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一井 亮治
参加者

     第二十三話

     クリスタルが示した時空――それは、平安時代の絶頂期だ。その最たるが一家立三后を擁し、権勢の全てを手中に収めた藤原道長である。だが、その道長は今、病に伏している。
     そこへ突如として桜子が放り込まれた。驚く道長だが、その面影にかつての出会いを思い出し、苦笑した。
    「そなたは、確か桜子だったな。肝試しのときといい、望月の歌のときといい、いつも突然に現れる」
    「毎度、スミマセン。お身体は大丈夫ですか?」
    「ふっ、いくら私でも寿命には、勝てん。私の時代も終わる」
     どうやら道長は、すでに覚悟を決めているようだ。夢でも見ているかのようであったと人生を振り返りつつ、桜子に言った。
    「大いに繁栄を築いた我が一族だが、おそらく今が旬だろう。つまり、腐りかけだ。時代が変わる。貴族の世が終わり、武士の世となろう」
     自嘲する道長だが、事実、長男の頼通の世では国司の租税取り立てに対する不満から反乱が勃発し、長期化する。
     頼ったのは、河内源氏の祖となる源頼信だ。もはや武士の力を頼る以外に道はなくなっていく。
     それは権力の裏付けが、高貴な血筋から武力へと変わりはじめたことを意味している。
    「それでいい……そうやって歴史は進んでいくのだ。一時代を築けたことを私は光栄に思う」
    「道長さんは、自分の時代が終わることに憤りはないのですか?」
    「あろうはずがない。思えば我が世は権謀術数に明け暮れた時代だった。皆で教養を競ったものだ。これが武に変わる。フフッ、実に愉快だ……」
     道長は、まんざらでもなさげだ。それは、藤原氏の世がピークを越した瞬間であり、次の時代の幕開けでもある。
    「桜子、君は確か源氏の末裔だったな」
    「はい。正直、あまり自覚はないんですけど」
    「フフッ……よかろう。先駆者として一言贈ろう。背後に御用心――健闘を祈る」
     それだけ述べるや、道長は口を閉じた。

     道長の最期を看取った桜子だが、外に出ると京子とシュレが待っていた。
    「桜ちゃん。心配したよ」
    「どうやら無事のようだね」
     声をかける二人に桜子は、笑みで応じつつ考えている。これまで見てきた歴史で、租税はどの時代もアキレス腱であった。同時に国家が体をなす根源でもある。
    「ねぇシュレ。福沢諭吉さんは租税を国民と国との約束と表現していた。卑弥呼さんは、稲作がもたらす格差を是正する所得再分配を説いた。セツナに至っては、無税国家論構想よ。理想の税制って何なのかな?」
    「フフッ、桜子の言いたいことは、よく分かるよ。だが、性急な税制は中立性と経済実態を大いに歪める。簡単じゃないさ」
     まとめるシュレに京子も続く。これは国家を運営する上で永遠のテーマであろう、と。
     ――歴史に学び時代を読む。時空を超えた先にある答えを私は知りたい。
     桜子はそんなことを思いつつ、シュレや京子とともに現代へと戻って行った。

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