ここでパーティーに加えられた俺の勘が働く。
「ソフィア、ゾラ、ちょっと待って」
「ん?」「なんだよ、志郎?」
立ち止まる俺に二人は怪訝な顔を向けている。俺は構わず仮説を述べた。
「このダンジョン。多分、トラップだ」
「だろうね」
ソフィアが同調する。これだけ探しても見当たらない上に出口すら無くなっている。明らかにこちらの体力がなくなるとを待っているとしか思えない。
弱ったところを仕留めようと言う意図がありありとうかがえた。となれば、ダンジョンの謎を解くしかない。
ゾラが持つマップに記された数値を凝視した俺だが、はたと天啓が舞い降りる。
「加重平均だ」
「?」
きょとんとする二人を前に俺は頭を働かせる。この加重平均とは、特定の数値に対して、他の数値よりも重要度が高いことを加味したデータセットの平均値を指す。
一般的には統計分析や株式ポートフォリオに用いられ、税法においては資産税で、正面路線に二以上の路線価が付されている場合の宅地評価に用いられる計算技能である。
これを元に俺はマップに記された数値に修正を加えた。その上で再度ダンジョンを探索し直すと驚くなかれ、あるべき通路が目の前に開けた。
「凄い志郎……」「アンタ、なんでそんな計算テクニックを持ってんのよ!?」
目を見開く二人に俺の心境は複雑だ。税理士の試験項目で垣間見る概念なのだが、どうやらこの魔法ファンタジーでも通じるらしい。
何はともあれ開けた活路を進もうとする俺達だが、何やら様子がおかしい。剣士ソフィアが匂いで嗅ぎ分け吠えた。
「敵よ!」
その言葉とともに遺跡のあらゆる箇所から、なりを潜めていたモンスターがゾロゾロと現れた。いかにもハイエナといった風体で、実に狡猾そうな目をギョロリとさせ、俺達に襲いかかってくる。
とても相手し切れる数ではない。
「ゾラ、志郎、走れ!」
ソフィアの号令とともに俺達は、ダンジョンを駆け抜ける。
途中、いくつか食いつかれつつもソフィアの剣とゾラの拳骨で攻撃を払い、遺跡の中でも個室と思しき場所へと飛び込み扉を締めた。
──助かった……。
安堵のため息にくれる俺は、安堵しつつ改めて入ったばかりの個室をうかがう。見ると中央に祭壇らしきものが据えられ、青い焔が灯されている。
俺達は慎重にトラップを警戒しながら、その焔の前へと歩み寄った。そっと手を触れた途端、突如として異変が生じる。部屋が真っ暗闇に変わり青い焔が人型を形成したのだ。
俺達が警戒する中、その人型の焔は実に砕けた口調で話しかけてきた。
「お待ちしてやしたで、ダンナ。あっしは漆黒の闇より生まれし青き焔、シャウプっす。勇者殿」
──勇者?
首を傾げ周り見渡す俺にゾラが言う。
「志郎、アンタのことでしょ」
「へ? この俺が勇者だって!?」
思わず素っ頓狂な声を上げる俺に、シャウプは続ける。
「勇者志郎、アンタは異世界より現れし二人のうちの一人だ。元の世界へ戻らんとするなら五人の救国戦士を集め、この魔法革命を勝利に導くことっすね」
「おいちょっと待って、シャウプとやら。一体どういうことなのか、さっぱりだ。第一、この世界に紛れ込んだ二人って何だよ。もう一人って誰さ?」
「この世界の創生主、タケモトっすよ」
──タケモト?
俺はその名を口ずさみ、はっと息を飲んだ。
「まさか、五科目一発合格者のあの竹本龍桜か!?」
「いかにも。あっしらはあの方こそが真の勇者と信じて疑わなかった。だが違った。あの方はあろうことか魔王となり、この世界を滅ぼそうとしているっす」
「だとして、だ。なんでもう一人が俺なんだよ!? まだ一科目も受かっていないんだぜ」
「だからこそ、っすよ。ノーマークで手頃。神輿は軽くてパーがいい」
流石の俺もこれには、カチンとした。詰め寄る俺にシャウプは「冗談っす」と、言い訳がましくも俺の両肩を掴む。
「へへっ……勇者殿、期待してるっすよ」
たちまちシャウプは姿をくらませる。残された俺はソフィアとゾラを前に頭を抱えた。
──何が勇者だ。要するに使いパシリじゃねぇか。
憤慨する俺を二人は声をあげて笑う。
「シャウプの言うとおりだ。志郎は勇者に適任だよ」
「私も同感。志郎、アンタはこの世界を託されたの。期待してるわよ」Attachments:
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第二話 一体化魔術
訳の分からないうちに勇者に祭り上げられた俺だが、気分は複雑だ。そんな中、ソフィアとゾラに連れられた俺は、船を借りるべく港町の豪商コルネオの邸宅に赴いている。
何でもソフィアの知り合いらしい。宴会となる中、ソフィアは剣の舞いを披露し始めた。
「ちょっとしたもんでしょう」
不意にかかる声に振り返ると、隣席に一人の青年が座っている。金髪青眼の整ったなりを見た俺は、首を傾げる。
──なんだ。バイトか? にしては、妙に品があるというか風格が漂っているというか……。
そんな俺にゾラがそっと小声で口添えする。
「志郎、この人がオハラ王子なんだよ」
「えぇっ、や、でもここって城外だろう」
「色々事情があるのさ」
ゾラの言葉にオハラ王子は苦笑を交え、俺に話しかける。
「異世界から来たそうじゃないか。なんでも科学なんて迷信に基づいた社会だとか」
「や、迷信というか……まぁ、そうです」
「志郎。今、この世界は魔法の誕生で大混乱だ。騎士道に基づく世界に突如、現れたゲームチェンジャー、この魔術を前にすれば名だたる騎士もただの甲殻類さ。で、志郎。君はこの魔法に対して妙に勘がいいらしい」
「それが俺もよく分からなくて……」
困惑する俺は改めて考える。なぜかこの魔法とやらは、俺がいた世界の税法と相通ずるものがある。もっとも合格まで至らない程度の知識だ。専門と称することは、憚れた。
「謙遜しなくていい。是非、魔王にさらわれたうちの妹を取り戻して欲しい」
オハラ王子が懇々と説くように俺に話しかける。俺も意に沿うように会話を続けたのだが、そこに妙な親近感を覚えた。
その後、雑談を終え、隣席をたった俺だが、気分は悪くない。
「なんというか、随分、気さくな人だな」
話しかける俺にゾラが「当然さ」と応じた。何はともあれ、俺の勇者としての首実験は成功したらしい。もし五人(残り四人だが)の救国戦士を集めることに成功すれば、元の世界へ戻れるよう協力してくれるという。
──頼もしい限りだ。
俺は安堵のため息にくれつつ、酒を片手にステージで剣の舞いを続けるソフィアに目を向けた。
──相続税を模した剣士キャラ、か……。
改めてそのプロフを確認する。
通説として相続税には、二つの考え方が存在する。まず遺産全体に課し、残りを相続人に分配する方式と、各相続人の取得した財に課し、各々が取り分に対し個別に納税する方式だ。
で、日本が採用するのは、双方を組み合わせたハイブリッド方式だ。これが攻めと守りを組み合わせて戦う、大胆にして繊細なソフィアの剣技と実にマッチしている。写し鏡かと思わせるほどだ。
──それにしても、一体、誰がなぜこんな税金ファンタジーな世界が……。
宴会の後、与えられたベッドで頭を働かせる俺だが、何分、酒が回っている。疲れたこともあり、いつしかぐっすり眠ってしまった。
どれほど時間が経過しただろう。はたと目を覚ました俺は、布団から跳ね起きる。そこが豪商コルネオの邸宅であることを確認し、ほっと安堵のため息をついた。
──夢、か……。
俺は額の汗を拭う。強烈な夢だった。祖国日本が滅亡する悪夢である。俺は頭を冷やすべく寝床を離れ外へ出る。夜の潮風に吹かれながら、考えに耽り始めた。
──もしかしたら、この異世界と元の世界は連動しているのかもしれない。
そんな気がしてならないのだ。まさに税は国家なり、活動の基本である。ここが腐れば国は滅ぶ。俺はこの世界を創世したとされる魔王・竹本龍桜について考えを巡らせる。
──一体、奴の真の狙いは何なんだ。
この答えの出ない謎について、俺は堂々巡りを繰り返した。
翌朝、俺達は晴れ渡る青空の下、新たな船出とあいなった。全ての船荷を積み込んで出航するのは、ニーナクル・ピンタ号だ。朝日に照らされ順風満帆に進む様は実に壮観である。
甲板で潮風に吹かれつつ、俺はボロボロの地図を片手に行き先について考えている。オハラ王子お抱えの占い師によれば、東方に救国戦士が現れる兆候あり、と出た。
ゆえに船旅となったのだが、だだっ広い海を前にすると、どこか気が大きく晴れるものを感じている。
そんな俺に話しかけるのは、ゾラだ。格闘娘だけあって、うずうずする武者奮いを抑えられないらしい。俺は改めてこの贈与税キャラに問うた。
「ゾラ、お前はソフィアを補完するニコイチの存在だよな」
「そりゃそうさ。ソフィア姉とは双子なんだから」
「だとしてだ。自身の役割をどう思う?」
この問いにゾラはしばし考えた後、こう答えた。
「本当はソフィア姉と一体化するのがいいんだろうね」
「だよな」
俺は改めてうなずく。念頭にあるのは、相続税と贈与税の一体化課税である。高齢世代に資産が偏在し、若輩世代へのシフトが進まない中、その活性化を狙った考え方なのだが、これがソフィアとゾラのファイティングスタイルに酷似している。
──ソフィアが剣技で打ちもらした敵を、ゾラが肉弾戦で撃退する。まさにニコイチの連携プレイ、一体化したコンビネーションじゃないか。
ちなみに相続税法という法律あっても贈与税法というものはない。あくまで補完税に過ぎないのだが、これがソフィアの黒子に徹するゾラを同じ立ち位置だ。
──果たしてこの蜜月関係に楔が打たれることはあるのだろうか。
そんな疑問を抱きつつ、俺はまだ見ぬ新たな大陸へと思いを馳せた。
航海が三日目を迎えている。かなり船旅に慣れてきた俺だが、ここで一つの試練を迎えることとなる。
その日は快晴で波も穏やかと何ら不安要因などなかったのだが、突如、秩序が破られた。大きく揺れるニナピンタ号にひっくり返った俺は、何事かとよろよろ立ち上がり甲板に出る。
そこで息を飲んだ。見たこともないようなサイズの大ダコが、図太く長い足でニナピンタ号に絡みついている。
「ソフィア、ゾラっ!」
吠える俺に二人が駆けつけ顔色を変えた。
「何さ、アレは!」「大ダコ!?」
声を上げる二人だが、驚く時間も残されていない。反撃に出るクルーを次々と絡め取り海に放り投げるや、ニナピンタ号そのものを海中へと引き摺り込もうとしている。
──マズいっ……。
応戦する俺達だが、いかんせん焼石に水だ。あまりにサイズもパワーも違い過ぎる。斧を振り回しつつ、俺は二人に叫んだ。
「ソフィア、ゾラ、こうなったらアレをやれ!」
「え、や、待ちなよ」「それって今!?」
「決まってるだろう。今、使わずにいつ使うのさ」
吠える俺に二人は目配せし合う。相続と贈与の一体化課税については、先に述べた。今、行おうとしているのは、この税制と同じく二人の連携プレイを完全に一体化させる必殺技だ。
仮説が正しければ、大ダコへ乾坤一擲の一撃となる。
「分かったけど志郎、準備に時間が……」
「俺が稼ぐ。このモンスターに目にものを見せてやってくれ」
俺の叫びにソフィアはうなずくや、ゾラと共に精神を集中し始める。無論、その間も大ダコの襲撃は続く。俺やクルーをものともせずに暴れまくる大ダコに対し、いかに時間を稼ぐか──必死に頭を働かせる俺の視界に火薬の詰まった樽が入った。
──あれだっ!
我先にその樽へと駆け寄る俺だが、いかんせん相手が悪い。途上で大ダコに見事に足をすくわれ、甲板へと叩きつけられた。
──くそっ……。
毒気づく俺は四肢に絡みつく大ダコの足を切り落とそうとするものの、圧倒的な力の差を前に自由がままならず、ズルズルと海へ引きずられていく。
「マズいっ……」
焦る俺を嘲笑う大ダコ、それはもはや戦いではない。一方的な蹂躙だ。活路を求めた火薬樽自体も大ダコの長い足で巻き取られてしまった。
──万事休す、か……。
忸怩たる思いで唇を噛む俺だが、どういうことか火薬樽が爆発した。どうやら何かの偶然で誘爆したらしい。樽の破裂を受け、大ダコの攻撃が怯んだ。
「今だ。ソフィア、ゾラ」
「オッケー」「お待たせよ」
二人は大いに返答しつつ、一体化魔法の呪文を誦じた。その途端、一帯の空気が変わった。ゾラを取り込み一体化したソフィアが、まるで誕生したての小宇宙の如く狂戦士と化したのだ。
ゾッとするような冷酷さを秘める瞳で暴れるソフィアに、大ダコの図太い足は次々に寸断されていく。
──凄いっ。これが覚醒した魔法の……一体化課税の威力……。
言葉を失うのは、俺だけではない。周りのクルーも唖然と口を半開きにしている。もはや戦闘ではない。虐殺である。
やがて、ソフィアは大ダコの足だけでは飽き足らず、海中から晒す頭に向けて強烈な一撃を放っていく。それも大ダコが苦しむ様を嘲笑うが如く、だ。
俺の背筋にゾクっと寒いものが走った。
──確かに一体化の力は凄まじい。だが、この暴走具合はどうだ。どうやらこの世界はパンドラの箱を開けちまったみたいだな。
楽しむが如く大ダコの命を絶ったソフィアを見届けた俺は、一体化解除の呪文を唱える。
するとソフィアの肉体はゾラと分離し、元の二人へと姿を戻した。秩序が戻った甲板で健闘を讃える拍手が起きる。俺も二人の奮闘に手を叩きつつ、魔法が持つ力の恐ろしさに改めて戦慄を覚えていた。Attachments:
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第三話 デューデリジェンス魔術
大ダコとの戦いを制した俺達だが、船の損傷は著しく、一旦、修理を兼ねて中継ぎ貿易港にアンカーを下ろすこととなった。
その間、陸地に足を踏み入れた俺はゾラと、かつて彼女が師と仰いでいたハミルトンのジムを訪れる。齢四十と言ったところか。未だに現役にこだわる姿勢はさるものだ。
だが、歳には勝てない。スパーでもたちまちゾラに圧倒されてしまった。
「ゾラ、もはや教えることは何もない。免許皆伝だ」
ハミルトンの言葉に礼を述べたゾラは一人、シャドーへと入っていく。その鬼神の如き動きを眺めつつ、俺は思った。
──案外、プロでもやっていけるんじゃないか。
そう思わせるレベルには、達している。試しにプロになる気は無いのかを問うたのだが、答えは実にあっさりしていた。
「興味ない。それよりこれからは魔術よ。よく分かんないけど、志郎は異世界にいたんだよね。肉弾戦を主とする私のファイティングスタイルに合った方法ってない?」
「んー……まぁ俺が知っている税法の計算技能に無くはない。〈五分五乗課税〉って分かるか?」
「知らない」
「いわゆる平均課税制度って奴だ。五分の一にして控除と低税率を適用し、五倍に戻し直す節税的なテクニックさ。これをこの異世界に当てはめると、かなりマナを節約出来る。俺がいた税法世界では廃止されたが、この魔法世界では有効なテクニックだと思うぜ」
「いいじゃん。やってみる。頼むよ」
ポンっと無造作に防具を渡された俺は、思わず言った。
「や、ちょっと待て。俺を練習相手にするのか!?」
「いーからさっさと防具をつけて」
とんだことに巻き込まれた俺だが、ゾラの旺盛な好奇心を止める事が出来ない。
──とんだ藪蛇だ。
俺は嘆きつつ、言われるがままにリングに上がり、スパーの相手を務めることとなった。
まさにボヤキのとまらない。だが、後々これに救われることとなる。
出航の準備が整った。晴れて再出発となった俺達は、意気揚々と船出する。目的地たるメゾリア大陸が迫る中、俺はソフィア、ゾラと話し合った。
「今一度、確認する。俺達は体内に宿るエネルギー・マナを呪文で燃焼させ、魔法なる超常現象を引き起こす。だが、マナの鍵を握るイリア姫が魔王に攫われ、これに立ち向かうべく預言書がうたう五人の救国戦士を募っている。だよな?」
「そうさ」「間違ってないよ」
同意する二人に俺はさらに続けた。
「以前、話したと思うが、別世界から来た俺にとってこの世界は、税法ワールドだ。税にまつわる知識が、こちらの世界の魔法革命を支えている。それはいいとして、俺は魔王タケモトの最終目的が気になる?」
「そりゃこの世界を支配下に置くことだろう」「私もそう思うよ」
うなずく二人に俺は腕を組み考える。どうも何か引っかかるものが感じられてならない。何か別の目的があるように感じられるのだ。
──何せ五科目を一発で決めた官報合格者だ。ただものとは思えない。必ず裏があるはず。
やや疑心暗鬼気味な俺だが、何はともあれ今は五人の救国戦士だ。メゾリラ大陸に着き次第、情報収集を考えていた。
さて、そのメゾリラ大陸に到着した俺達だが、何やら様子がおかしい。至る箇所から黒煙が上がり町が破壊されている。どうやら魔王軍の襲撃にあったようだ。
だが、陥落は免れたらしい。その原因を調べると、我らが求める二人目の救国戦士・ジークハルトにあるという。かなり腕の立つ魔法使い野郎で、もしこのジークハルトがいなければ、とっくにこの港町は陥落していたとのことだった。
──頼もしい。幸先がいいぞ。これなら二人目は楽勝だ。
安堵する俺はソフィアとゾラを引き連れ、ジークハルトなる魔法使いのもとを尋ねたのだが、甘かった。そもそも会おうとしない上に、あろうことか王国側にも魔王側にも付かず、独立を堅持するというのだ。
「おかしいね」
首を傾げるのは、ゾラだ。以前は独立に固辞する性格ではなかったという。俺達は怪訝に感じつつ、ジークハルトとの面会を諦め、街で調べを進めると人によって全く評価が異なっている。
ある者は独立心旺盛と評し、ある者は従順誠実という。さらに別のものは面従腹背とまで言ってのけた。この豹変ぶりに〈十面相〉なる二つ名がついたジークハルトだが、俺は確信を持って断言した。
「間違いない。所得税キャラだ」
というのも日本の所得税は、利子所得から雑所得に至るまで幅広く十種類に区分されている。
事業所得を実額経費にしたかと思えば、給与所得を概算経費にしたり、退職所得のような長年の勤務対価を鑑み軽減したかと思えば、資産売却に見る譲渡所得の如く一時的に高額となることから他の所得と区分したり、といった具合だ。
つまり、たとえ今、断られたとしてもいずれ豹変し、俺達に靡くことも十分に考えられる。よって、俺達は焦ることなく、待つこととに決めた。
無論、その間は街の復旧にも尽力する。覚えがよくなれば、ジークハルトの心象が変わることもあり得る。動くときは動くが、待つとなれば腐るまで待つのが俺流である。
案の定、慈善活動に身を呈して三日後に、ジークハルトから知らせが入った。使いの者が切り出す。
「魔王軍が再度迫っています。それも魔王本人を引き連れて。ジークハルト様は任務のご依頼です。是非、魔王軍を偵察願いたい、と」
「偵察任務をこなせば、会わせてくれるんだな」
念を押す俺に使いの者は、肯定してみせた。となれば、あとは動くのみである。
「ソフィア、ゾラ、行こう」
立ち上がる俺に二人は、大いにうなずき、港町から偵察へと赴いて行った。
「あれが魔王軍か……」
偵察に赴いた俺達は、鉄壁の陣営を構築する敵軍に息を飲んだ。まさに大軍だ。流石のソフィア、ゾラも威容さを前に声を失っている。
──歩兵五万、魔術化師団二万に近衛が一万弱と言ったところか。しかも斥候対策が練られている。この難敵をどう偵察するか。ここは一つ、資産税キャラたる二人に評価をさせてみるか。
俺は言った。
「ソフィア、ゾラ、奴らを数だけなく戦力として把握したい。つまり、デューデリだ。やれるか?」
「構わないけど、どうやってさ」
「魔法でだ」
「無理」
即答するソフィアは、理由を説明した。曰く、距離が遠いと。敵戦力を性格に把握するには、かなり肉薄しなければならないらしい。
「じゃぁ、こういうのでどうだ?」
俺は作戦の全体像を晒していく。初めこそ神妙な顔つきでうかがっていた二人だが、最後には納得の表情に変わっている。
「よし、じゃぁ行こう」
俺は二人を引き連れ、魔王軍が展開する仮設陣地へと迫った。その上で門番を担う兵に背後から迫り、肩をポンポンっと叩く。
振り返り驚きの表情を見せる門番の声を封じるべく、ゾラに襲わせ気絶させた。これを三回程繰り返し、魔王軍の甲冑を調達するや、変装して陣地内へと忍び込む。
「どうだ。二人とも」
「オッケー」「完璧よ」
二人は快諾するや、次々と戦力を暴いていった。それは資産税の評価算定と似ている。路線価から宅地を、各指標と財務から株価を弾くが如く、綿密な兵力を割り出し暴いていく。
十分も立たないうちに完璧とも思える情報をすっぱ抜くことが出来た。
「いいぞ。十分だ。バレないうちにズラかろう」
小声で囁く俺に二人は同意する。だが、ここで最後に失態が出た。身ぐるみを剥がした門兵が他の兵に見つかったのだ。たちまち敵襲の笛が鳴り響く。
俺は舌打ちしつつ「ここは俺がひきつけるから」と二人に偵察情報を託す。
「ちょっと待ちなよ。いくら何でも」「そうよ。キケン過ぎる」
異議を唱える二人だが、何ぶん時間が残されていない。やむなく二人が去るのを見届けた俺は、囮として極力粘った上で陣地からの脱出を試みた。
だが、ことは簡単に運ばない。突如、背中に激痛が走った。見ると矢が甲冑を貫いている。たちまち鮮血が迸り、俺は激痛に喘ぎながら包囲する魔王軍に連行されていった。Attachments:
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